「ドメスティック・バイオレンス」(DV)という言葉を聞いたことはありませんか。これは、配偶者や恋人、パートナーから身体的暴力、精神的暴力などを振るわれることを指す言葉で、以前から問題となっています。もしも、配偶者や恋人、パートナーから暴力を振るわれた場合、どのように対処したらよいのでしょうか。大阪カウンセリングセンターBellflower代表で、臨床心理士・公認心理師の町田奈穂さんに聞きました。
■加害者は拒絶されることに過剰に反応
Q.まず、配偶者や恋人、パートナーに身体的暴力や心理的暴力などを振るう人の心理的な状態について教えてください。
町田さん「配偶者や恋人に暴力を振るう人の特徴として、支配欲求やコントロール欲求の高さが挙げられます。感情のコントロールが苦手で、拒絶されることに対して過剰に反応するタイプが多いでしょう。
また、成長過程で『男(または女)はこうあるべき』という固定観念に縛られていることも影響します。これらが複合的に作用し、相手が自分の期待から外れると感情を適切に処理できず、暴力が生じることがあるのです。
支配欲求や感情のコントロール不全、拒絶への過敏な反応の背景には、幼少期の未解決なトラウマや低い自尊心、不安傾向が関わることも多いです。
幼少期に暴力を受けて育った場合、健全な感情表現の代わりに、暴力的な行動で感情を処理することを学んでしまうケースもあります。これが成人後の暴力傾向につながり、パートナーへのDVにつながりやすくなります」
Q.では、普段から配偶者や恋人、パートナーに暴力を振るっている人の言動には、どのような特徴があるのでしょうか。
町田さん「DV加害者の言動にはいくつかの特徴があります。例えば、メッセージの過剰な返信や頻繁な連絡は、共依存型で拒絶されることを許せない傾向を示すサインの一つです。
また、DV加害者の中には、『普段はいい人』に見える人もいます。こうした場合、カバートアグレッション(隠れた攻撃性)が使われることが多いです。例えば、加害者は主に次のような行動を示します」
・知らないふりをして相手を混乱させる
・Yes/Noの質問を避ける、曖昧にする
・小さなうそをつく
・突然怒り出す
・被害者を装って自分を正当化する
・相手に罪悪感や恥の感情を植え付ける
このような行動が重なる場合、注意が必要です。巧妙に相手を支配しようとするため、周囲の人からはDVの実態が見えづらくなります。
Q.もし配偶者や恋人、パートナーから暴力を振るわれた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
町田さん「まず、物理的に距離を取ることが最優先です。安全な場所に避難し、第三者に間に入ってもらうことが効果的です。DV加害者は暴力を振るった直後に謝罪をしたり、優しい態度を見せたりするほか、『あなたのためだ』と言いながら罪悪感を植え付けるケースが多く見られます。
そのため、被害者は『自分が悪いのかもしれない』と思い込み、関係を断ち切れなくなることがあります。関係が断ち切れないのは、人間が無意識に変化を恐れる傾向にあり、今の状況を変えたくないという心理である現状維持バイアスが働くためです。
このような場合、客観的な視点を持てる人を間に入れてもらうことが有効です。友人や専門家に相談することで、現在の状況を冷静に見つめ、変化に対する恐怖を乗り越えやすくなります」
Q.配偶者や恋人、パートナーに暴力をやめさせることは可能なのでしょうか。
町田さん「暴力をやめさせることは簡単ではありません。特に、共依存関係が形成されている場合、2人だけで解決することは難しくなります。DVの背後には、幼少期のトラウマや特性的な問題があることが多く、根本的な解決には時間が必要です。
こうしたケースでは、無理に2人の間だけで解決を目指すのではなく、精神科医や臨床心理士、公認心理師といったこころの専門家の力を借りることをお勧めします。認知行動療法などの心理療法は、少しずつ変化を促す効果があります。
最後にお伝えしたいことがあります。もし今、DVに苦しんでいるなら、悪いのはあなたではありません。たとえ理解が追いつかなくても、『私(僕)は悪くない』と心の中で何度も繰り返してみてください。他人を変えるのはとても難しいものです。特に共依存状態にあると、自分を変えることさえも困難に感じるかもしれません。
そんなときこそ、環境を変えることが大切です。住む場所や働く場所、人間関係を変えることが、今の状況から抜け出す力になります。そして、友人や支援機関の力を借りることも、決してためらわないでください。
変化には恐怖が伴うものなので、1人で抱え込むのではなく、友人のほか、公的機関の『DV相談+』(0120-279-889)や『DV相談ナビ』(#8008)を頼ってください」
オトナンサー編集部