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「サービス料代わり」だけじゃない 居酒屋が“お通し”提供するワケ 専門家に聞く

オトナンサー 2024年8月25日 7時10分

 居酒屋で、来店時や最初の注文後に小皿料理や小鉢料理などを提供されたことはないでしょうか。このように初回の注文前後に提供される小料理は、「お通し」と呼ばれており、注文した料理とは別に料金を請求されるのが一般的です。

 そのため、SNS上では「お通しはいらない」「適当な料理をお通しとして出すのはやめて」など、不満の内容の声が上がっています。居酒屋がお通しを提供するのはなぜなのでしょうか。飲食店コンサルタントの小倉朋子さんに聞きました。

■注文した料理が出てくるまでの“つなぎ”の役割も

Q.居酒屋が、客の来店時または最初の注文を受けた後に提供する小皿料理や小鉢料理などは、「お通し」と呼ばれています。なぜ居酒屋はお通しを提供するのでしょうか。

小倉さん「理由はいくつかあります。一つは『客からの注文が厨房(ちゅうぼう)に通った』『客を席に通した』という合図の役割です。そのため『お通し』と呼ぶようになったといわれています。

また、お通しには、小料理をつまみながらお酒を飲みつつ、注文した料理が提供されるのを待つという、最初の料理が出てくるまでのつなぎの役割があります。その際、客に試食してもらうために、試作した新たなメニューをお通しとして提供する場合もあります。

そして、お通しには、座敷や会場などを借りる際に支払う、いわゆる『席料』の役割のほか、サービス料としての役割もあります。海外と違い、日本には従業員にチップ(サービス料)を支払う文化がなく、現代のように、料理の代金にサービス料を上乗せする概念もありませんでした。そのため、お通しを有料にすることでサービス料をまかなってきた側面があります」

Q.最近はお通しを提供しない居酒屋が増えていると聞きますが、本当なのでしょうか。

小倉さん「本当です。日本の飲食業には『おまかせ』という習慣があります。おまかせとは、客が料理を一品一品選んで食べるのではなく、提供してもらう料理の内容を店側に一任することをいいます。

しかし、現代においては、メニュー表に一品ずつ価格が明記されているほか、ネットやSNSで多くの情報を得られるため、客も合理的な食べ方にシフトしてきたといえます。また、客は、持ち帰り用の総菜である『中食』の台頭によって、好きなものを自分の好きな量で購入し、好きな時間に食べるといった食べ方に慣れています。

そのため、注文していない料理を有料で食べることに抵抗感が出ており、その際に感じた不満をSNSなどに投稿する人も多いことから、客離れを懸念してお通しの提供をやめる店が増えています」

Q.では、居酒屋が客にお通しを提供する際は、どのような配慮が必要なのでしょうか。

小倉さん「お通しを提供された場合でも、絶対に料金を支払わないといけないという法的な義務はありません。しかし、うっかりお通しを食べてしまうと、支払いをするのが一般的ですし、楽しいはずの飲食の場で店と客との間でトラブルが起きるのは避けなくてはなりません。

そのためには、事前に店側が『お通し』の存在を多くの客に知ってもらう必要があります。例えば、『店のホームページやSNSの公式アカウントに情報を記載する』『メニュー表に記載する』『POP板に書く』など、できるだけ客の目につく場所に明記しておくと良いでしょう」

Q.ちなみに、「お通し」のほかに、「突き出し」「先付け」という言葉もあります。これらは何が違うのでしょうか。

小倉さん「関東では、居酒屋が、注文前や最初の注文を受けた後に提供する簡単な料理のことを『お通し』と呼ぶのに対し、関西では『突き出し』と呼んでいます。そのため、お通しと突き出しは、同じものだと考えて問題ありません。注文に関係なく『料理を突き出す』ことから、突き出しと呼ばれるようになったといわれています。ただ、現代では、関東でもお通しのことを突き出しと説明する店は、少なくありません。

『先付け』は、和食の懐石料理や会席料理のコースにおける前菜に該当します。先付けはコースの献立の中に組み込まれて記載されているため、お通しとは違うものです。

しかし、現代では、先付けを『お通し』『突き出し』と説明している店もあります。そのため混同しがちですが、言い方が同じでも、あくまでも懐石料理や会席料理においては、その献立内に組み込まれているため、先付けとお通しは別物だと解釈して良いでしょう」

オトナンサー編集部

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