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春ドラマ4作品が「記憶障害」かぶり 支持を得た作品と失った作品、その違いとは?

NEWSポストセブン 2024年6月17日 11時15分

 ドラマで特定の設定が「かぶる」ことは少なくないが、それが放送中の4作品となると珍しいのではないか。春ドラマ4作品で「記憶障害」という設定がかぶっているのだ。支持を得た作品と失った作品とは? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 春ドラマがいよいよ最終話ウィークに突入し、ネット上に関連記事が増えているほか、SNSにはあらためて賛否の声があがりはじめています。

 今春のドラマで最大の話題は、「記憶障害という設定がかぶったこと」でした。

 ゴールデン・プライム帯の作品では、『366日』(フジテレビ系)、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ制作・フジテレビ系)、『くるり~誰が私と恋をした~』(TBS系)、『9ボーダー』(TBS系)の4作。さらに深夜帯でも『約束 ~16年目の真実~』(読売テレビ制作・日本テレビ系)で記憶障害が扱われました。

 けっきょく、最も効果的に設定を生かし、視聴者の支持を得られたのはどの作品なのでしょうか。

後発『366日』と定番『9ボーダー』

 最も苦しかったのが『366日』。第1話で主人公・雪平明日香(広瀬アリス)と結ばれたばかりの水野遥斗(眞栄田郷敦)が事故で意識不明になってしまい、第5話でようやく目を覚ましたが記憶障害が発覚する……という重い展開の連続に「見ていられない」などのネガティブな声が目立ちました。

 終盤では記憶障害でのすれ違いを理由に2人が別れたほか、最終話目前で遥斗が「記憶が戻っている」という素振りを見せましたが、ネット上の反応は微妙。視聴者が「最後まで記憶障害という設定に感情移入できない」というムードのまま最終話を迎えることになりつつあります。

 その背景にあるのが、記憶障害の発覚が“後発”だったこと。ゴールデン・プライム帯の残り3作は第1話の段階で記憶障害を前面に押し出していたため、『366日』は“後発”とみなされ、「これもか」「今さら」などの印象を与えてしまった感があったのです。

 次に『9ボーダー』の設定は、主人公・大庭七苗(川口春奈)が記憶を失いバルで働くコウタロウ(松下洸平)と恋に落ちるというもの。着実に距離を縮めていたものの、第8話でコウタロウの正体が発覚し、婚約者と家族経営する会社の存在が明らかになり、2人の関係に危機が訪れました。

 この流れは同じ「金曜ドラマ」で17年前に放送された『歌姫』(TBS系)とほぼ同じであるなど、記憶障害を扱った物語の定番。「切なさを感じさせるか、冷めてしまうか」の紙一重であり、反響は限定的なものに留まっています。

 そもそも『9ボーダー』は、「19歳・29歳・39歳」3姉妹の3L(LOVE、LIFE、LIMIT)がテーマの作品だけに、記憶障害の設定が占める部分が小さく、それでいて「かぶりを指摘される」という不運なところがありました。

多面的『アンメット』と考察『くるり』

『アンメット』は、不慮の事故で脳に損傷を負い、「過去2年間の記憶が抜け落ちた上に、今日のことは明日になるとすべて忘れてしまう」という記憶障害のある脳外科医・川内ミヤビ(杉咲花)が再び医師として歩きはじめる物語。他3作がラブストーリーにおける記憶障害を扱っているだけに、その点で差別化できていました。

 さらに、消えた2年間の記憶の中にある、さまざまな謎や真実、人間関係を解明していくミステリーとしての醍醐味もあり、その他でも週替わりでさまざまな脳の障害が扱われるなど、多面的にフィーチャーすることで「かぶり」の印象はほとんどありません。そもそも4作の中では唯一、漫画原作のある作品で、杉咲花さんの繊細な演技もあって、ネット上の反応も好意的な声が大半を占めています。

 そして、今春の記憶障害という設定に関して、最も視聴者の反応がいいのは『くるり』。放送前は「記憶を失った主人公の緒方まこと(生見愛瑠)とタイプの異なるイケメン3人のよくあるラブストーリー」という印象を与えていました。

 しかし、はじまってみると記憶障害をきっかけに、「人に嫌われないよう素を見せずに生きてきた自分の人生を生き直す」「本当の自分らしさを探していく」という人生ドラマの要素がフィーチャーされ、見応えが格段にアップしました。

 そして終盤には、「元カレ」と語る西公太郎(瀬戸康史)、「唯一の男友達」と語る朝日結生(神尾楓珠)、「運命の相手」と語る板垣律(宮世琉弥)の謎と嘘をめぐる展開が加速。まことは律とつき合っていたことや公太郎が元カレではないことなど、昨年のクリスマスまでの記憶がよみがえりました。しかし、クリスマスから春までの記憶が戻っていないことから、ネット上には「その間に律と別れていたのではないか」「実は公太郎が好きなのではないか」などの予想が飛び交っています。

 さらに、まことに告白を断られ、本当の友達になった朝日にストーカーの疑惑が浮上。また、まことに寄り添ってきた平野香絵(丸山礼)を疑う声もあるなど、最終回を前にさまざまな考察で盛り上がっています。

 タイトル通り「くるり」と何度もひっくり返る展開の妙は、記憶障害という設定を最大限に生かしたことの証。すべての記憶を取り戻したまことは誰を選ぶのか。事故に遭った夜に何があったのか。ストーカーは誰なのか。11日放送の第10話に続いて最終話でもXの世界トレンド1位を獲得できそうなムードが漂っています。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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