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なぜ、東京都知事選には多くの人が立候補するのか 出馬は前回の22人を上回る史上最多となる見込み

NEWSポストセブン 2024年6月19日 7時15分

 国民の代表、地域住民の代表を選ぶ選挙だが、ネット選挙が解禁されたり政見放送がネットでも公式に見られるようになって以降、少し違った感覚で選挙を体験する人たちもいる。なぜ東京都知事選挙には、これほど多くの立候補者が集うのか。ライターの小川裕夫氏が、過去の選挙取材などから考えた。

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 小池百合子都知事が2024年6月12日に3選出馬を表明。6月24日に告示、7月7日に投開票の東京都知事選には、これまで現職の小池百合子氏のほか参議院議員の蓮舫氏、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏、タレントの清水国明氏、元航空幕僚長で2014年の都知事選にも出馬した田母神俊雄氏、元迷惑系YouTuberのへずまりゅう氏などが立候補を表明している。

 都知事選は全国各地で実施されている地方選のひとつに過ぎない。それにも関わらず、毎回のように多くの立候補が出揃う。

 なぜ都知事選は全国から注目を集め、たくさんの人が立候補するのか。前回2020年の都知事選は、22名による争いとなり都知事選史上最多を記録した。今回の都知事選は、それを上回る50人超が立候補の意向を示しているという。なかでも、元参議院議員の立花孝志氏が率いるNHKから国民を守る党が20人以上を擁立すると事前から宣言していることの影響が大きい。

 そうしたイレギュラーな事態はともかくとして、以前から都知事選は毎回多くの候補者が立ち、情報量も話題性も大きかった。

 その理由は何よりもマスコミ報道が過熱することが大きい。なぜ、マスコミ報道が過熱するのか。それは、東京都がほかの46道府県と比べて人口・財政ともに突出しているからにほかならない。

 東京都は人口が約1400万人。東京都の一般会計・特別会計・公営企業会計を合わせた全体の予算規模は約16兆5000億円にものぼる。これはスウェーデンの国家予算に比肩する。

 そのため、東京都の浮沈は都内の市区町村のみならず、ほかの46道府県、果ては諸外国にも及ぶ。そんな国家レベルともいえる東京都のトップを選ぶのだから、その選挙に注目が集まらないわけがない。

浮動票が多い東京都

 本来、選挙は政策競争でなければならないが、街頭演説や政見放送で真面目に政策を訴えても有権者に浸透しない。

 また、選挙には権力闘争の側面もある。政党間による駆け引き、業界団体のしがらみがなど、いくつもの利権が複雑に絡み合って、組織票が動く。

 さらに東京都は無党派層の有権者が多くを占め、浮動票も選挙戦を左右するので人気投票といった一面もある。

 実際、お茶の間に顔が知られている有名人が選挙に出馬すると、街頭演説には多くのギャラリーが集まる。握手を求めて黒山の人だかりができたり、一緒に写メを撮ろうと長蛇の列ができたりする。多くのギャラリーが集まれば、政策を広めやすく、支持を得られやすい。

 現職の小池百合子氏はニューキャスターから政界に身を投じた。蓮舫氏もグラビアアイドルとして活躍し、その後はニュース番組のキャスターを務めた。清水国明氏も「噂の!東京マガジン」といった時事問題も扱うテレビ番組で活躍している。

 YouTubeやTikTok、Instagramといったネットの発信力が力を増している2024年においても、テレビに多く出演してお茶の間に顔を知られていることは選挙でプラスに働く。顔も名前も知らない候補者は、街頭で演説をしても道行く人たちに見向きもしてもらえない。どんなに素晴らしい政見を訴えても有権者の耳には届かない。選挙において知名度がない候補者は、大きなハンデキャップを負っている。

簡単には成功しない「売名」

 筆者は有名・無名、政党支援の有無といった候補者のステイタスによらず、時間・体力・財力の許す限り多くの候補者を取材しようと努めてきた。なかには届出だけして選挙活動をしない候補者もいる。特に、都知事選は候補者が多く乱立するので、選挙期間中に会えない候補者は少なくない。

 そうした候補者は当選する可能性が低く、一般的に“泡沫候補”と呼ばれる。筆者は候補者に対して敬意を払って”泡沫候補”という呼称を使わないことにしているが、なぜ当選する可能性が低いのも関わらず立候補するのだろうか。

 すぐに思い浮かぶ理由は、都知事選に立候補することによって知名度を上げることだろうか。平たく言えば、“売名”ということになるが、よくよく考えれば都知事選に立候補しただけで世間に名前を売ることはできないことは誰でも理解できる。政見放送をきっかけに注目を集め、売名に成功したと言える人がいないわけではないが、ごく一部だ。売名なら、先にSNSで人気になることを狙った方がコスパはいい。

 過去5回の都知事選に遡ると2007年が14名、2011年が11名、2012年が9名、2014年が16名、2016年が21名も立候補しているが、当選者以外で名前を覚えている人は何人いるだろう。相当な政治通・選挙マニアでなければ、せいぜい1人か2人だろう。都知事選後、大半の候補者は人知れず日常生活へと戻っている。都知事選に出ただけで、売名なんてできないのだ。

 それでも、母数が多ければ少数でも支持者や共感者を得られる可能性はある。移り気な多数よりも、確実に寄り添ってくれる仲間を見つけやすい。ただ、それは当選することを必ずしも目的としないやり方だろう。

選挙は究極の消去法

 数少ない例外ながら、私が取材したことがある独力で戦った候補者でも後に晴れて議員になった人物もいる。

 2019年に東京都港区議会議員選挙に当選したマック赤坂氏と2023年に宮崎県宮崎市議会議員選挙に当選したスーパークレイジー君氏(2024年に辞職)だ。

 NHKから国民を守る党を一人で立ち上げ国政政党にまで押し上げた立花孝志氏も2016年の都知事選から取材をしている。当時の立花氏は世間から注目されるような存在ではなかったが、それでも2015年に船橋市議会議員に当選していた。そうした経歴を勘案すると、ほかの都知事選候補者と同列には論じられない。

 街頭で選挙活動をしていても、通りすがりの人たちに冷笑・罵倒・無視をされ続けながらも彼ら・彼女らが都知事選に出る動機は何なのか? 都知事選の供託金は300万円。ポンと出せる金額ではない。だからと言って、金持ちの道楽で選挙をしているわけでもなく彼らなりに本気だ。当選するつもりがあるのかはっきりしないように見える立候補者が数多く出現する東京都知事選挙は、多様で複雑になっている社会を象徴していると言っていいだろう。

 その理由は、「人は誰もが政治家であり、自分以上に理想の政治家はいないから」だ。そのため選挙は究極の消去法とも言われている。少しでも自分の考え方や気分に沿った人を選びたいと思ったとき、東京都のように多種多様な人が求められる場所は日本でほかにない。

 自分が選挙に出ないのとしたら次善の人、つまり自分の理想に近い候補者を選ぶしかない。よりマシな選択をするためにも、選択肢が多いに越したことはない。候補者が乱立する都知事選は、よりマシな選択肢を提示してくれる選挙ともいえる。

 せっかくバラエティーに富んだ候補者が揃う都知事選なのだから、事前の報道だけで投票を判断するのではなく、まずは多くの候補者を自分の目で見て、そして耳で話を聞いて、さらには握手で確かめてほしい。

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