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「ニラレバorレバニラ」中国ではどっちで呼ぶ? 実は“似て非なる”「中華料理」と「中国料理」の世界

オトナンサー 2024年10月27日 8時10分

 レバーとニラを炒め合わせた料理のことを、あなたは「ニラレバ炒め」「レバニラ炒め」のどちらで呼んでいますか? 中には「どっちの料理名が正しいんだろう」「中国ではどう呼ばれているの?」と疑問に感じたことがある人もいるかもしれません。

 ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家の青樹明子さんは、「中華料理と中国料理は“似て非なるもの”」とした上で、中国においても人気のある料理だと話します。中国では「ニラレバ」「レバニラ」のどちらで呼ばれているのか、中国の人たちにとってどんな存在なのか……人気メニューから、中国の奥深い食の世界をのぞいてみましょう。

■ラーメンやギョーザは「日本料理」?

“日本人の食卓”の豊富さは、世界中の人々が驚嘆します。和食・洋食・中華が日常の食生活に溶け込んでいて、洋食や中華料理の中には、元々は外国料理だったことを忘れてしまっているメニューもあるほどです。

 日本人は外来文化を自分流に取り込むことが得意といわれていますが、食方面は特に顕著です。自分たちに寄り添った味に変化させて、日常に取り込んでいる洋食や中華も少なくありません。カレーライスは本場インドとは違う“既に日本食”ですし、ナポリタンに出会ったイタリアからの観光客は、「イタリアでは食べたことのない味!」と感嘆しています。

 中でも、中華はその最たるもので、ラーメンやギョーザは中国人にとっては「日本料理」の位置づけです。80年代から90年代にかけて、「本場のラーメンが食べられる」と期待しながら中国に行った日本人は、まったく似ても似つかない麺類が出現したことに驚き、かつ落胆しました。

 中華料理と中国料理は“似て非なるもの”の典型です。中華料理というのは、日本化した中国料理、つまり日本人の味覚に寄り添った中国料理で、「町中華」といわれる、街の小さなお店を中心に発展しました。町中華は、日本人経営の比較的小さな店舗で、気軽に味わえる庶民の味として人気を集めてきました。日本人の好む中華は、町中華を基盤としてつくられてきたともいえます。

 一方で中国料理は、華僑の方を中心に大資本のもとで営む、正統派の中国料理です。中国の国家資格を持つ中国人の料理人が本場の味を提供し、コース料理が主流です。単品ではないので、値段も町中華よりは高いというのが一般的です。

■「ニラレバ」「レバニラ」どっち?

 日本の庶民に支えられ、愛されてきた日本風中華「町中華」ですが、ラーメン、ギョーザに並んで人気のメニューが「ニラレバ炒め」です。

「ニラレバ」が正しいのか「レバニラ」が正しいのか、諸説あるようですが、漫画家・赤塚不二夫さん原作の漫画「天才バカボン」の影響による説が根強くあります。

 バカボンのパパは、「太陽は西から上って東に沈む」など逆を好む思考の持ち主で、当時日本で流行し始めていた「ニラレバ炒め」も「ニラレバじゃない、レバニラだ!」と主張する…というくだりがあるようです。後にアニメ化されたときも「ごちそうはレバニライタメなのだ」という回があるほか、バカボンのパパのセリフとして、「レバニライタメ知らないとはおまえそれでも日本人なのか?」などというのが登場して、若者を中心に広まっていったといわれています。

 ということは、日本に持ち込まれた際は「ニラレバ炒め」だったということになりますが、中国のオリジナルはどうなのでしょうか。

 結論から言いますと、中国でも「ニラレバ炒め」と「レバニラ炒め」、どちらも正しく、同じように普及しています。あえて言えば、「ニラレバ炒め」の方がやや一般的か、と思われる程度です。「レバニラ炒め」の名称は、日本から逆輸入されたと考えてもいいかもしれません。

 しかも、日本の町中華と、本場中国とはかなり違いがある中で、その差が比較的少ないという珍しい例だといっても過言ではありません。

■中国人に聞く「ニラレバ炒め」の作り方

 日本でニラレバ炒めは、町中華をはじめとする小規模店舗、またラーメン店などで定食として多くみられます。中国も同様で、個人経営の小さな店や、学生食堂、会社の社員食堂、そして“家常菜”といわれる家庭料理として人気で、大規模な中国料理店ではあまり扱っていないメニューといっていいでしょう。材料も味も、日本と中国でほとんど違いはないといえます。

 唯一の違いは、先述のように、中国では家庭で作られることも多いことに比べ、日本ではほとんどが外食として、ラーメン店など町中華の店舗で食べられていることです。家庭で作るというのは少数派で、その理由を、中華大好きという日本人女性に聞くと「自分で作るより外で食べた方が絶対おいしいから」と言います。

「回鍋肉(ホイコーロー)や青椒肉絲(チンジャオロースー)は自宅でもおいしく作れるけど、ニラレバ炒めは作れない。日本人はレバーの処理に慣れてないですから」

 その通りで、日本のスーパーで生のレバーが売られているのは希少です。中国の場合、自由市場でもスーパーでも、普通に売られています。ニラレバ炒めで使用される、豚、牛、鶏のレバーは、それぞれ血が残ったままパッケージされているので、家庭で作る場合、まずはレバーの洗浄から始めなければなりません。日本人がニラレバ炒めを家庭で作らないのは、レバーの下処理が面倒だからともいえます。

 中国の友人から聞いたニラレバ炒めの作り方は、おおまかに言うと、こうなります。

(1)薄くスライスした豚(牛・鶏)レバーに片栗粉10グラム、料理酒大さじ1を振る。2分ほどもみこみ、血を抜いたらそのまま10分ほど置く

(2)ニラ、ニンジン、もやしなどを準備する

(3)(1)のレバーをよく洗い、血を洗い流す

(4)調味料を加えつつレバーを炒め、色が変わったら取り出して、野菜を炒める

(5)レバーを加えたら出来上がり

 最も手間がかかるのはレバーの処理ですが、それでもやっぱり、栄養豊富なレバーは欠かせない食材なのだそうです。

■生活に根付く「医食同源」意識

 中国人は「医食同源」、食事と医療は同一だという考え方を強く持っています。これは何千年もの間に中華民族の常識と化していて、今でも生活に深く浸透しています。

 日本語において「肝心要(肝腎要)」とは、特に重要なことを表しますが、これも肝臓と腎臓が重要な臓器であることから始まっています。

 中国も同様です。中国語の「百病不離肝」とは、「病気のすべては肝臓に依る」という意味になります。特に夏の終わりから秋のはじめ、季節の変わり目には代謝が滞りがちになるため、肝臓の働きも衰えてきます。しかし、肝臓さえしっかり機能できていれば、睡眠不足に陥ることも少なく、いい精神状態を保つことができるといいます。肝臓が健全に機能すると、精神も穏やかで怒ることが少なくなるのだそうです。

 そんな大切な肝臓に有益な食品の筆頭が、レバーです。レバーは貧血改善に一定の効果があることはよく知られていますが、中国では肝臓の代謝能力を高め、体内の毒素の排出を促してくれる、健康促進に欠かせない食品といわれています。

 レバーの他、肝臓の働きを健全に保つ野菜類というのもあって、代表的なものとして、ニラ、セロリ、ブロッコリー、カリフラワーなどが挙げられています。つまり、ニラレバ炒めは、臓器の中でも非常に重要な肝臓の働きをよくする料理といえるのです。

「医食同源」という観点からすると、ニラレバ炒めは、肝臓、ひいては健康維持に最適のメニューなのかもしれません。

ノンフィクション作家・中国社会情勢専門家 青樹明子

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