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《女性芸人に求められる「役割」が変化》価値観は多様化し“自分のやりたい仕事"にシフト、新たなスターも次々と誕生

NEWSポストセブン 2024年6月27日 6時59分

 移りゆくなか時代のなかで、芸人を取り巻く環境や意識は大きな変化を迎えている。かつては日常的に行われていた女性芸人に対する“容姿いじり”についても、解散した尼神インターの誠子(35才)や3時のヒロインの福田麻紀(35才)のように、封印を宣言するケースも多い。時代を敏感に察知し、時代とともに変わっていく女性芸人たちに迫る。【前後編の後編。前編を読む】

 この問題が複雑なのは、容姿をいじられることが必ずしも本人の意に反しているわけではないことだ。お笑いタレントの青木さやか(51才)が話す。

「お笑いを始めるまで容姿をいじられたことはなくて、バラエティーに出て途端にいじられまして悲しかったですが、それに対してお客さんや視聴者のかたから笑いが起きることが、また共感しているんだなと思うとさらに悲しかったですね。ですが、先輩は意地悪でいじるわけではなく、“おいしくしてあげよう”とか“仕事だから”とかそういう思いでのいじりでしょうから、『ありがとうございました』と言いました。感謝と悲しさがありましたね」

『女芸人の壁』(文藝春秋)の著者でライターの西澤千央さんは、男社会において、女芸人は「求められることを必死に演じていた」と話す。

「見た目をいじられたり、セクハラをされてもうまくかわして、逆に男性に迫るよう指示されたりもする。山田邦子さんも、上沼恵美子さんも、話を聞くとそれに対する疑問や怒りをぐっとのみ込んで、うまく受け流してきたようです。一方で、青木さんが言うように“いじりに対する感謝”の思いもないわけではないという人は多い。自分が求めている笑いでなくとも、ひとつの仕事としてこなしているんです」

 青木が言う。

「でもこれって、芸能界に限った話ではないですよね。かつて男女平等参画社会が目指され始めた頃、男性社会においてOLさんは、飲み会でホステスさんのような役割をこなしたり、時にあばずれキャラを演じたり。空気を読んで居場所を確保する。男性上司の期待にお応えして頑張るということがあったのではないか。つらかったというより、あの時代の処世術だったのでは。いまも、同じような感覚の男性(女性もいますが)はいらっしゃいます。

 私もその感覚の男性の求める方向性の発言を提供することに慣れてしまっている。でもいまはできるだけお応えしないよう、私は本当は何が言いたいのか、男性ではなく私自身の心に気を配ることを頑張っています。いま、時代の流れで、当時口に出せなかった違和感について聞かれたから答えていますが、実はつらかったという後出しはできるだけ今後ないよう、まずは自分から変わりたいですね」

 それでも、社会で女性すべてが同じ考えでないように、女性芸人でも積極的に“いじられることで笑ってもらえる”と思う人もいる。“パンティーテックス”などのハイテンションギャグが持ち味の島田珠代(54才)は、「体を張っていじられてこそ、女芸人ですよ」と言い切る。

「いまのご時世、あまりこういうことを言ってはいけないと思いますが……」

 と前置きしつつ、こう続ける。

「私は吉本に入ったとき、“ブサイク”と言われることに喜びを感じました。色気が出るとウケなくなると思い、きれいに決まったメイクをバーッと落としたこともあります。私の考えでは、女芸人は一般の女性から『女芸人は私たちより下だね。私たちはあんなことできないわ。ああ恥ずかしい』と思ってもらうことが商売。そのうえで笑ってもらうことが私たちのプライドなので、容姿いじりは全然オッケーです。

 もちろんおしゃべりやネタが得意な女芸人も大歓迎ですが、私はいじられることが喜びです。一般のかたに『このブサイク!』というのは絶対ダメだけど、私たちはそれでお金をもらっているし、いじられることが当たり前だと踏まえての職業選択なので、傷つくこともなくむしろ名誉です」

メディアの多様化は女性芸人を解き放ち、自由に生きられるようになった

 2000年代に入ると『エンタの神様』(日本テレビ系)、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)などのネタ番組が高視聴率となり、気鋭の女性芸人が続々登場、ブームが誕生した。お笑い評論家のラリー遠田さんが語る。

「ハリセンボン、友近さん、にしおかすみこさん、北陽、いとうあさこさんたち。彼女たちは最初はネタが注目されて、徐々にタレントとして成長していきました」(ラリーさん・以下同)

 人数が増え、時代の変化とともに女芸人に求められる「役割」も変化していく。

「日本社会はかつて女性の役割が制限されていましたが、生き方や価値観が多様化するとともに、女性が自由に生きられるようになりました。それと同じで、多様化とともに女芸人の“縛り”がなくなり、渡辺直美さんのように芸人としてだけではなく、モデルや下着ブランドのプロデュースなどマルチに活躍の場を広げていく人が出てきています」

 さらにお笑い界に大きな変化をもたらしたのは、私たちの意識の変化だ。西澤さんが指摘する。

「そもそも視聴者のウケの変化に気づかなければ、笑いはとれないんです。何が面白いのかを決めるのはあくまで視聴者や観客で、その変化を敏感に感じ取らないと芸人は生き残れません。

 ひと昔前の芸人は容姿いじりや脱ぎ芸、わざと痛いことをして笑いをとっていたけど、いまの若い子は全然面白がらないし、むしろドン引きしてしまう。容姿いじりは倫理的に問題があるからやってはいけないというより、単にお客さんが反応しなくなったんです」

 ラリーさんも「お笑いは見る側がどう感じるかが問題」と指摘する。 

「お笑いは見る側が笑うことをやるのが大前提で、時代が変わってそれまでのネタで笑いがとれなければネタを変えるだけ。容姿いじりを嫌がる風潮になったことは、芸人たちは冷静に受け止めています。ブスいじりが廃れる一方、まだ男性芸人には“ハゲ”や“オッサン”などの容姿いじりが残っていますが、これらも今後は消えていくかもしれません」

 価値観の多様化にはメディアの変遷も影響している。特に2000年代からのお笑いブームの舞台となったテレビ離れは深刻で、若者のネット利用時間はテレビの視聴時間をはるかにしのぐ。

「これまではイモトアヤコさんやキンタロー。さんのようにテレビを通じて女芸人がスターにのし上がったけど、いまは渡辺直美さんやゆりやんレトリィバァさん、フワちゃんのようにテレビによるブレークを利用しつつ、テレビに固執せず自分のやりたい仕事にシフトする女芸人が目立ちます。ユーチューバーやインフルエンサーといったSNSを舞台にした新たなスターも次々と誕生しています」(西澤さん・以下同)

 時代が目まぐるしいスピードで動いていく中で、女芸人が大きな変革の渦の中にいることは確かだ。

「テレビがナンバーワンでなくなり、人々の意識が変化してネットからも新たな才能が出てくる現在、“女芸人とは何か”というアイデンティティーが揺らいでいます。求められる役割がなくなる分、本当に面白いこと、自分のやりたいことをつきつめられないと生き残れなくなってくる。社会でも女性の社会進出や男女平等が進む中、女芸人も含めて大きく言えば、“女性はどう生きるのか”という問いを見つめ直す時期が来たのかもしれません」

 島田は後輩たちに、こうエールを送る。

「いろんな気持ちを味わって、泣いて笑って怒って、いろんな気怒哀楽を感じて。授かれるのならば出産もし、子育ても味わって。せっかく女性に生まれたので、“女性芸人だから!”って気張らずにお笑いを楽しんでって伝えたいですね。私は顔が三枚目でここまでやってこれたので、言うんですけど」

 時代の移り変わりとともにお笑いも変わっていく。それでも、これまで多くの先人たちが男社会に埋もれず、「どやさ!」とばかり道を切り開いてきた女芸人たちは、これからも私たちに笑いを与えてくれるだろう。

※女性セブン2024年7月4日号

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