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「ならぬものはならぬもの」4児の父・藤岡弘、が伝える「親の覚悟」「明確にしなければいけない『親と子』の一線」

NEWSポストセブン 2024年6月30日 6時59分

 4人の子どもたちがインタビューを受ける風景を、目を細めて見ていた俳優・藤岡弘、さん(78)。芸能活動を通して感性を磨いている我が子の変化や成長を、「ザ・昭和の父親」はどのように感じているのだろうか。仲良しファミリーを築き上げた藤岡さんの「子育て論」「家族論」は、子どもの叱り方や家族とのコミュニケーションに悩む全国のファミリーにとっても、大きなヒントになる。失われつつある日本の伝統のなかにこそ、家族の絆を再生させる道があるのかもしれない──。【全3回の第3回。第1回から読む】

──藤岡さん一家の仲良しぶりは、理想のファミリー像とも言えます。子育ての秘訣はありますか。

「子育ては、簡単ではありませんよね。本当に難しい。そんななかでも、僕は子どもたちと常に真剣に向き合い、彼らが抱えている不安や疑問にきちんと耳を傾け、答えてきました。そこで決定的に大事なのは、なにがあってもお父さんはお前たちの味方だし、絶対に守るという姿勢を伝えること。その覚悟を見せることができたら、子どもたちは家のなかでも外でも、安心していられると思うんです」

──“親の覚悟”が伝わらないと、子どもも心と体をあずけられないですよね。

「今になって思えば、自分が子どもの頃に父や母から教わったことを、今、子どもたちに伝えているような気がします。藤岡家の家系の伝承みたいなものでしょうか。もちろんこれは藤岡家のやり方で、すべての家庭に押しつける気持ちなどはまったくありません。ただ、ひとつだけとても重要なのは、どれほど仲が良くても、親と子は『友だち』ではないということ。最近では、友だち感覚のようになっているお母さんと娘さんも見かけますが、『親と子』という線は、明確に引いておかなければいけない」

──その線が引けていないと、子どもをしっかりと叱ることもできません。

「いろいろな状況がありますし、家庭によってやり方は違いますが、人として絶対にやってはいけないこと、道から外れたことには、『間違っている』とはっきり否定しなくちゃいけない。友だち感覚の延長で、なあなあで済ませてはダメ。『ならぬものはならぬもの』と、練り込み擦り込み繰り返し教え続ける。薩摩の“郷中教育”しかり、会津の“什の掟”しかり。かつての日本が脈々と伝えてきた教えが、今は死語のようになってしまい、家庭のなかでも地域社会でも、どんどん消えていっているように感じます」

──4人のお子さんは、「父が怒ると本当に怖い」と口を揃えています。

「人が嫌がること、人を傷つけること、世のためにならないことに対しては、徹底的に真剣に怒ります。そのときの私の顔は、子どもからしたら鬼のように感じるんじゃないかな(笑)。もちろん、いつも怒ってばかりではダメです。僕もなにか叱ったときには、必ずその子のいいところを褒める。けじめさえついていれば、本気で怒っていること、それが真の愛情だということは子どもたちにも伝わります。

 子どもが大人の態度を見極める目というのは、純粋である分、本当に鋭い。口先だけで言っているのか、自分の欲を満たすために計算で言っているのか、子どもはちゃんと見分けがつく。子どもの心って、怖いですよ」

子どもの前で愚痴や不満を一切言わない

──実際、藤岡さんのお子さんたちも「怒ると怖いけど、筋が通っているし真剣だから響く」と語っていました。

「子どもって、親の背中をちゃんと見ているんですよね。そういった意味でも親の真剣さというのは、無言の教育と言えるかもしれません。だから、僕は愚痴や不平や不満は一切言わないようにしています。ネガティブなことも言わない。すべてポジティブに考える。なにか子どもが失敗したときも、『お~、いいじゃないか。これを糧にして、次に向かえるんだから。そこまでやれたんだ、まだやれるよ』って逆に褒めてあげる。失敗を責めたくなる気持ちがあっても、責めて終わりでは未来はないですからね」

──そんなお父さんの背中をみて育ったからか、今では4人全員が厳しい芸能界で活躍されています。

「こんなことになるとは、つゆほども考えたことがなかったので、正直びっくりしています。もともと好奇心が強い子たちなので、私の歩んできた道を興味や関心を持って、じっと見ていたのかもしれませんね。彼らが小さな頃から、一緒に映画を観に行ったり、海外でミュージカルやコンサートへ連れて行ったり、歴史を語りながら神社仏閣を巡ったりしてきた影響もあったのかな。家族ではじめてテレビに出演してから5年が経ちますが、子どもたちもだいぶ変わりましたね」

──どういったところが変わりましたか。

「やはり、顔つきが変わってきました。社会に出てプロの集団のなかに入れば、周囲の人たちの意識も空気も違う。学校のサークルでやっていたものとはまったく異なり、その空気を察するようになったんでしょうね。仕事に真剣に向き合うなかで、顔が引き締まってきた。成長していく過程を、明確に感じました。

 吉田松陰先生も言っていたように、実践のなかで感性を磨くことの大切さ。人間は感性で生きていて、それを支えるのが知性や理性なんですね。社会に早く放り込んだ方が成長するというのは、こういうことだったのかと、彼らを見ながら感じはじめています」

──お子さんの成長を間近で感じるのは、父親として大きな喜びですね。

「ただまぁ、子育てはやっぱり難しい。褒めすぎてもダメだし、怒りすぎてもダメ。でも、それぞれにいいところがあるので、そこを伸ばしてあげたい。うまくできないことがあってもいいんですよ、いいところを伸ばしていってくれたら。子育ては難しいけれど、真剣に向き合うほど、親も子どもたちに育てられる。子どもがいるから、やりがいや生きがいを持っていられる。本当に、子どもたちには感謝しているんです」

──お子さんとの触れ合いで、最近、楽しみにしていることはありますか。

「うちは、男の子が真威人1人なんですよね。彼と一緒にジムへ行って運動したあと、風呂で汗を流しながら語り合うんです。腹を割って男同士の話をすると、気分転換になるし、すごく安らぐ。3姉妹に囲まれて暮らしている真威人が、『やっぱり女性は強いよ、お父さん』なんてこぼしたりして(笑)」

──真威人さんにとっても、お父さんにしか分かってもらえない話ですね(笑)。

「4人の仲がとてもいいのが、親としては一番救われています。日本の人間力の原点とも言える、素晴らしい『家族』のあり方が薄れていっているようにも感じる昨今ですが、そんななかで私たちが少しでもいい影響を与えられたら、本当に嬉しい。子どもたちも『みんなに夢や感動、勇気や幸せ、喜びを与えられる存在になりたいね』なんて、4人でいつも話しています」

(了。第1回から読む)

撮影/山口比佐夫

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