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【ラーメン店経営の組長射殺】対立組織のヒットマン逮捕で見える「警察の狙い」山口組抗争再燃の可能性も

NEWSポストセブン 2024年6月19日 7時15分

 6月7日、神戸市長田区のラーメン店店主だった六代目山口組中核組織・弘道会傘下組織組長が射殺された事件で、絆會若頭である金澤成樹容疑者をはじめ、計5人が逮捕された。

 金澤容疑者は長野県宮田村での殺人未遂、茨城県水戸市での射殺事件の2件で逮捕されており、これが3件目の容疑となった。

「留置されていた水戸から神戸への押送の際、たまたま六代目山口組関係者が知人を迎えに行っていたためかち合ってしまい、警察があたふたしたそうだ」(六代目山口組と友好関係にある関東広域組織参組長)

 金澤容疑者には暴力団社会でも類型のない「連続ヒットマン犯」の疑いがある。一般的な押送とは別次元の緊張感だったろう。以前、神戸山口組の井上邦雄組長に取材した際、「織田(絆誠・絆會会長)のところには最高の若い衆がいる」と、金澤容疑者を激賞していた。暴力団社会の論理では、その言葉に嘘はなかった。

 事件は2023年4月22日、神戸市長田区のラーメン店で起きた。

 店内で作業中の組長が、突然侵入してきた黒い洋服を着たやせ形の男に射殺されたのだ。ニュースは暴力団の抗争事件というより、ヤクザがラーメン店を経営し、自ら厨房に立っている意外さが広く話題となった。だが、直後、ラーメン店入り口の防犯カメラ映像が暴力団筋から流出し、空気ががらりと変わった。

 動画はヒットマンの姿も、病院に搬送される組長の様子もはっきりと捉えていた。ヒットマンが店内に侵入し、凶行を終えて出て行くまでおよそ40秒……体型や歩き方から、「絆會の金澤若頭ではないか?」と噂になった。

「六代目山口組側はしきりに『あれは金澤だ』と騒いでいたが、すでに別の射殺事件も金澤の犯行と目されていた。そのため信じがたい話だった。殺人未遂と二つの殺しを合わせると、どう考えても死刑は免れない。ヤクザは親子関係を建前にしているため、殺してこいと命令できても、死んでこいとは指示できない」(同前)

 金澤容疑者は、2020年9月28日の夕方、長野県宮田村の飲食店駐車場で、腹心だった暴力団幹部の腹部を銃撃した。絆會から六代目山口組への移籍を表明していて、それを食い止めようとしたと言われている。

 それ以後、3年4か月の逃亡生活のなか、現役暴力団員が「あり得ない」と断じた二つの殺人事件に手を染めたことになる。

 一つ目が2022年1月に茨城県水戸市で起きた六代目山口組傘下組織・一心会若頭の射殺事件だ。

 当局の見立てでは、当日、金澤容疑者は近くの洋菓子店でケーキを購入。それを手土産にして事務所に乗り込み、殺害した。事件は一心会と絆會の勢力争いの暴発だった。金澤容疑者は、一心会のプレッシャーを跳ね返すために若頭を殺害。一心会は即座に報復を行ない、伊賀市で絆會直参組長を銃撃している。

 二つ目がこのラーメン店主殺害事件だった。

「普通のヤクザなら、一度事件に使った拳銃はすぐ捨てる。海や川に投げ捨てれば、ほぼ絶対に見つからない。金澤若頭のようなタイプは、拳銃がないと落ち着かないから、事件に使った銃を捨てられなかったのだろう。つまり新しい道具を買う金がなかったとしか思えない」(警察関係者)

 逮捕された際の所持金も長期間潜伏できる金額ではなかったという。死刑を恐れず、次々と事件を起こした金澤容疑者もまた、哀しきヒットマンでしかない。

事件に関しては完全黙秘

 金澤容疑者の指名手配写真は、連続企業爆破事件の桐島聡の隣にレイアウトされていた。

 今年1月29日に桐島が死に、マスコミが連日騒いだため、隣に顔写真があった金澤容疑者に注目が集まり、当初はそれが急転直下の逮捕に繋がったという見方もあった。だが、潜伏していた最寄りの駅から徒歩で30分以上かかる仙台市内のアパートで、車での移動が大前提のエリアだ。東日本大震災以降、流入人口が多く、住民同士の交流はほぼない。近隣住民の「町内会費を払わない人」という証言はあったが、通報されるような環境には思えなかった。

 そのため六代目山口組は、絆會のイメージダウンのため「身内がチンコロ(密告)したんだろう」と喧伝しはじめた。

「あれだけの仕事を1人でしたのだから、組織の中ではどんな我が儘も通ったはず。でもいまの絆會は安い会費で運営されており、余剰財源を持っているわけではない。要求を断れず、耐えきれなくなった誰かがサツにたれ込むのはよくある話だ」(東京に本部を持つ六代目山口組直参組織幹部)

 捜査関係者によると、金澤容疑者は事件に関して完全黙秘だが、存外、雑談には応じているらしい。完全否認とはいえ、これだけの状況証拠があると厳しい裁判だろう。同時に逮捕された4人が、金澤容疑者と同じように黙秘できるとも思えない。今はヒットマンを現場に運んだ運転手でさえ懲役20年になる。さらに逮捕者の詳細を見ていくと、警察の真意も透ける。

「警察の狙いは金澤の上にいる絆會の織田会長でしょう。織田会長狙いとしか思えない逮捕者がいる。織田会長の関与があったかどうかが焦点になる」(同前)

 そもそも絆會は六代目山口組から攻撃されておらず、突如、六代目の中核組織である弘道会系の組長を殺害したのも不可解だ。バックに黒幕がいる可能性もある。事件の背景がはっきりすれば、六代目山口組は苛烈な報復を実行するかもしれない。

取材・文/鈴木智彦(フリーライター)

※週刊ポスト2024年6月28日・7月5日号

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