Infoseek 楽天

特殊清掃業者が見た「凄絶な現場」と「最もきれいな孤独死」 自分の死期を悟ってすべての持ち物を処分した70才前後女性の“散り際”

NEWSポストセブン 2024年6月16日 10時58分

《誰にも看取られることなく息を引き取り、その後、相当期間放置されるような悲惨な「孤立死(孤独死)」の事例が頻繁に報道されている》──内閣府が発表する「高齢社会白書」(2022年版)にはそう記されている。孤独死に確定した定義や全国統計はないが、東京都監察医務院が公表するデータによれば、23区内におけるひとり暮らしの65才以上の自宅での死亡者数は2003年の1441人から2020年は4207人と約3倍に増えたとされる。孤独死が珍しくなくなった今、我々はこの状況とどう向き合えばよいのか。【全4回の第2回。第1回から読む】

 超高齢社会が進行する中、内閣府の白書が示すように“人間の尊厳を損なう”孤独死の増加は大問題で誰もが避けるべき最期だとされるが、異論もある。精神科医の和田秀樹さんは、孤独死の増加について「実は孤独死は理想的な死に方なんですよ」と語る。

「ひとり暮らしで誰にも看取られず亡くなり、死後数日経って発見されるということは、死ぬ直前まで元気だった“ピンピンコロリ”だと推測できます。ひとりであることを受け入れてしっかり準備をしておく方が心や時間にゆとりが生まれ、最期まで生き切ることができる。ある意味で孤独死は、理想的な死に方なのです」(和田さん)

家具は一切なく台所に寝袋があるだけ

 はたして孤独死は理想的な死なのか、悲惨な死なのか。社会保障政策に詳しい淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんが語る。

「確かに、孤独死=悪ではありません。病院のベッドで天井を見つめて死ぬわけではなく、住み慣れた自宅でひとり亡くなるのですから、当人にとっては幸せな死に方かもしれません」

 とはいえ、それでも孤独死には耐えがたい側面もある。結城さんが続ける。

「いちばんの問題は、亡くなってから遺体が見つかるまでの日数が長くなることです。死後2〜3日で見つかれば遺体も腐敗せず、普通にお葬式ができます。しかし発見が遅れるほど遺体の状態は悪化し、周囲に迷惑をかけてしまいます」

 死後、遺体が長く見つからないことへの畏怖が、孤独死のイメージを悪くしていることは間違いない。孤独死をテーマにした『死に方がわからない』の著者で、文筆家の門賀美央子さんが言う。

「一般の人は、自分は死後に腐って見つかりたくないという思いが非常に強い。孤独に死ぬこと、長く見つからないこと、そして自分の体が崩壊した状態で見つかることへの恐れが幾重にも連なり、“孤独死=惨めな死”とのイメージが広がっているのでしょう」(門賀さん)

 自宅で亡くなり、誰にも見つからず長期間放置されると遺体が腐り、異臭が出て、周辺住民が気づいたときにはまさに悲惨な状態となる。特に夏場は遺体の腐敗が早くて大変だという。

 凄惨極まる現場に乗り込み、清掃や洗浄、脱臭を重ねて汚れやにおいを落とし、部屋を元通りに回復させる──その作業を行うのが「特殊清掃業」だ。近年注目が高まり、特殊清掃業をテーマにした漫画や、実際の現場をルポした特集などが盛んに展開される。特殊清掃業を営む武蔵シンクタンク株式会社代表の塩田卓也さんが言う。

「弊社の業務も肌感覚ではありますが、10年前の2倍ほどになっています」

 特にその勢いを加速させたのが新型コロナの蔓延だ。

「コロナで人と人との接触が少なくなり、健康状態の確認が難しくなったことも影響しています。物件とかかわるオーナーや不動産管理会社、司法書士や弁護士などからの依頼が多く、遺品整理と特殊清掃の費用はワンルームで30万〜60万円、3LDKで100万円程度です。遺体や住居の損傷が激しければ200万円を超えることもあります」(塩田さん・以下同)

 ひとり暮らしの高齢者ばかりでなく、最近は「同居」のケースも目立つという。

「2階に住む親と1階に住む子の交流が少なく、親が息絶えたことに子が1週間気づかなかったり、リビングで亡くなった夫を認知症の妻が“お父さんが寝たまま臭くなった”と見守り、1か月間放置したケースなどが実際にありました。親の介護をする50代の子の体調が急変して亡くなり、続けて80代の親が亡くなる“ダブル孤独死”となることもあります」

 超高齢化に伴って孤独死のパターンが多様化する中、物件を借りるハードルも高くなっている。

「いまは物件を貸す側が孤独死を恐れてシビアになり、100万円から200万円ほどの補助金を積まないと高齢独居には貸せないという不動産会社やオーナーが増えています。都営住宅やURも高齢独居は完全禁止です。入居の際、火災保険のオプションである“孤独死保険”への加入を求められるケースもあります」

 ひとり暮らしでセルフネグレクトに陥り、室内がゴミ屋敷となった末に孤独死して、遺体と大量のゴミの腐敗が強烈な悪臭を放つ現場も少なくない。

「これまでで最も壮絶な現場は、神奈川県の山間に立つ一軒家でした。ゴミ屋敷に猫が多頭飼いされ、大量の糞尿とゴミの山の中で50代女性が孤独死し、費用はトータルで400万円ほどかかりました」

 一方で、真逆の現場もある。塩田さんがいまでも印象に強く残ると話すのは、2階建て一軒家で独居していた70才前後の女性の散り際だ。

「室内に家具は一切なく、ベッドもなく台所に寝袋とわずかなゴミだけが残されて、何とも不思議な感じがしました。亡くなっていたのは玄関の入り口あたりで、小柄なかただったので遺体はそれほど傷んでいませんでした。おそらく自分の死期を悟って、家具などをすべて断捨離したのでしょう」

 この女性のように、準備をしたうえで「きれいな孤独死」を迎える人も近年、少なくないという。その証左が、身寄りがなくある程度のお金を持った人から同社に舞い込む、「孤独死しても大丈夫な部屋を作ってほしい」という依頼の増加だ。

「リフォームまでしなくとも、ご自身で布団の下などにシートを敷かれているかたもいます。やはり、孤独死してから時間が経過すると血液や体液が遺体から排出されて、床を侵食して1階下の天井にじわじわと漏れ出ることがあるので、そうした事態を防ぐために、あらかじめ布団やじゅうたんの下にブルーシートや塩化ビニールのシートを敷きつめるリフォームの相談は多いです。

 そうしたかたたちの目的は経済的損失を避けること。ですから遺言書も用意していて、“亡くなったらこの家をお金にして市に寄付する”と残していたりします。見事な孤独死といえるかもしれません」

(第3回へ続く。第1回から読む)

※女性セブン2024年6月27日号

この記事の関連ニュース