Infoseek 楽天

本木雅弘「お互い老けたなぁ」小泉今日子と32年ぶり共演 長い時経て再会した恋人役として対峙

日刊スポーツ 2024年11月17日 8時0分

本木雅弘(58)にとって、主演映画「海の沈黙」(若松節朗監督、22日公開)は唯一無二の1本となった。日本芸能史に輝く“花の82年組”と呼ばれる世代の同期・小泉今日子(58)と、俳優として約32年ぶりに共演。長い時を経て再会した、かつての恋人という役どころに、久しぶりの共演となった月日と人生を重ねる。互いを映し鏡のようにして15歳から刺激し合ってきた小泉と世代への思い、そして、ともに向かう、老いへの心境を語った。【村上幸将】

★10キロ減量さらに

出演の話が来たのは、テレビ朝日系ドラマ「友情~平尾誠二と山中伸弥『最後の一年』~」の撮影をしていた昨春だった。16年に胆管細胞がんで亡くなった平尾誠二さんを演じるため撮影中に10キロ減量したが「海の沈黙」で演じた世界的な贋作(がんさく)事件の犯人と疑われる天才画家・津山竜次も病に体がむしばまれていく役どころだ。

「3週間で10キロやせることを課せられていて。オファーがはまる自分のスケジュールは現実、その後しかなかったし、むしろ病が深まる男の役なので、ここしかないタイミングではあった。体を戻しすぎず、少しだけ回復させて、そこから映画の中で7キロやせていく感じの設定でやりました」

倉本聰氏(89)の作品への出演は、俳優人生43年で初。同氏が88年「海へ~See you~」以来35年ぶりに手がけた映画脚本でもあり重圧を感じた。

「平尾さんを背負うだけでもいっぱい、いっぱい。その次に初の倉本先生の作品で、最後の作品になるかも知れないなんて背負わされたら…どんなにプレッシャーか想像つきますよね」

★天才画家 初油絵

倉本氏から脚本に書かれていない人物背景がA4の紙で11枚送られてきた。演じるにあたり、絵画監修をした岩手県二戸市の画家・高田啓介氏を訪ねた。

「油絵1つ、描いたことがないんです。書道はやっていたのですが(片岡)鶴太郎さん、緒形拳さんのような独自の世界を作れるほどの技量じゃない。覚えた形を整えていくので絵とも全く違う。それで山奥のアトリエにお邪魔して初めて油絵を描いた。面白かったのは、自分は常に体裁、与えられた役割で正しいのはこの辺かなと考え、居場所とか表現を決めていくところがある。自分で思い付くまま、思いのままにやることに慣れていないんですよ」

倉本氏とは昨年6月に北海道・小樽でクランクインし、同16日に撮影現場で行われた製作報告会見の直前まで、対面はなし。電話で話すしかなかった。

「役者としては非常に不器用。倉本作品の新参者として準備期間が足りなかったから、用意しないで飛び込むのも粋なやり方かと」

★千載一遇 楽しみ

92年1月期のフジテレビ系月9ドラマ「あなただけ見えない」以来の、小泉との共演が楽しみだった。

「千載一遇…だって43年間同じ業界にいて、気が付いたら32年も共演していない事実がある。設定と同じように空白の時間があることが、他の関係性では演じられないものを絶対、生み出すじゃないですか? 実生活でも近いエリアに常に住んでいて。最近は妻(内田)也哉子と小泉さんとの付き合いの方が大きいので、近況は知っていたけれど現実的には会っていなかった。男女を超えた情、リスペクトをずっと変わらず持っているので、スクリーンの中で再会するのを、すごく楽しみにしていたし大事にしたいと思っていた」

竜次を追って北海道を訪れる、かつての恋人・田村安奈と再会したシーンは、喜怒哀楽といった言葉を超えた感情が発露した。

「撮るまでは接触しないよう心がけて臨んだ。顔をのぞき込むと…まず、お互いに老けたなぁと(笑い)。人の顔には歴史が刻まれるんだなぁという感じ。小泉さんは元々、母性みたいなものを持っていましたけど熟成されて菩薩(ぼさつ)かと思うくらい。でも、自分の信念を曲げない強さという意味での般若…そういったものも隠されている奥深さが小泉さんの面白さ。あらゆるものをかき立てる人相だなと改めて思った」

そうした小泉の“人相”は、80年代から90年代初頭、さまざまなクリエーターと組み“小泉効果”と呼ばれたムーブメントを起こした頃と変わらないという。

「竜次が安奈を見ていると、どうにもこうにも創作意欲をかき立てられる。それはアイドルを同時期にやっていた80年代に、小泉さんがクリエーターたちにのぞかれ、遊ばれたのと、そのまま同じような状況で。今でも片りんがしっかり残っているのを、まざまざと感じている自分…役の解釈に入ったり、実際の小泉さんと自分の歴史を振り返ったり不思議な時間でした」

★妙な自信 新人類

共演シーンを虚実ない交ぜと評すると笑みを浮かべ小泉について語り出した。

「アイドルというある種、虚構の職業をやっているストレスが小泉さんもあったようで。自分の体と心が合致しない違和感を修正したい思いがあって。当たり前の日常生活がないとおかしいし、感じたことを口に出せる自分がないといけないと思ってきた人だから、早くから裏方仕事もして」

81年に本木はTBS系ドラマ「2年B組仙八先生」で俳優デビューし、小泉は日本テレビ系「スター誕生!」で合格。82年3月に小泉が「私の16才」でデビューすると、本木も5月に「シブがき隊」の一員として「NAI・NAI16」でアイドルとして始動した。

「自分たちは10代から(芸能界で)働いてしまったから…社会に出て生活することの難しさを体験していく時間を、ちょっとネグった(無視した)ところがある。小泉さんは早くから、ちゃんと現実的に埋めて戻していったところがある」

小泉は、パーソナリティーを務めるTBSラジオ「サステバ」(土曜午後7時30分)で中年の悩みに向き合い、赤裸々に語る。本木は老いをどう考えるか。

「この世界で仕事して面白さと難しさを感じるのは、恥ずかしいということに対する立ち位置。老けないと言われがち…でも化粧含め整えてしまうタイプ。一生このままか、ある瞬間からさらせるようになるか、全てさらすことが業界人として正しいのかどうか…。自分以前に小泉さんがどう終えていくかを一番近い観客として見ていたい」

本木と小泉は「無気力・無関心・無感動」などと言われながらも、シニカルな視線で世の中を見つめ、自由奔放に生きた「新人類」と呼ばれた世代だ。そのマインドは今も変わらない。

「コアがないという強さですかね。だから、いかようにでも変容できる。そういう妙な自信は、もしかしたらある世代なのかも知れません。もし80代に生きて残っていたら、どんな表現をするんでしょう。どんな設定を書いてくる人がいるんだろう…どういう表現を要求されるかにも興味はあります。世代としてブレない信念は持っていたい」

▼小泉今日子(58)

本木さんと出会った時は15歳くらい。同期で、歌手として活動し始めた時から知っているので。いつも私が歩いている横を見ると、必ず本木さんがいつもいる感じで時々、横を見ては、あっ、私も大丈夫、本木さんがそこにいるみたいな、同志のような存在で40年以上、私の中にいます。変わっていないと言えば変わっていないし。本木さんは、15歳の時から、いまだに自己肯定感が低く、いつも悩んで反省しているからこそ、ああいう役が作れるんだろうなと。私みたいにザックリしているとできない(笑い)。

◆本木雅弘(もとき・まさひろ)

1965年(昭40)12月21日、埼玉県生まれ。「2年B組仙八先生」で共演した薬丸裕英、布川敏和と「シブがき隊」を結成。88年の解散後は俳優として活動し、92年の映画「シコふんじゃった。」と、米アカデミー賞アカデミー外国語映画賞(現国際長編映画賞)受賞の08年「おくりびと」で、国内の映画賞を総なめ。95年に内田裕也さん、樹木希林さん夫妻の長女也哉子と結婚し2男1女。来年1月24日にアイスランド映画「TOUCH/タッチ」の公開を控える。174センチ。血液型A。

◆「海の沈黙」

世界的画家、田村修三(石坂浩二)が展覧会で作品の1つが贋作だと指摘。報道が過熱する中、北海道で全身に入れ墨の入った女性の死体が発見される。両事件の間に浮かび上がったのは、ある事件を機に姿を消した天才画家、津山竜次(本木)だった。

この記事の関連ニュース