11月14日は「世界糖尿病デー」。糖尿病という疾患に対する理解を深め、注意を喚起することを目的とした、世界規模の啓発の日です。健康診断などで、いわゆる“予備軍”と指摘されるケースも少なくない糖尿病ですが、一度発症すると「一生治らない」「完治しない」と聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。
糖尿病は本当に完治することはないのか――。自身も30年の1型糖尿病歴がある、内科医・糖尿病専門医の市原由美江さんは「糖尿病の治療は一生続く」としつつ、「治療の目的は“健康な人と同じような人生を送ること”」と話します。糖尿病はなぜ「一生治らない」のか、どう付き合っていけばいい病気なのか、詳しくご解説いただきました。
■「寛解」は「完治」ではない
「一度発症すると、一生治らないのか」「完治しないのか」。糖尿病に対して、こうした疑問を持っている人は少なくないと思います。結論からいいますと、一部の糖尿病を除いて、糖尿病は完治しません。
代表的な糖尿病には「1型糖尿病」と「2型糖尿病」があります。1型糖尿病は自己免疫疾患であり、膵臓(すいぞう)からのインスリン分泌がなくなるために生涯インスリンの注射をしなければならず、完治はありません。
例えば、「膵島(すいとう)移植」のように、インスリンを出す細胞を移植する方法があり、完治することもありますが、徐々に糖尿病の状態に戻ることが多く、今後の再生医療が期待されるところです。
遺伝的因子と生活習慣が原因で引き起こされる2型糖尿病は、肥満や脂肪肝によりインスリンの効き目が悪くなること(インスリン抵抗性)や、インスリンの分泌が弱くなることで発症します。俗に言う“糖尿病予備軍”である「境界型糖尿病」のように、血糖値が少し高くなってきた段階で、インスリンを分泌する臓器である膵臓は既にかなりの負担がかかっており、この段階で「生活習慣を改善する」といった努力をしなければ、その後どんどん血糖値は悪化して糖尿病の状態になります。つまり、境界型糖尿病であっても、糖尿病であればなおさら完治することは難しいのです。
生活習慣の改善や薬などによって、血糖値が健常者の数値とほぼ同じ状態になり落ち着く「寛解」の状態になることはできます。しかしこれは「完治」とは違い、暴飲暴食をしたり体重増加をしたりすると、すぐに血糖値が悪化し、糖尿病の状態も悪化します。
完治について「一部の糖尿病を除いて」と先述しましたが、完治する糖尿病もあります。「妊娠糖尿病」や「ステロイド糖尿病」です。
妊娠糖尿病は、その後の糖尿病発症リスクが約7倍にも上がるものの、出産が終われば糖尿病状態は解除されます。
一方、ステロイド糖尿病は「ステロイド」という薬を使用することで発症する糖尿病ですが、ステロイドの使用が一時的であれば、糖尿病はその後完治する場合もあります。
■治療の目的は「健康な人と同じような人生を送ること」
糖尿病を発症した人の中には、「この先の人生、糖尿病とどう付き合っていけばいいのか…」と悩んでいる人もきっと多いことでしょう。
糖尿病は軽度であれば症状が出ないことが多いのですが、知らないうちに、着実に全身の血管の動脈硬化は進みます。また、脳梗塞や心筋梗塞などの命に関わる合併症、網膜症や神経障害、腎症など生活の質を落とす合併症が起きてきます。糖尿病の治療の目的は、これらの合併症を起こすことなく、「健康な人と同じような人生を送ること」です。
2型糖尿病の初期であれば、食事療法や運動療法を頑張れば、確実に数値は改善します。逆に、症状がないからと放置する期間が数年にわたると、食事や運動をどれだけ頑張っても血糖値は改善しにくくなり、薬も効きにくくなります。そうなる前に、なるべく早い段階で血糖値を改善する生活習慣を意識しましょう。
また、糖尿病専門医に「薬を始めた方がいい」と言われたら、薬が効きにくくなる前に早めに受け入れて、数値を改善することをおすすめします。今は昔と違って、心臓や膵臓、腎臓を守る効果のある糖尿病の薬がたくさんあります。
糖尿病の治療は一生です。受験や就職、結婚、妊娠、出産、単身赴任、夜勤、定年、老年期…それぞれの時期で、血糖値も大きく変動します。その変化を気軽に相談でき、よりよい治療を選択していける主治医を見つけて、糖尿病があっても健康な人と変わらない人生を目指していきましょう。
オトナンサー編集部