作家・佐藤愛子さんのベストセラーを映画化した『九十歳。何がめでたい』。この映画の公開記念イベントでは、佐藤さんから主演の草笛光子に宛てた手紙が紹介された。同イベントを取材した、放送作家でコラムニストの山田美保子さんがリポートする。
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社会現象を生んだシリーズ累計178万部の超人気エッセイが、主演・草笛光子×『老後の資金がありません!』の前田哲監督のタッグにより映画化。エッセイと同名の『九十歳。何がめでたい』として、6月21日より絶賛公開されている。
「あなたの悩みも“一笑両断”!」「2024年No.1 笑いと共感の痛快エンターテインメント」のキャッチコピーの同作は、キャストの一人で、17年ぶりに復活した「淀川長治賞」を受賞した映画コメンテーターのLiLiCoによれば、「家族3代で観られる珍しい映画」「みんな忙しいから、99分というのも丁度いい」とのことだ。
20日に実施された「祝公開前日祭」には、草笛、前田監督に加え、唐沢寿明、真矢ミキ、藤間爽子、LiLiCo、宮野真守、そして主題歌『チーズ』を歌う木村カエラが花束を抱えてサプライズ登場した。
同イベントの中で、既に映画を観終わっていた約600名が耳を澄ませて聞いていたのは、原作者の佐藤愛子氏から主演の草笛光子にあてた“お手紙”。当日、MCを務めたTBSの山本恵里伽アナウンサーが代読した。(以下、全文)
「草笛さん、映画『九十歳。何がめでたい』の完成おめでとうございます。お疲れ様でした。
常人にはとても理解できない佐藤愛子という人間を演じた草笛さんには、つくづく私の可笑しさが身に沁みて、困惑されることも多かったのではないかと思うと、同情申し上げるやら、申し訳なく思うやら、心中察するに余りあります。
幼稚園児やメイド服、幽霊や落武者など、私が親しい友人に送った年賀状のコスプレ写真の撮影にも、たいへん苦労されたと聞きました。
肺炎になられたと聞いたときには驚きましたが、たちまち回復されて、さすが九十歳。まだまだ、お若いとホッと胸を撫でおろしました。
私は『九十歳。何がめでたい』の最後に、『人間はのんびりしようなんて考えてはだめだということが九十歳を過ぎてよくわかりました』と書きましたが、百歳になったこの頃は、のんびりという状態がどういう状態なのか、わからなくなってきました。
のんびりしているのではなく、ぼんやりしているだけか、今から思えば、あの頃はすごく元気だったんですね。
九十歳の草笛さんののんびりと、百歳の佐藤愛子ののんびりは違うと思います。今度お目にかかるときに、お互いののんびりについて話し合いましょう。その日を楽しみにしています。お元気で。六月二十日 佐藤愛子」
変わらず、ウイットに富み、元気と勢いのある文章に心から驚かされる。そんな佐藤氏の現在の様子も“奇跡”と言うべきものだが、
昨年の10月から12月に行われた撮影についても「奇跡だった」と前田監督と、連載と単行本の編集者、小学館の橘高真也は口を揃える。佐藤氏からの手紙にもあったように、もしも草笛の肺炎が長引けば、撮影スケジュールが大幅にずれてしまい、キャストとの共演シーンや、撮影セットにも影響が出てしまう可能性があった。草笛は誕生日が10月ゆえ、九十歳での映画公開も実現できなかったからだ。
共演者も驚いた“リアル九十歳”草笛光子
“リアル九十歳”ながら、吹替なしですべてのシーンをこなした草笛に対しては、共演者で61歳の唐沢や60歳の真矢が心から驚き、29歳の藤間は「チャーミングでカッコイイ」と評している。
主題歌を担当した木村カエラも草笛や佐藤氏の潔さに共感し、そんな世界観を詞に綴ったという。
前日祭への登壇はなかったが、オダギリジョーや清水ミチコ、三谷幸喜氏らも一様に撮影の楽しさと草笛へのリスペクトを熱く語っているところ。ここまでキャスト全員が主演俳優に心酔している作品というのも、そうはないだろう。
そうした“熱”の数々が配給の松竹にも、製作幹事のTBSにもストレートに伝わっているのだろう。現在、TBSの入口から正面玄関までの通路の天井で何十枚もたなびいているのは、佐藤愛子氏そっくりな草笛をメインにした広告。広告といえば、タクシー内で「いくつになってもシートベルトを…」と真矢が促す、草笛と唐沢との3ショット動画もあり、PRにも熱がこもっている。
90歳で映画に主演したのは草笛が初めてとのこと。2024年後半、各所で話題を呼ぶこと間違いナシの映画『九十歳。何がめでたい』は全国で絶賛公開中だ。
【プロフィール】
山田美保子(やまだ・みほこ)/『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)などを手がける放送作家。コメンテーターとして『ドデスカ!+』(メ~テレ)、『1周回って知らない話』(日本テレビ系)、『サンデージャポン』(TBS系)に出演中。CM各賞の審査員も務める。