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【藤井聡太八冠の牙城を崩すのは誰か】「とよぴー」「軍曹」「やんちゃ流」「貴族」「マッスル」「もぐら兄弟」…襲いかかる“現役最強棋士軍団”の顔ぶれ

NEWSポストセブン 2024年6月20日 11時13分

 前人未到の八冠制覇から8か月。藤井聡太八冠(21才)はいまだ、全てのタイトルを守り続けている。しかし、周囲ではライバルたちが虎視眈々とタイトルの座を狙っている。絶対王者に襲いかかる現役最強棋士軍団の顔ぶれは──。将棋ジャーナリストの松本博文氏が寄稿した。【全3回の第2回。第1回を読む】

タイトルを奪取せんと次々に襲いかかる現役最強棋士軍団

 将棋界の順位戦では、名人1人(現在は藤井)をピラミッドの頂点として、それに続くA級棋士が「最強軍団」を構成している。現在の筆頭は、先の名人戦で藤井に挑戦した豊島将之九段(34才)。キャッチフレーズは「序盤、中盤、終盤、スキがない」。愛称は「とよぴー」「きゅん」。

 前王座で、藤井の八冠達成の最後の関門となったのは永瀬拓矢九段(31才)。藤井の研究パートナーでもある。努力の鬼で、そのストイックな姿勢から「軍曹」とも呼ばれてきたが、現在のポジションは元帥、将軍クラスだ。

 現在最強の振り飛車党なのが菅井竜也八段(32才)。棋風は「やんちゃ流」。対局中は修羅のような形相だが、普段見せる笑顔はやさしい。

 元名人の実績を持ち、藤井とのタイトル戦を期待されている一人が佐藤天彦九段(36才)。優雅な物腰と孤高のファッションセンスから「貴族」と呼ばれる。好きなブランドはアン・ドゥムルメステール。

 2017年に藤井のデビュー以来30連勝を阻止し、昨年度はNHK杯優勝、年間最高勝率更新を阻んだのが佐々木勇気八段(29才)。小4にして小学生名人戦で優勝するなど、幼い頃から「天才」と呼ばれてきた。将棋好きの少年がそのまま大人になったような天真爛漫な心の持ち主でファンも多い。

 着実なステップアップを重ね、今年度からA級に所属する増田康宏八段(26才)は才能、実力ともに若手屈指の存在。愛称は「まっすー」。筋トレで鍛えているところから、最近では「マッスル」とも呼ばれる。

言わずもがなのレジェンドたち

 史上初の七冠制覇、永世七冠達成など、将棋史上最高の実績を誇る羽生善治九段(53才)。現在は日本将棋連盟会長を務めながら、盤上でもその強さは健在だ。2022年には王将戦で藤井に挑戦し、途中まで互角の星取りで渡り合った。これまでの通算タイトル獲得数は99期。ファンからは節目の100期を待ち望まれている。

 羽生九段と長く天下を争ってきた渡辺明九段(40才)はタイトル通算31期(現役棋士中2位)。藤井との度重なる激闘の中で無冠に追い込まれたが、ここから反撃開始なるか。

AIを駆使してメキメキ力をつける若き精鋭たち

 藤井のライバル候補の大本命とみられてきたのが伊藤匠七段(21才)。両者は同じ2002年生まれだ(誕生日は、藤井が7月19日、伊藤は10月10日)。伊藤は師匠・宮田利男八段や親しい関係者からは「たっくん」と呼ばれている。

 小学生の頃、2人は全国大会の準決勝で対戦し、伊藤が勝利。敗れた藤井が号泣したことは、いまでも語り草になっている。以後は藤井が先行し、史上最年少14才で棋士となり、17才でタイトルを獲得するなど、将棋界の主要な最年少記録を塗り替えてきた。

 一方、伊藤も17才で棋士となり、20才でタイトル挑戦を果たす。藤井さえいなければ、伊藤が次代の覇者と目されてもおかしくないような出世スピードだ。現在までのところ、藤井より後に生まれ、藤井に公式戦で勝ったことのある棋士は、伊藤のほかにいない。もし伊藤が藤井からタイトルを奪えば、席次上はナンバー2に躍進。名実ともに藤井のライバルといえる存在になるだろう。

 伊藤とともに順位戦ではB級2組に所属する服部慎一郎六段(24才)も若手の注目株の一人。若手棋士の登竜門・新人王戦優勝の実績もある。忍者のポーズを取りながらの決めゼリフ「ニンニン!」がファンの間では有名だ。現在はお笑いユニット「もぐら兄弟」と組んで、M-1グランプリ挑戦も表明している。

 2023年度、藤井とともに年間勝率の史上最高記録更新まであと一歩と迫ったのが藤本渚五段(18才)。タイトル戦登場にあと少しまで勝ち進んだこともある。藤井に挑戦するのも時間の問題かもしれない。音楽の趣味においては、藤井と藤本はともにスピッツが好きという共通点もある。

 藤本と同門(井上慶太九段門下)の上野裕寿四段(21才)も大注目の新鋭。2023年度の新人王戦では決勝で上野が藤本を降して優勝した。棋士の養成機関・奨励会にも多くの俊英が集っている。山下数毅三段(16才)は奨励会員として史上初めて竜王戦6組決勝に進み、最後は藤本に敗れたものの、準優勝を果たした。奨励会や、こども大会の成績表を見て、未来の大棋士候補を探すのも一興だ。

(第3回へ続く。第1回から読む)

【プロフィール】
松本博文/将棋ジャーナリスト。東京大学将棋部在籍中より将棋書籍の編集・執筆に携わる。名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力し、「青葉」名で中継記者を務める。『ルポ 電王戦』で第27回将棋ペンクラブ大賞文芸部門賞を受賞。『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』など著書多数。

※女性セブン2024年7月4日号

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