子育て本著者・講演家の私には、現在24歳になる自閉症の息子がいます。
発達障害のわが子が「精神障害者」に分類されて怒り出す人がいます。しかし、発達障害は制度的に、障害があることを証明する公的な手帳としては「精神障害」に分類されています。
社会性やコミュニケーション能力に多くの課題を持つ発達障害の人は、知的遅れがなくても、対人関係でトラブルを起こすこともあり、生きていく上で多くの困難を伴います。学校では友達関係、就職先では同僚や上司、取引先との関係などです。
何か起こったとき、「発達障害という生まれつきの脳の機能障害があるためで、本人の気合や努力が足りないのではありません。また、性格や個性の問題ではありません」ということを証明する、発達障害者“専用”の公的な手帳が存在すればよいのですが、残念ながらそうした手帳は現在のところ、存在しません。
障害があることを示す手帳を取るのならば、精神障害を持つ人に発行される「精神障害者保健福祉手帳」を取得するしかありません。その理由は、障害があることを証明する手帳は現状、次の3つしかないからです。
・身体障害者手帳
・療育手帳(「愛の手帳」「愛護手帳」「緑の手帳」など、自治体により名称は異なる)
・精神障害者保健福祉手帳
「身体障害者手帳」は視覚、聴覚、上肢下肢欠損、体幹障害による歩行困難など身体障害がある場合が対象となります。「療育手帳」の発行対象は自治体によって異なり、東京都の場合、知能指数が75以下の場合が対象です。
つまり、上記に該当しない場合、残るのは「精神障害者保健福祉手帳」しかないのです。ただし、「二次障害などで心の病を発症した」などの事情による条件で判断され、さらに2年に1度の更新も必要です。
■「うちの子は発達障害。精神障害ではない」
従業員が一定数以上の規模の事業主には、従業員に占める身体・精神障害者の割合を法定雇用率以上にしなければなりません。民間企業の法定雇用率は2.5%(2024年4月時点)で、年々、段階的に引き上げられています。
一般枠で企業就労するのが難しい場合、障害者雇用枠で就労することができますが、その場合、障害を証明する手帳が必須となります。先述した3種類のうち、いずれかの手帳を持っていなければ、障害者雇用枠での就労をすることができません。
東京都の場合、知能指数が仮に「79」(一般の平均は100)の場合は、療育手帳の交付対象外となります。身体障害がない場合は身体障害者手帳の対象にも該当しないので、精神障害者保健福祉手帳しかありません。
そんなとき、精神障害者に対しての偏見や差別があるのか、ある研修会で「うちの子は発達障害。精神障害ではない」と怒り出した親御さんが実際にいました。
それを聞いた私は、「そうじゃないのよ。知的障害のない発達障害児が、障害者雇用促進法の法定雇用率でカウントされて企業就労するには、障害者手帳が必要なのよ。今の制度上では、知的障害のない発達障害児は精神障害者保健福祉手帳に分類されているのよ」と心の中で叫びました。
ただし、発達障害のある人は、社会生活の困難さの面においては知的障害、精神障害、身体障害がある人と同じです。その点を考慮し、知能指数が療育手帳の範囲以上の人に対しても手帳を発行している自治体も一部あるようです。
日本の福祉は“自己申告制”です。親がわが子の障害に気付いて、積極的に動くことで取得できます。受け身ではいけません。
「わが子には精神障害はないのに!」と怒ることではなく、福祉とつながることで、わが子の将来の選択肢を広げられます。
人生100年時代、親亡き後も子どもの人生は長く続きます。精神障害者保健福祉手帳で障害者雇用枠での就労を目指したり、受給者証で福祉サービスを活用したりと、支援につながる機会を増やすことが、わが子を救うことになるのではないでしょうか。
子育て本著者・講演家 立石美津子