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石井裕也監督「本心」で問いかけ AIが日常に普及、浸透するほどに問われる人間の存在価値

日刊スポーツ 2024年11月26日 7時0分

<最新作「本心」公開…石井裕也監督が語る人間とAI>中編

石井裕也監督(41)が、公開中の最新作「本心」で、ますます日常生活に浸透するAIの持つ危うさを世の中に問いかけた。亡くなった母の本心を知りたくて、仮想空間上にAIで母を作った主人公を池松壮亮(34)が演じる。「不確かな人間の記憶より、全ての情報をディープラーニングしたAIが優れているという人が大勢になった時、人間の立場、尊厳が脅かされ、毀損(きそん)される」と指摘。「そのことへの対策、準備は特に日本人にはできていないと思います」と警鐘を鳴らした。第2回は、AIが日常に普及、浸透していけば、いくほど問われていく、人間の存在価値について。

石井監督が考える危機感を、具体的に映画の中で示したのが、池松演じる石川朔也が亡くなった同居中の母秋子(田中裕子)の生前の本心を知りたく、生前のデータを元に仮想空間上に作った「VF(バーチャル・フィギュア)」だ。ゴーグルを着ければ仮想空間の中で亡くなった人と毎日でも会え、会話すればするほどデータは蓄積し、学習していく。だからこそ、開発者の野崎(妻夫木聡)は朔也に「本物以上のお母様を作れます」と断言する。野崎がくも膜下出血で亡くなった人を元に作った中尾のリアルさに、朔也は実在の人間と見まごってしまったほど。人間とVF、どちらが確からしいか? という問いかけを「本心」という作品は観客に投げかける。

「もう1つの問いがあって…。VFは、それ(元となった人間)らしきものなんですけど、じゃあ今、ここに存在している、我々だって、それらしきものじゃないかと思って。例えば、その人たらしめている、持っている記憶だって…僕も母親が(7歳の時に)亡くなっていますけど、かあちゃんと遊んだなとか、こんなこと言われたな、とかいうものが日々、改訂作業をされながら、自分が都合良く生きるための糧に、どんどんなっているわけです。それは、やはり記憶らしきもので…でも、それが人間の不完全さ含めた面白さなんで」

朔也は「自分が知らない一面があったのではないか?」と、母の手掛かりを求めて母の親友だったという三好(三吉彩花)に接触。台風被害で避難所生活中だと知り「ウチに来ませんか」と手を差し伸べ、三好、VFの母という奇妙な共同生活がスタートする。その中で、VFが語りかけてくる言葉が母の本心なのか…そもそも、母の心を再現したVFが一体、何なのか、誰なのかも分からなくなってくる。

「例えば、全ての情報を入力し、ディープランニングしたAIと、僕の母の記憶が、客観的に比較して全く違うことが起こり得るわけです。問題は、ここから…どっちが優れているのか? ということです。人間はウソをつくし、見えも張るじゃないですか? 自分のこれからの生のために日々、記憶を改訂、改ざんする。一方、AIは、客観的事実として完璧に状況を記憶している。そこに、例えば人間が体調によって言うことが不明瞭になったりするのも、ある種のバグを設定して1日に何回、起こり得るかプログラミングし、取り込むことはできる」

平野氏の原作では、舞台の設定は2040年だったが、映画化に際し、時代が進むのが速いことも踏まえ、設定を2025年に前倒しにした。既に現在、検索や、音声の書き起こしからの簡単な文章の作成などはAIで事足りるとの声も出てきているが、石井監督は警鐘を鳴らす。

「人間とAIと、どっちが優れているかと言った時に、AIの方が優れているという人が必ず出てきます。それが大勢になった時に人間の存在、価値というものが、ものすごく、あからさまにむき出しになって、毀損(きそん)されるのですよ。それ(AIによって作られたもの)を人間のようなもの、本当の感情のようなものと受け止める人は必ずいる…ということになると、人間としてアナログでやっている記者、映画監督は太刀打ちできなくなる可能性もある。欲望が先行しちゃって、どうやってお金もうけできるか、組織を効率的にできるか…研究分野も、どうやったら効率的にに計算でき、計算が進むか、ばかり考えているでしょうけど。そういったことを多分、みんな考えるに至っていないのでしょうが。どこかでぶち当たる問題が、人間とは? ということです」

最終回は、石井監督が、ここ10年、映画を通じて投げかけてきた思いと「本心」を今、公開する意味について。(続く)【村上幸将】

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