7月の東京都知事選で約165万票を獲得し、3選された小池百合子知事(72)に敗れはしたものの、圧倒的な存在感をみせた石丸伸二・前広島県安芸高田市長(42)。その石丸氏の選挙戦を手掛けた「軍師」が、選挙プランナーの藤川晋之助氏(71)だ。SNSを駆使しながら支持を拡大する戦略は、今年、その後に行われた他の選挙のモデルにもなった。長年選挙に携わり「選挙の神様」と言われる藤川氏に、SNS選挙の今後について聞いた。【中山知子】
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石丸氏の都知事選や衆院選での国民民主党の躍進、兵庫県知事選での斎藤元彦知事の再選など、今年は選挙におけるSNSの影響力が、目に見える形で明らかになった。ただ藤川氏は、SNSが選挙に影響を与えすぎることには、懸念を持っている。
藤川氏 これからの日本でのネット選挙の行く末を考えると、8年前のトランプさんの選挙を見れば明らかです。行き過ぎると(国民の)分断化が進むことになるでしょう。斎藤さんの選挙を見ていても、斎藤さんを肯定する人と否定する人の反応は、異なります。何が真実かという検証が行われるわけではなく、『好きか、嫌いか』になってしまう。まさにトランプさんとヒラリー・クリントンさんの大統領選挙の時から起きていたことですが、この8年間、我々はのほほんとして、そこに気付かずにきました。ネット選挙が突き進めば、分断社会がもっと生まれることにつながると思います。
今まで以上に、ネットの良い部分をもっと生かしながら、単なる規制論ではなく、若い人がもっと参加できるような選挙になっていってくれれば、ありがたいと思います。10月の衆院選の投票率は、53・85%。国民全体が政治に関心を持った、ということではありません。ネットがすごい、すごいとは言いますが、「ネット万能論」が成り立つかといえば、まだそういうわけではないと思います。米国のように熱く燃えるような選挙にはならない。その根本原因は、私は公職選挙法にあると思っています。
日本の選挙は、あれをやってはだめ、これをやってはだめと、すべてが決められ、欧米のような柔軟な選挙ができない。政治活動と選挙運動の境目はずっとグレーゾーンのまま。これをやれば選挙違反になるのではないか、これなら大丈夫かとか、警察と相談をしながら、ある意味、有権者や候補者を守るために、我々のような存在がいるわけです。もちろん、選挙に勝つためではありますが。日本の公選法は70年以上前につくられてから、まったく変わることなくきています。ネットのことなど(法律では)さっぱり分からない。そろそろしっかり改正して、もっと明るくのびのびとした、国民が関心を持つような選挙になるようにしないといけないと思っています。
藤川氏は、「握手をした数しか票は出ない」と言われた時代から、さまざまな選挙に関わってきた。それが今はSNSの力が選挙の流れも左右するほどに。選挙はこの先、どう変わっていくのだろう。
藤川氏 SNSで支持を得た候補者に共通するのは、ある種の「物語性」と「悲劇性」です。10月に衆院選がありましたが、あれだけたくさんの候補者が立候補して、ネットを使ってみた候補もいたと思いますが、効果がなく落選した人も多いと思う。それが現実です。だれがやってもうまくいく選挙方法ではないんです。ちゃんと検証してみないといけない。ネットが、本当に選挙の中で生きていくかは、まだまだ未知数だと思います。
それでも、ネット選挙の重要性は感じている。持論の選挙戦術にも、変化があらわれた。
藤川氏 これまで私は「5割の地上戦、4割の空中戦、1割のネット戦」と言い続けてきましたが、今は「4割の地上戦、3割の空中戦、3割のネット選挙」くらいに、ネット選挙に配慮しようというふうに変わりました。石丸さんの選挙にかかわり、この半年の実体験で得た感覚です。(おわり)
◆藤川晋之助(ふじかわ・しんのすけ)1953年(昭28)10月31日生まれ。23歳で国会議員の秘書になり、政策担当秘書、政党の事務局長などを歴任。大阪市議も務めた。現在は「藤川選挙戦略研究所」代表理事として、政策立案や人材育成、さまざまな候補者の選挙戦略に携わる。ここまで携わった選挙は130勝16敗と、勝率は8割超。