Infoseek 楽天

《私の最初の晩餐》南果歩が振り返る、家族で食べた新阪急ホテルの中華料理「しっとり五目炒飯」と「酢豚」

NEWSポストセブン 2024年6月18日 16時15分

「最初に食べたご馳走はなんですか?」。子供の頃に母が作ってくれた料理、上京したときのレストラン、初任給で行った高級店……。著名人の記憶に刻まれている「初めて食べた忘れられない味」を語ってもらい、証言をもとに料理を再現するこの企画。今回は南果歩さんに、忘れられないご馳走を教えていただきました。

 映画『伽耶子のために』で、主演デビューを飾ったのは19才の頃。以来、作品に出続け、近年ではApple TVのドラマ『PACHINKO パチンコ』や、フィリピン映画界の巨匠ブリランテ・メンドーサ監督作『義足のボクサー GENSAN PUNCH』など、世界を舞台にさまざまな表現に挑んでいる南果歩さん。笑顔と感謝を絶やさない自由闊達な感性を育んだのは、南さんが愛して止まない家族だった──。

 * * *
 もともとは、ゆとりのある暮らしでした。大きな平屋建ての家に父と母、4人の姉と末っ子の私。教育熱心な母は、姉たちにたくさんの習い事をさせていました。ピアノやバレエ、習字にそろばん。

 けれど私が幼稚園に入った頃から、父が経営する会社が傾き始め、小学2年生のときに倒産。飼い犬と庭で遊んだり、姉のピアノ伴奏に合わせて合唱していた一軒家から、お風呂もないアパートへ引っ越すことになりました。といっても、その小さな“文化住宅”で全員が暮らすことはできませんので、家族はバラバラに生活することに。母は必死に働き、わずか1年半後にはお風呂のついた部屋を借りて、私たち5人姉妹はふたたび一緒になりました。けれど、そこに父の姿はありませんでした。

 生家を出てから約3年、私が小学5年生の頃からでしょうか。母の商いがようやく軌道に乗り、月に一度、いえ最初は数か月に一度くらい、皆で外食できるようになりました。

炒飯はおかずと一緒に食べてこそ

 私たちは兵庫・尼崎に住んでいたのですが、わざわざ一張羅を着て電車に乗り、大阪・梅田の新阪急ホテルまで行くのです。目指すは、27階の中華料理「グランド白楽天」。5人姉妹ですから、このときの争いはすごいですよ。普段は、ゆっくり話す機会もありませんから、いましゃべらなきゃ、いつしゃべる(笑い)。

 末っ子の特権で、私はいつでも母の隣に座れました。もう一方の席は姉たちの戦場です。われ先にと話しかけながら、お箸やレンゲも油断なく動かし、気持ちもお腹も満たされた古きよき中華料理は思い出の味です。

「本格」という名のもとに、最近は四川省や湖南省、あるいは東北三省といった多量のスパイスを使った刺激的な料理が流行っていますが、私の好みは、中華といったら広東料理しかなかった頃の、優しくて丸い味。

 豚肉、玉ねぎ、ピーマン、にんじんのクラシックな酢豚。甘酢ソースはケチャップ風味で、パイナップルも欠かせません。炒飯も「いまの感じ」とはずいぶん違いましたよね。いまの炒飯は、ご飯パラパラ、味つけしっかり、それだけで一品料理になるぐらいの存在感。

 私は「おかずと一緒に食べてこそ」の炒飯が好きなんです。グランド白楽天の炒飯はパラパラというより、しっとりふっくら。味つけも控えめで、おかずと一緒に食べてちょうどいい。お店では五目炒飯でしたけど、具材はもっとシンプルでもいい。賽の目に切った硬めのチャーシューとねぎだけで充分かもしれません。

 いまの家族の思い出の一品となると、選ぶのは大変です。同居している息子夫妻は、ふたりとも料理上手。息子が作るビーフウェリントンも、娘のガパオライスも大好物です。

新阪急ホテル 家族で食べた思い出の中華レシピ

■しっとり五目炒飯
●材料(2人分)
長ねぎ30g(約1/4本、チャーシュー80g、グリーンピース20g、しいたけ1〜2枚(30g)、ご飯360g、卵2個、しょうゆ・酒各大さじ1、うま味調味料・こしょう・塩各少量、サラダ油適量、牛脂またはラード20g

●作り方
【1】長ねぎはみじん切りにし、しいたけ・チャーシューは5mm角に切る。卵は溶きほぐしておく。
【2】温めたフライパンにサラダ油を入れ、全体になじんだら油を捨てて、牛脂またはラードを溶かして【1】の半量の長ねぎを炒める。長ねぎの香りが立ってきたら溶き卵を入れて半熟になるまで火を通し、すぐにご飯を入れて広げるようにほぐして一気にかき混ぜながら炒め、塩、こしょうを加えてさらに炒める。
【3】【2】にチャーシュー、しいたけ、【1】の半量の長ねぎ、グリーンピースを加えて炒めたら、酒、しょうゆ、うま味調味料を加えて炒め合わせる。

●POINT
ご飯は硬めに炊いた温かいものを使う。冷たいご飯は加熱時間がかかるため、水分が熱で飛んでパサパサになりやすい。

■酢豚
●材料(4人分)
豚ロース(とんカツ用)400g、玉ねぎ1/2個、ピーマン3個、にんじん1/3本(40g)、茹でたけのこ1/6本(40g)、パイナップルの輪切り(缶詰)2枚、にんにく1かけ、水溶き片栗粉(片栗粉大さじ1、水大さじ2)、溶き卵・片栗粉各20g、塩・こしょう少量、サラダ油揚げ用(適量)、炒め用(大さじ1)、ごま油少量

A[紹興酒としょうゆ、各小さじ1]
B[水1カップ、砂糖50g、酢としょうゆ各40ml、トマトケチャップ大さじ2]

●作り方
【1】豚肉は3cm角に切って塩こしょうし、[A]に漬け込む。
【2】玉ねぎは2cm幅のくし形切り、ピーマンはひとくち大の乱切り、縦半分に切ったにんじんは5mm厚さの斜め切りに、たけのこは7mm厚さに食べやすく切る。パイナップルの輪切りは8等分に切る。にんにくはみじん切りにする。
【3】豚肉は溶き卵、片栗粉の順につけ、170℃に温めた揚げ用のサラダ油でカリッと揚げる。
【4】フライパンにサラダ油を熱し、たけのことにんじんを強火で2分ほど炒めてから取り出し、続けて玉ねぎとピーマンをさっと炒めて取り出す。火を弱めて香りが立つまでにんにくを炒める。
【5】【4】に[B]、たけのこ、にんじん、豚肉を入れ強火にかけ、煮立ったら玉ねぎ、ピーマン、パイナップルを入れて水溶き片栗粉を加えてとろみをつける。火を止め、ごま油を加える。

●POINT
調味料(AとB)はそれぞれあらかじめ合わせる。火が通りやすい玉ねぎとピーマンは時間差で加え、野菜全般は火を通しすぎないように注意。

【プロフィール】
南果歩/1964年、兵庫県生まれ。桐朋学園芸術短期大学の在学中に『伽耶子のために』(小栗康平監督)で主役デビュー。『夢見通りの人々』(森崎東監督)で第32回ブルーリボン賞・助演女優賞を受賞。長年にわたって、テレビや舞台など幅広く活躍している。

写真/深澤慎平 料理・スタイリング/柳瀬真澄

※女性セブン2024年6月27日号

この記事の関連ニュース