不朽の名作、黒澤明監督の「七人の侍」のせいだろうか、人数がタイトルに入った時代劇には不思議に胸が躍る。工藤栄一監督の「十三人の刺客」、そして「十一人の侍」も確かに面白かった。
人数は主人公側が少数であることを示し、多勢の敵に対して地の利や知略で立ち向かうところが見どころになる。
そして、11月1日に公開されたのが「十一人の賊軍」である。
時は幕末、戊辰(ぼしん)戦争のさなか。新潟の新発田藩は新政府軍と旧幕府軍の奥羽越列藩同盟の板挟みになっている。若い藩主は新政府側にくみしたいが、旗印を鮮明にすれば列藩同盟につぶされる。
押し寄せる新政府軍に対し、いわば時間稼ぎの捨て石のように藩境のとりでに派遣されたのが3人の武士と、参加と引き換えに死罪を免除された8人の罪人たちだった。
原案は「仁義なき戦い」などで知られる伝説の脚本家、笠原和夫。60年前にこの脚本を書き上げたが、当時の東映撮影所長、岡田茂の反対で映画化は実現しなかった。笠原は350ページの力作を怒りで破り捨てたが、16ページのプロットだけが残っていたという。
幻の企画を知った白石和彌監督がこのプロットにたどり着いたところから今回のプロジェクトが動き出したという。ワクワク感を盛り上げるいきさつではないか。
戦いの舞台となるとりでは切り立った谷川に面しており、つり橋だけが渡河手段の対岸に新政府軍が押し寄せる。このセットが良くできていて、攻防戦には緊張感が漂う。
愛妻との再会だけをモチベーションに突き進む罪人、政(山田孝之)と、実直な剣の使い手、兵士郎(仲野太賀)のW主演。巧者2人が目を血走らせ、泥まみれになって原案に宿った熱さを体現している。
政をアニイと慕うノロ(佐久本宝)は、実は花火師の息子で、予想外の活躍で大砲を並べた新政府軍の圧倒的火力にひと泡もふた泡も吹かせる。痛快だ。
11人の賊軍は他にも尾上右近、千原せいじ、岡山天音、紅一点の鞘師里保と個性派ぞろい。どうしようもないガヤガヤが、やがて1つにまとまっていく人間模様に脚本(池上純哉)の妙がある。
岡田撮影所長の反対は、悲劇的結末にあったようだが、60年後の今は、その理不尽がまるでウクライナやパレスチナの現状に重なって見えた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)