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【テキーラに浮かぶ眼球】ススキノ事件・瑠奈被告(30)が愛した「怪談バー」 ずっしりと重い“人の生首”も 逮捕直前、夫婦が行きつけの店で交わした会話

NEWSポストセブン 2024年6月25日 7時15分

「ここ、ルナルナが通ってたお店でしょ?」──隣のボックス席から、そんな会話が聞こえてきた。

 ここは北海道札幌市の歓楽街、ススキノの中心部にある、『怪談』をテーマにしたコンセプトバーだ。飲み放題で安価で飲めるため若者が多く集う人気店となっている。時間を区切って語り部が現れ、怪談を聞かせてくれる。その話に合わせて、部屋が暗転したり、大きな物音が響くなどの演出もあり、怪談好きの客を怖がらせる。

 隣の席に座るカップルの会話は続く。

「目玉入りのカクテルがあるって聞いたけど……あ、これだ」

 メニューを手にした女性が店員を呼ぶ。

「すみません、この『目テキーラ』ください」

「こちら、飲み放題メニューではありませんが、よろしいですか」

「はい、大丈夫です」

「ここ、田村瑠奈が通ってたお店ですよね」

 女性がそう話を向けると、店員は少し困ったような顔で答えた。

「まぁ、そうですね。通っていたというほどじゃないかもしれませんけど」

「でも、ここに来たことあるんでしょ」

「あると思います」

「どんな人でした?」

「いや、ちょっとそれは……毎日たくさんのお客さんが来るから、一人ひとりの顔は、正直覚えてないんですよね。ごめんなさいね」

 それだけ言うと、店員は店の奥に消えた。

 6月4日に行なわれた母親の田村浩子被告(61)の公判の中で、娘の田村瑠奈被告(30)は、以前から人体に興味があり、人の目玉を模したカクテルなどが提供される怪談バーに出入りしていたことが、検察側の冒頭陳述から明らかになった。

『目テキーラ』は、ショットグラスに注がれたテキーラの中に、ブルーアイの目玉が浮かんでいる商品だ。店員によると、義眼は寒天で作られているそうだが、本物と見紛うばかりの出来栄えだ。

 瑠奈被告は被害者の眼球をくり抜いて瓶に入れ、頭部から剥いだ皮膚は浴室のワイヤーに吊るされたザルに干すなどしていたという。

 公判の検察側の冒頭陳述によると、瑠奈被告は母親に、『私の作品見て欲しい』と、ことさら破損した遺体を見せつけて、父・修被告にも見せたいから呼ぶようにと伝えるなどしていた。

“目テキーラ”以外にも、店の中には、怪談気分を盛り上げるためであろう、数々のオブジェが並ぶ。

 ひときわ異彩を放っているのが、カウンターの上に無造作に置かれた男性の生首を模したオブジェだ。持ち上げてみると、ずっしりと重い。あいにく本物の生首を持ったことがないので、この重量が実際の生首をどこまで正確に再現しているのかは、わからない。

──でも、瑠奈被告ならわかるのだろうな。

 ふと、そんなふうに思った。

瑠奈ファーストの家族

 浩子被告は公判の中で、事件後の早い段階で家族に対する警察の尾行に気づいたと語った。

「そう遠くない時期に瑠奈が逮捕されると思っていた」として、警察が来るまでの短い時間を、これまで通り家族と過ごすことを選んだという。

 事件が起こったのは2023年7月2日。北海道警察は同月の24日に、瑠奈被告と修被告を死体遺棄などの疑いで逮捕した。

 その直前に、家族が訪れたと見られる飲食店の店主に話を聞くことができた。

「逮捕の報道があったのが、月曜か火曜日だったと思います(24日は月曜日)。田村さんはその直前、土曜日だったと思うけど、うちにいらしてくれました。朝の10時くらいに奥様(浩子被告)が、お店のドアを開けて、入ってきたんです。うちはずっと10時開店だったんですけど、ちょうどその頃から10時30分に開店時間を変更してて、『ごめんなさい、まだオープン前なんですよ』って、声をかけたんです」

 田村修と浩子夫妻は、この店の10年来の常連客だ。「月に2回くらいは来てくれていた」(店主)という。

「いつも奥様はメガネをかけていらっしゃるんですけど、その日はメガネをしてなくて、誰だろうって始めは思ったんですけど、お声を聞いているうちに、あ、田村さんか、と分かった。『10時半過ぎに、また来ていただければ』とお話したんですけど、予定があったのか、『それじゃ、また日を改めます』とおっしゃって、その日はそのままでした」(店主)

 この店は、田村被告の自宅から、車で数十分の場所にある。いつも修被告の運転する車で来ていた。イートインの場合は、夫婦揃って店に入ってくるのだが、その日は、浩子被告だけが現れた。修被告は外に停めた車で待っていたのだろう。

「だから、テイクアウトをするつもりだったんだろうな、って、後からスタッフと話したんですよ。この先に景色のいい高台の公園があるんですけど、そこにうちの商品を持って、ご家族でいらっしゃるのかな、なんて、そんなふうに話したのを覚えています」(同前)

 公判に出てきた話にあるように、田村一家は、逮捕の直前も確かに、“いつも通り”の生活を続けていたようだ。

「田村さんは御夫婦だけで来ることが多かったのですが、時々娘さんもいっしょに来ることがありました。とても仲のいい親子に見えましたよ。ショーケースを眺めながら、ご両親が『これはどう?』とか『あれがいいんじゃない』とか、すごく気を使っているようなね。そんな感じでした」(同前)

 瑠奈被告は、両親を奴隷のように扱い、家族は『瑠奈ファースト』の生活を強いられていた。仲の良い家族に見えたのは、『瑠奈ファースト』のおかげなのかもしれない。

■取材・文/江波旬

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