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【90歳で初単独主演作】映画『九十歳。何がめでたい』が公開、草笛光子インタビュー「人生は面白がって生きないと面白くない」

NEWSポストセブン 2024年6月20日 16時15分

 芸人・こがけん曰く「90歳の青春映画」。笑えて泣けて元気がもらえると公開前から話題を呼んでいる映画『九十歳。何がめでたい』で作家・佐藤愛子を演じたのは現在90歳の女優・草笛光子だ。試写を観た人たちが口々に「草笛さんがスゴかった」と言うその理由は、愛子先生が乗り移ったかのような姿形、怒り節とユーモアで本編99分を演じきったエネルギーだ。撮影秘話を聞いた。

 取材の冒頭、発売したばかりの新刊エッセイ集『きれいに生きましょうね 90歳の茶飲み話』を手に、「ご著書もとても面白く読みました」と記者が話を向けると、「どういうふうに?」とこちらをじっと見つめてニッコリ。この展開、映画『九十歳。何がめでたい』の、佐藤愛子先生(草笛光子)と編集者・吉川真也(唐沢寿明)のやり取りそのまま──。

 最後の小説『晩鐘』を書き上げ、断筆宣言をしてのんびり過ごしていた愛子先生の自宅を初めて訪れた「ライフセブン」編集部の吉川が「人生100年時代、皆が行く末を不安に感じているこの時代に、先生のお言葉こそ、必ず読者に響くと……」と熱弁を振るう言葉を遮り、愛子先生が「私の書いた何を読んで、そう思ったの?」と、吉川の底の浅さを見透かすように質問攻めにしたシーンだ。それでもなお書いてもらおうと食い下がる吉川に愛子先生が言い放つ。

「書けない! 書かない! 書きたくない!!」

 テレビCMなどにも流れる、前半のハイライトシーンだ。

 草笛さんは1933年に神奈川県で生まれ、1950年に松竹歌劇団に入団。1953年に『純潔革命』で映画デビューしてから今年で実に71年。成瀬巳喜男、川島雄三、市川崑…数々の名監督に愛されてきた、日本映画界に燦然と輝く名優だ。意外にも今作が90歳にして初めての単独主演作というから、なんともめでたい。とはいえ、90歳はやっぱりめでたくないですか?

「90年は過ぎてしまえばあっという間ね。そりゃあいろんなことがありましたし、何がめでたいって思うこともたくさんありましたが(笑い)、この映画が無事に完成したことは何よりめでたいです」

 草笛さん演じる愛子先生は劇中で、吉川に「オレ、いいじいさんになれますかね」と問われ、「いいじいさんなんて、つまんないわよ。面白〜いじいさんになりなさいよ」と説いた。草笛さんがもしも生き方に迷う人に相談されたら、どう答えますか?

「どうかしら。人にとやかく言うつもりはないですが、人生は面白がって生きないと面白くないですよね。

 著書のタイトルにした『きれいに生きましょうね』というのは亡くなった母が私に口癖のように言っていた言葉なんです。それは何かっていうと、たとえ卑怯な仕打ちや理不尽な目に遭っても、自分は嘘をついたり、他人を押しのけたりするのはやめましょうね、毅然としていましょうね、という母との約束でもあるんです。自分が悪い方向に行こうとしていたら、『これは汚い生き方になっているかも』と思ってストップがかかるんですよ、いまでも。だから何か答えるとすれば、きれいに生きましょうね、かしら」

 著書の一編「歯に衣着せずに」にはこんな一節がある。

《飾らないこと。それがいまの私にとって、きれいに生きること。女優人生も私の人生も、あともう少しで終わりでしょうから、歯に衣着せないで、言うだけのことを言って消えて行こうと思っています》

 そんな書きぶりも、自らを“暴れ猪”と断じる愛子先生と重なる。愛子先生は著書『九十歳。何がめでたい』で、《人間は「のんびりしよう」なんて考えてはダメだということが、九十歳を過ぎてよくわかりました》と綴った。草笛さんは90歳になって何を思ったのか。

「老いとは億劫との戦い、なんです。『よし、明日の朝から散歩をしよう』と決めても、目が覚めると『朝から暑いし』なんて言い訳が浮かぶ。年を経るごとに億劫が平気になって、自分を甘やかして、だらしなく緩むようになっていく……でもそれじゃあダメですからね。やっぱり愛子先生と同じで、のんびりはせずに、1週間に1回はトレーニングをしたり、なんてことをやっていますよ」

 今回の映画は昨年10月から約2か月にわたって東京・大泉の東京東映撮影所で撮影が行われた。記者が行った日には、愛子先生が親しい人に送っていた年賀状の仮装写真を孫・桃子役の藤間爽子と実際に撮影。「天国のお母さんに合わせる顔がない」と言いながら、幼稚園児や落ち武者など次々と衣装を変えて控室から出てくる草笛さんのチャーミングなこと! ぜひ劇場の大画面で観てもらいたい、ですよね?

「『かわいい』なんて声をかけられても、おへそが曲がって馬鹿にされているような気分になって、天国のお父さんお母さんはどう思っているかしらなんて思っていたんです。でも、監督に『愛子先生が実際にやっていたんですから』と何度も説得されて(笑い)、実際の年賀状を拝見しながら近づけるように努力しました。

 私は女優なのでやり始めると真剣になってしまうの。90歳の私の精一杯をぜひ観てもらいたいわ」

■映画『九十歳。何がめでたい』6月21日(金)全国ロードショー
 小説『晩鐘』を書き上げ、断筆宣言をした90歳の作家・佐藤愛子(草笛光子)は、何もすることがなくなり、鬱々とした日々を過ごしていた。同じ家の2階に暮らす娘・響子(真矢ミキ)や孫・桃子(藤間爽子)には、そんな愛子の気持ちは伝わらない。同じ頃、大手出版社に勤める編集者・吉川真也(唐沢寿明)は、昭和気質なコミュニケーションがパワハラ、セクハラだと問題となり、謹慎処分に。妻や娘にも愛想を尽かされ、悶々とする日々を過ごしていた。そんなある日、吉川が在籍する女性誌「ライフセブン」で愛子の連載エッセイ企画が持ち上がる。すったもんだの末に、吉川は愛子を口説き落として連載がスタート。発売した単行本『九十歳。何がめでたい』が大ヒットして──。
全国353館で公開 監督:前田哲 配給:松竹

インタビュー撮影/平野哲郎

※女性セブン2024年6月27日号

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