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山本耕史26年ぶり「RENT」回帰「僕の今をつくっている」ブロードウェーミュージカルに「まさか」

日刊スポーツ 2024年8月18日 8時0分

俳優山本耕史(47)が出演するブロードウェーミュージカル「RENT」(21日~9月8日、東京・東急シアターオーブほか)がまもなく開幕する。山本が26年前に主演し、今の自分をつくったと語る作品で、今度は全編英語、日米キャスト版となる。前回出演で受けた衝撃や苦しみ、今後への思いを語った。【小林千穂】

★98年日本初演で主演

ニューヨークの若者たちの群像劇、「RENT」。96年にブロードウェーで初演され、98年には日本版が初演された。その日本初演版の主演が山本だった。貧困、マイノリティー、性的少数者を描き、ロック、クラシック、ポップスとさまざまなジャンルの楽曲で彩られている。初演から現在に至るまで、世界のどこかで上演が続いている。

「僕の今をつくっているのは、本当に『RENT』が大きいんです。ここまでやってこられたのは、半分は『RENT』の力です。自分の中では大きな作品でしたが、一生やることはないと思っていました。出演することになって、まさか、というのが率直な感想でした」

26年前と違うのは、全編英語で、キャストも日米合同ということ。

「ストーリーは、この体の中にもちろん入っているのでゼロ出発ではないんですが、海外のキャストに交ざるという、違う角度からの出発ですかね」

英語に感情を乗せる難しさがあるのかと聞くと、そうではないという。

「感情は棒読みでも乗るんです。せりふを棒読みで言っても、伝わるものは伝わる。静かに淡々としゃべる方が感動を与える場合もあるし、泣き叫んで何かを訴えかければいいというものでもないと僕は思うんです。感情に言葉の壁はないと思っています」

26年前と同じくマークという青年を演じる。皆を俯瞰(ふかん)的に見ている立場で、観客の視点、感情と重なる部分が出てくる。それだけに難しさもある。プレッシャーを乗り越える方法はいたってシンプル。

「何回も練習するしかないです。それが一番の近道です。何度も何度も練習することで、言いにくいせりふもちょっと言えるようになってきたかなって。とにかくやり抜くしかないです」

★俳優、役者として転機

初演の「RENT」に大きな衝撃を受けた。大きな劇場で上演されるミュージカルは、オーケストラによる壮大な楽曲が使用される作品が多かった時代だ。

「当時は、グランドミュージカルがほぼほぼ占めていたんです。楽曲もクラシカルで、旋律的にすごく高度で難しかった。だから、ミュージシャンばっかりのキャストで、ロックがある作品ってすごくびっくりしたんです。ロックアーティストの1枚のアルバムとして最初から最後まで聞けちゃう曲が並んでいて、とても衝撃でした。『RENT』がスマッシュヒットして、いろんなものを打ち壊していったと思います」

出演したことは、俳優、役者としての転機になり、原点になった。

「自分の理想、やるべきものははっきりしたのかな。僕は違う作品でもずっと『RENT』をやってた気がするな」

作品の魅力に触れ、衝撃と刺激を受けた分、その後の苦しみも味わった。

「この作品をやったことで、これは違う、これは合ってるという判別がつくようになった。でも、そのことが自分を苦しめるようにもなった。あれもこれも、全部違うってなっちゃった。『RENT』には、音楽も物語もすべてがあったんだと思います」

やりたいものに出会えないともがく時間は続いたが、感謝の気持ちが大きい。

「けっこう苦しい時期は続きましたけど、21歳でそんな作品に出会えたことで、今の自分があると思っています」

もし出演していなかったら?

「もう辞めてるか、やってないか、ですね。もしくはもっとフレキシブルにいろんなものをやってたかもしれないです」

乗り越えられたのは時間だったという。15年に元女優堀北真希さんと結婚し、2人の子供をもうけた。

「年をとって、結婚して、子供ができてということがあって、自然にかな。もがき苦しみながら年とって、時間もたって、これはあんまりずっと考えててもどうにもならないし、仕方のないものだなぐらいな感じで、自然にですね」

★終着点も明らかになる

若い時から米国に短期で滞在したり、レッスン、独学も含め、断続的に英語を学んできた。

「言いたいことを言えたりするくらいの程度ですけど、ちゃんと聞けるかといえば『もう1回言って』みたいな感じですよ(笑い)。共演者のみんなに自分の言葉で何か言えた方がいいだろうなと思ったりもしますけど、せりふに集中しようかなと思ってます。せりふは、会話の先生に聞いてもらったりして、いろんなパターンを試しました」

再びの出演には自然体で向き合う。

「前回やってその後苦しんだってことは、今回、また苦しむ可能性もあるのかなとも思います。また出発点に戻っちゃって、その後どこに俺は向かえばいいのかなみたい気持ちになります。でももうすぐ50歳なので、いろんなことを追い求めて…とかいう自分じゃなくなるのかもしれない」

自分が追い求める何かを、山本自身で作る可能性も示唆した。

「まあまあ、そういう思いももちろんありますよ。具体的にどうやって、じゃあ、どういうものを、誰とどのタイミングで、どういう形で? というのは漠然とあるようでないみたいな感じです」

10月には48歳になる。

「年齢関係なく、何かをやるんだったら、早めにやった方がいいなって思ってます。『RENT』が終わって、ひとつの終着点も明らかになると思うので、そっからのことは、なんかゆっくり考えようかな」

▼「RENT」を演出するトレイ・エレット氏

彼はとても仕事熱心で、感銘を受けました。以前に同じ役を演じていたとはいえ、英語で演じなければならないというのは、大変なことだと思います。彼はこの挑戦に、勇敢にそしてプライドを持って挑んでいて、共演者たちはみな彼を尊敬し、サポートしています。この重要な役柄に、彼以上の俳優はいないと思います。私もすっかり彼の大ファンになってしまいました。観客が彼の努力を目の当たりにするのが待ちきれません。これほど複雑な役柄を、しかも英語で見事に演じる彼の能力に、多くの人が衝撃と驚きを覚えることでしょう!

◆山本耕史(やまもと・こうじ)

1976年(昭51)10月31日、東京都生まれ。0歳から芸能活動開始。87年、ミュージカル「レ・ミゼラブル」のガブローシュ役で本格的な俳優活動へ。フジテレビ系「ひとつ屋根の下」、NHK連続テレビ小説「春よ、来い」などに出演。04年の大河ドラマ「新選組!」でギャラクシー奨励賞など。近年の、ドラマは「きのう何食べた?」「鎌倉殿の13人」「不適切にもほどがある」など、映画は「キングダム」シリーズ、「もしも徳川家康が総理大臣になったら」など。舞台、映画、ドラマ、CMと幅広く活躍。177センチ、血液型B。

◆RENT

オペラ「ラ・ボエーム」を下敷きに、ジョナサン・ラーソンさんが作詞、作曲、脚本を手がけた。開幕前夜にラーソンさんは急逝したが、時代を超えて長く上演されている。楽曲の中では「シーズンズ・オブ・ラブ」がよく知られている。

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