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迷惑を最小限に抑える「理想の孤独死」を叶えるにはどうすればいいのか? 「早く見つけてもらう」ために活用すべき官民サービス、アプリなど

NEWSポストセブン 2024年6月16日 11時13分

 現在、増加傾向にあるという高齢者の「孤独死」。独居の高齢者が自宅で亡くなり、誰に見つからず長期間放置され、悲惨な状態となってしまうこともある。そういった形で迷惑をかけることなく、最期を迎えるためにできることはあるのだろうか──。【全4回の第3回。第1回から読む】

 独居の高齢者が増える中、誰にも迷惑をかけずにひとり旅立つことは難しい。しかし、迷惑を最小限に抑え、自宅で最期を迎えたいと望む人は多いはずだ。そんな「理想の孤独死」はどうやったら叶えられるのだろうか。

 識者が口を揃えるのは、「早く見つけてもらえる手を打っておく」ことだ。社会保障政策に詳しい淑徳大学総合福祉学部教授の結城康博さんは言う。

「早く見つけてもらうためには周囲との関係性を築くことが大事ですが、家族や友人を頼れないなら、官民のサービスを利用するのも手です。たとえば、東京都板橋区が手がける『高齢者緊急通報システム』は、体調が急変するなどの緊急時に通報装置やペンダントのボタンを押せば、コールセンターに通報が入ります。アルソックなど民間警備会社もきめ細かな見回りサービスを提供しています」(結城さん)

 孤独死をテーマにした『死に方がわからない』の著者で、文筆家の門賀美央子さんが活用するのはLINEを用いた見守りサービスだ。

「決められた頻度で送信される生存安否確認に、その都度“OK”と返信するだけの『エンリッチ見守りサービス』で、返信がないとさらなる生存安否確認が行われるので安心できます。ひとりで死んでなかなか見つからないという状況だけは避けたく、毎日頼っています」(門賀さん) 同じくスマホアプリを用いたユニークな見守りサービスが「もし活」。アプリのセーフティーアラートをオンにしておけば、設定した時間(24時間、36時間、48時間)にまったくスマホが動かなければ運営先に通知され、本人と緊急連絡人に安否確認の連絡が入る仕組みで、月額300円からという利用料も魅力的だ。アプリを運営するGoodService社代表の山村秀炯さんが言う。

「始まったばかりのサービスですが、口コミで利用者が増え続けています。家族のニーズというよりは、ひとり暮らしをする高齢者本人の意思で登録するケースが多いです」

 GoodService社は特殊清掃業や遺品整理をメインの業務とする。孤独死の現場に詳しい山村さんが続ける。

「特殊清掃の仕事をして実感するのは、放置された孤独死を迎える人は経済的に恵まれない社会的弱者が多いことです。コミュニティーを持たず、経済的な余裕がなく各種の見守りサービスなどを利用できず孤独死に追い込まれている印象があります。こうした社会的弱者をケアしないと、望まない孤独死をする人は今後ますます増えるはずです」

 格安の「もし活」アプリを開発したのも、低所得者の孤独死を防ぐ一助になればとの一心からで、所得によっては年間500円でサービスを受けられる場合もあるという。特殊清掃業を営む武蔵シンクタンク株式会社代表の塩田卓也さんも、孤独死に追い込まれる人たちに思いを寄せる。

「慢性的に病気がちで引きこもっている人はもともと元気がなく、身の回りの掃除をする気力もなくなりセルフネグレクトに陥り、ゴミ屋敷の中で亡くなってしまうケースが多い。こうした人々は、精神的な疾患を抱えている例もあると見受けられます」(塩田さん)

きれいな孤独死を迎えるために「意思決定」は欠かせない

 孤独死した人たちは、死の前後だけでなく、生前からずっとサポートを必要としていたのかもしれない。支援を求める声の高まりに、行政も本格的に注力し始めた。中でも65才以上の人口のうち、ひとり暮らしが占める割合が全国トップレベルの東京都豊島区は「終活あんしんセンター」を開設した。豊島区福祉部高齢者福祉課長の今井有里さんが語る。

「豊島区は単身世帯が多く、もともとひとり暮らしのかたや配偶者を亡くしたかたもいます。生活状況や経済的状況もさまざまです。センターの目的は“どう最期を迎えるか”をあらかじめ考えることで、区民のかたに不安や悩みを解消してもらうこと。それが、いまの生活を充実することにもつながると期待しています」

 業務内容は、終活の始め方や遺言書、相続、生前整理や家財処分など全般的な「終活相談」のほか、万が一の事態に備えて緊急連絡先や遺言書、エンディングノートの保管場所、献体の登録先などを登録しておく「終活情報登録事業」を23区で初めて2022年4月に開始した。

「本人が亡くなった際などに、警察や消防、医療機関などあらかじめ登録された照会に対し、区が情報を開示します。緊急連絡先や遺言書の保管場所などを区に登録しておき、亡くなった場合には事前に指定した親族や友人などに情報を伝える役割を担うこともあります」(今井さん)

 相談件数は年間のべ700〜800件で推移し、70〜80代が7割を占め、相談者の6割がひとり暮らしだ。区民の関心は高く、講演会や相談会などはすぐに定員が埋まるという。終活への関心が高まる中、きれいな孤独死を迎えるためには「意思決定」が欠かせないと語るのは門賀さん。

「重要なのは、自分がどうしたいのかを明確にしておくことです。葬式やお墓という死後のことばかりでなく、死に至るような病になった場合、延命治療をどうするかまで決めておく。意思決定をしておかないと自分の死を誰かに決断させることになりますが、私は、それは最もやってはいけないことだと思う。他人の死を決めるのは誰にとってもつらく、嫌なことですからね」

 門賀さん自身、来るべき最期に向けての準備を始めていると語る。

「私は尊厳死協会に加入済みで、万が一のときも延命治療を受ける気はありません。またリビング・ニーズ特約のある生命保険に加入し、余命半年などと診断されたら保険金の一部を先に受け取れるようにしています。お墓に関しても合同墓に入るつもりで、以上3点についてはエンディングノートにも記しています」

 意思決定を終えたら、周囲に話して伝えておくことも大事だという。

「死んだ後、周りはお葬式やいろんな手続きで忙しく、エンディングノートを探して読む暇などなく、事前のプランニングが無駄になることもある。だから決めたことは生前のうちに周囲の人間に話して伝えておくことがとても大事。意思決定を終えただけで安心してはいけません」(門賀さん)

(第4回へ続く。第1回から読む)

※女性セブン2024年6月27日号

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