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11・5米大統領選 独特な制度や歴史、建国の理念に従い各州「選挙人」538人の争奪戦

日刊スポーツ 2024年8月31日 8時15分

<ニュースの教科書>

アメリカ大統領選挙の投票が11月5日に行われる。現職のジョー・バイデン大統領(81)が再選出馬を断念。それを受け民主党候補となったカマラ・ハリス副大統領(59)は、アメリカ史上初の女性大統領を目指す。共和党候補のドナルド・トランプ前大統領(78)は、132年ぶりの返り咲きを狙う。2大政党がぶつかり合う大統領選挙の、独特の選挙人制度や歴史などを紹介する。(敬称略)【笹森文彦】

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★得票数ではない

アメリカ大統領選挙は、4年に1度の夏季オリンピック・パラリンピックと同じ年に行われる。

大統領選挙は足かけ2年の長丁場である。2大政党の民主党と共和党が予備選挙や全国党大会などを実施し、大統領候補を決定。その候補が激突するのが「本選挙」だ。

本選挙の有権者の投票日は、約150年前に連邦法で「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と定められている。今回は11月5日(火)だ。

連邦法が制定された1800年代後半、国民の多くは農業に従事するキリスト教徒だった。春から秋の農繁期や、教会に行く大切な安息日(日曜日)は、避けられた。当時の交通手段は徒歩か馬車。投票所まで丸1日かかる人もおり、厳冬期も避け、投票日は11月の早い火曜日になった。

大統領選挙は、全米で得票数が多い候補が勝つわけではない。各州の有権者の投票を受けて、各州の「選挙人」という一団(計538人)が、あらためて投票する間接選挙である。

この選挙人の考え方は、アメリカが「合衆国」であることに由来する。合衆国とは「2つ以上の州または国の連合からなる単一国家」のこと。アメリカは50州からなる合衆国で、1776年の建国以来、国の重要事項は「州の代表者」によって決められてきた。その歴史的理念が、選挙人という独特の制度を支えている。

例えば50州で人口がもっとも多いカリフォルニア州は約3950万人。一方、もっとも少ないワイオミング州は約58万人。東京の板橋区ほどの人口である。もし得票数だけで大統領が決まるのなら、候補者は人口の多い州を優先し、人口の少ない州の声や要望は反映されなくなる。

これでは合衆国という建国理念に反する。そこで考え出されたのが、州それぞれに配置する選挙人という制度である。建国の理念に従い、選挙人が「州の代表者」として最終的に投票し、大統領を決めるのだ。

大統領選挙とは得票数ではなく、538人の選挙人の争奪戦なのである。

選挙人の数は、各州の代表者による「アメリカ連邦議会」の議員数と同じ。連邦議会は上院が50州から2人ずつの計100人、下院は各州の人口比(約76万人に1議員)に基づいた435人である。上下両院の議員総数は535人。

カリフォルニア州は上院2人、下院52人なので、選挙人の数も計54人となる。人口の一番少ないワイオミング州の選挙人は上院2人下院1人の計3人。他州も同様に選出され、50州の選挙人が535人となる。

この535人に、連邦議員のいない首都ワシントンDC(正式には「コロムビア特別区」)の代表3人を加えた538人が、選挙人の総数となる。

★勝者総取り方式

ほとんどの州が「勝者総取り方式」を採用している。有権者の得票数で勝利した候補が、その州の選挙人をすべて獲得するのだ(メーン州とネブラスカ州は分配方式)。総取りは「州の総意」を意味する。

仮にカリフォルニア州で、ハリス候補が500万票、トランプ候補が499万票という僅差でも、ハリス候補が州の総意として54人の選挙人を総取りする。この選挙人争奪戦が50州で繰り広げられ、538人の過半数の270人を獲得した候補が大統領となる。

接戦もある。00年の大統領選挙では、共和党ジョージ・W・ブッシュと民主党アル・ゴアが大接戦となった。有権者の投票ではブッシュが5045万票、ゴアが5099万票だったが、選挙人獲得数でブッシュ271人、ゴア266人と、わずか5人差でブッシュが大統領となった。大票田を制しても、小さな州で勝利し、選挙人の数をコツコツと積み上げる方が有利な場合もあるのだ。まさに合衆国ならではである。

一方、有権者の得票総数で決めるべき、という声も多い。前述のブッシュ対ゴアだけでなく、16年の大統領選挙でも民主党ヒラリー・クリントンが6584万票、トランプが6297万票だったが、選挙人の獲得数でトランプが勝利した。

11月5日の有権者投票の開票でほぼ結果は見えてくるが、各州の選挙人は12月16日に各州都に集まり、州の代表として、州の総意の候補にあらためて投票。翌年1月6日に開票され、正式に大統領と副大統領が決定。1月20日に就任式が行われる。

あと2カ月後に迫った大統領選挙。史上初の女性大統領誕生か、返り咲きか。世界が注目している。

◆選挙人 法律で連邦議会議員や現職公職者はなれない。大統領候補を擁立する各政党が、各州で割り当てられた数の選挙人を指名、選任する。選挙人は、勝利した自党の候補者に必ず投票することを誓約する。有権者は投票用紙に記載された正副大統領候補者名を選ぶのだが、実際は選挙人を選んでいることになる。まれに誓約しながら他候補に入れる「不誠実な選挙人」がいるが、最近は各州で罰則が強化されている。選挙人の数は10年ごとの国勢調査で見直される。

■大統領アレコレ

アメリカ大統領選挙は今回が60回目。第1回は235年前の1789年に行われ、建国の父ジョージ・ワシントンが選出された。それ以来、45人(46代)の大統領が誕生した。大統領選挙や大統領にまつわるアレコレを紹介する。

◆ホワイトハウスで執務しなかった唯一の大統領

初代ジョージ・ワシントン。在任期間は建設中。

◆返り咲いた唯一の大統領

第22代と第24代の民主党グローバー・クリーブランド。再選を目指した1888年の大統領選挙で、関税問題で共和党ベンジャミン・ハリソンに敗れた。4年後、そのハリソンを破り返り咲いた。トランプ候補が返り咲けば、132年ぶりとなる。

◆史上最年少の大統領

第26代の共和党セオドア・ルーズベルト。第25代のウィリアム・マッキンリーが暗殺されたため、1901年に42歳10カ月で副大統領から大統領に昇格した。第35代の民主党ジョン・F・ケネディは史上最年少の43歳6カ月で当選した大統領である。ちなみに史上最高齢の大統領就任はバイデンの78歳2カ月。

◆唯一4選した大統領

第32代の民主党フランクリン・ルーズベルト。世界恐慌、第2次世界大戦など苦難の時代に政党を超えて支持された。4期目途中で死去し、在任期間は12年39日(4422日)。51年以降、3選禁止となった。日本の総理大臣の通算在職日数1位は、自民党安倍晋三の3188日。

◆在任期間が31日間の史上最短の大統領

第9代のホイッグ党ウィリアム・ハリソン。1841年3月4日に就任したが、肺炎のため同4月4日に死去した。

◆現職で再選から撤退した大統領

第36代の民主党リンドン・ジョンソン。ケネディ暗殺を受け、63年11月に副大統領から大統領に昇格。64年の大統領選挙は大勝した。途中昇格だったため、もう1期できたが、ベトナム戦争の泥沼化が影響し、68年の大統領選挙に不出馬を表明した。現職バイデンの再選断念は、これ以来56年ぶりとなる。

◆任期中に辞任した唯一の大統領

第37代の共和党リチャード・ニクソン。民主党本部に盗聴器を仕掛けようとしたウォーターゲート事件で、2期目途中の74年8月に辞任した。

◆大統領選挙に勝ったことのない大統領

第38代の共和党ジェラルド・フォード。ニクソン辞任を受けて、副大統領から大統領に昇格したが、76年の自身初の大統領選挙で民主党ジミー・カーターに敗れた。

◆再選(2期目)に失敗した大統領

過去11人。近年では第31代ハーバート・フーバー、第38代ジェラルド・フォード、第39代ジミー・カーター、第41代ジョージ・H・W・ブッシュ、第45代トランプ。

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