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候補者乱立の都知事選 東大卒AIエンジニアが「超アナログ」な世界に名乗りを上げた理由

NEWSポストセブン 2024年6月19日 11時15分

 任期満了に伴う東京都知事選(6月20日告示、7月7日投開票)へ向け、沈黙を続けてきた小池百合子知事(71才)がついに出馬を表明。もっとも強力な対抗馬とされている蓮舫氏(56才)ほか、YouTubeを駆使して議会の悪習を世に問い、わずか4年で財政を健全化させた広島県安芸高田市の元市長・石丸伸二氏(41才)から“迷惑系ユーチューバー”のへずまりゅう氏まで、あらゆる候補者が乱立し、その数は40人以上。

 過去最多と言われ、「ポスターを貼る場所は足りるのか?」と懸念する声も聞こえてくるほど多数の候補者の中でも、異彩を放っているのが「テクノロジーの力で誰も取り残さない東京にアップデートする」などの政策を掲げる安野貴博氏(33才)だ。安野氏は『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)など多数のテレビ番組に出演し、岸田文雄首相(66才)の「AI戦略会議」に招かれ、AIを使った岸田氏の「声まね」を披露して大きな注目を集めた若手AIエンジニアだ。2022年には「ハヤカワSFコンテスト」で優秀賞を受賞し、作家デビューを果たす。過去にはAIスタートアップ企業を2社創業した起業家としての一面も持つ。

 掲示板にポスターを1枚ずつ貼り、街頭に立って演説し、支持者一人ひとりと握手を交わす────「票数は握った手の数で決まる」とも言われる”アナログの極み”である政治の世界に、なぜテクノロジーの最先端を走る若手エンジニアが名乗り出たのか。

 東京の超名門・開成高校を卒業後、東京大学に進学。AI研究の松尾豊研究室を経て外資系コンサルティング会社ボストン・コンサルティング・グループに就職────物心ついてからのほとんどの時間を「都民」として過ごしてきた安野氏だが、都政の在り方に違和感を覚えることも多かったという。

「自分たちが一票を入れた後、それがどう反映されて行くのかが不透明に感じられました。実際、今回出馬するにあたって国会議員や都議の方にヒアリングしたところ『自分が有権者から何を託されているのかわからないというのが本音』という意見も少なからずあった。そうした状況をテクノロジーによって変えていけるのではないか、有権者の意見をもっと吸い上げることができるのではないかと思ったのが、立候補の大きな理由です」(安野氏、以下同)

 安野氏は政策提言のひとつとして、ソフトウェア開発ソフト「GitHub」で政策を管理し、誰でも変更を提案できる仕組みを用意するなど「政策のオープンソース化」を掲げている。

「自治体で行う手続きのデジタル化も推進したい。私の周囲にはパパやママとして子育てをしているかたがたくさんいるのですが、1回の出産で何枚もの書類を書かなければならない。また、今回の選挙で候補者として都庁に審査に行った時も数十枚の書類を受け取る必要があり、データで納品することもできなかった。そうした手続きにかかる負担は、デジタル化を推進することで大きく軽減されると思っています。 

 企業や組織でデジタル化がうまくいかない大きな理由は技術の問題ではなく『なんとなく腹落ちしない』『デジタル化する意味がわからないからこのままやりたい』といった意思決定の権限を持つ人の気持ちの問題にあることが多いんです。オンラインでチャットやリモート会議ができる情報共有ツール『Slack』や『Teams』などみなさんが普段会社で使っているアプリの性能と公共サービスの使いやすさが大きく違うことも、問題視しています。都知事は首長として広範囲に意思決定権があるため、そうした状況をいい方向に変えることができると考えています」

 出馬を検討しはじめたのはいまから3か月前の今年3月頃で、意思決定をしたのはなんと3週間ほど前の6月初旬。そんな“スピード立候補”を可能にしたのもまた、テクノロジーの力だった。

「個別の政策については、インターネットを通じて手を挙げてくださったエキスパートのかたを集めながら、Slack上で議論を交わし、練り上げて磨きをかけています。いわゆる選挙対策として物理的な”事務所”を持ってはいないものの、すでに600人ほどがチーム員としてかかわってくださっている。ボランティアチームの規模も、日々急速に拡大しています。もしこれが、実際に会って打ち合わせしなければ話が進まないのであればこの速度で進行するのはまず無理でした」 

 チーム員のほとんどは20代から30代前半。投票率が低く、「政治に関心のない世代」と言われてきたが、安野氏は違った見方をしている。

「初めて”推せる政治家”が出てきたというリアクションをいただくことが多くて……。私が提言している政策のオープンソース化で自分の一票がどう反映されていくか、その道筋が見えるようになったことで、一気に政治を”自分ごと”としてとらえられるようになったのだと思う」

 若い世代がテクノロジーの進化を歓迎する一方、「取り残されるのではないか」と拒否感を示すシニア世代は少なくない。

「いまはLINEやYouTubeなど、どんな方でも使いやすいツールが多くある。今のテクノロジーは一部の専門家だけでなくすべての人をエンパワーメントする性質のものになりつつあるのではないかと思っています。

 実際、AIが一人暮らしの高齢者の話し相手になっている例もあれば、介護現場において匂いによっておむつ替えのタイミングを測ることができるセンサーを開発したスタートアップ企業もあります。介護する側の負担が減るだけでなく、される側もすぐにおむつを替えてもらえるから不快な思いをする時間が少なくなる。双方にメリットのある状態を作りだすことが可能になるのです。

 一方で、テクノロジーを駆使して効率的に物事を進めることと同じくらい、人間と人間が顔を合わせてしゃべったりコミュニケーションを取ったりすることからしか生まれないものもあることも理解しています。ただ、そこもテクノロジーで突破できないかといろいろ私も模索していて、たとえば今回の選挙戦ですとYouTubeライブで私のAIアバターを使って24時間いつでも質問してもらえるようなことをやろうとしています。”票の数は握手の数”と言われますが、AIアバターは握手もできるので、都民の皆さんに安心していただけるような政策の内容はもちろん、握手の数でも他の候補者に負けないぞ! という気持ちでいます(笑い)」

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