陣痛の痛み、分娩時の痛み……出産にはさまざまな「痛み」がつきものであり、出産を経験した多くの女性から「とにかく激痛」「人生で一番の痛み」と表現されることも多いです。しかし一方で、「産んだら痛みを忘れる」ともいわれるように、「陣痛あんなに痛かったのに、産んだらもう忘れちゃった」「この痛みは一生忘れないと思ってたのに、ケロッと忘れた自分にびっくり」「あんなに苦しかった陣痛の痛みを、本当に一瞬で忘れました」など、「どんな痛みだったか、すっかり忘れてしまった」という女性も少なくなく、“出産あるある”としてもよく知られていますが、これについては「なんで?」「不思議」といった疑問の声も聞かれます。
激痛なのに忘れてしまう(?)、陣痛や分娩時の痛み……どうして痛みを忘れてしまうことがあるのでしょうか。神谷町WGレディースクリニック(東京都港区)院長で産婦人科医の尾西芳子さんに教えていただきました。
■“幸せホルモン”が関係?
Q.そもそも「陣痛の痛み」「分娩時の痛み」はなぜ起こるのですか。
尾西さん「陣痛、分娩の痛みは、赤ちゃんを子宮から押し出そうとする子宮の収縮痛です。月経(生理)時も、子宮の中の経血を出そうとして子宮が縮まることにより月経痛(生理痛)が起こるので、その“強力版”ということになります。
よく『鼻からスイカが出るような痛さ』などと表現されますが、私自身は腰と骨盤の骨が砕け散るような『ピシッ、メキッ、バラバラ』という痛みだったので、人によって感じ方は違うのかもしれません。また、赤ちゃんが下りてくるときはそのような痛みですが、最後は自分でいきむのを止められない“いきみの波”が来るので、人体のすごさに感心していました」
Q.陣痛や分娩の「痛み」は、出産を終えると「忘れてしまう」ことがあるというのは事実ですか。
尾西さん「事実といえると思います。陣痛の痛みのために、交感神経を緊張させるホルモン『アドレナリン』が出てきてしまうと息が浅くなり、筋肉が緊張して子宮口が開きにくくなってしまいます。一方、それに対抗する『βエンドルフィン』という“脳内麻薬”が分泌されると、全身の緊張が和らぐため、陣痛の合間にリラックスできる時間ができるとともに、交感神経の緊張を緩めることで出産が進みます。
また、授乳や肌の触れ合いで増えるホルモン『オキシトシン』は“幸せホルモン”とも呼ばれ、βエンドルフィンとともに陣痛の痛みを忘れる原因と考えられます」
Q.実際の産婦人科のクリニックでも、経産婦から「あんなに痛かったのに忘れた」といった声はあるのでしょうか。
尾西さん「確かに、2人目妊娠時に『あ…つわりや出産って結構つらかったですよね。忘れていました』というお話を聞くことも多いですが、『もう絶対に痛いのは嫌なので、今回は無痛分娩にする』という人もいます。
私自身は、記憶としては残っていますが、その後の授乳や子育ての大変さ、かわいさの方が記憶の多くを占めるようになって、出産の痛みの記憶はどんどん隅に追いやられています。母親とはそういうものなのかもしれませんね」
Q.出産時の痛みや苦しみを覚えていて「2人目が欲しいけど怖い」「第2子出産を控えているけど、陣痛が怖くてたまらない」といった声も聞かれます。
尾西さん「少し前の世代は『陣痛を経験してこそ一人前』のような考えもありましたが、出産時の痛みは『必要のない痛み』です。最近では『和痛分娩』や『無痛分娩』といった痛みを和らげる麻酔を使って分娩する方法があり、対応できる施設も少しずつ増えてきているため、そうした施設を探してみてもよいかもしれません。
また、出産に対してマイナスなイメージをもつのではなく、前向きに迎えるために、どのような出産にしたいかをご家族や助産師さんと相談して、『バースプラン』を作ってみるのもおすすめです。陣痛、分娩時に使いたい好きな香りや音楽、『こういうときには背中をさすってほしい』など、具体的にイメージすることが大切です」
オトナンサー編集部