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増加する加熱式たばこユーザーによる迷惑喫煙マナー 「こっそり吸ってもバレない」テーマパークや電車、バスの中でトラブル発生

NEWSポストセブン 2024年7月6日 16時15分

 2019年の調査によると、現在、習慣的に喫煙している人は16.7%、男女別では男性27.1%、女性7.6%。それらのうち加熱式たばこ使用者は男性で27.2%、女性25.2%で、20~30歳代の喫煙者では約30~50%が加熱式たばこを使用している(厚生労働省調べ)。日本人の喫煙率は長らく減少傾向にあるものの、そのなかで加熱式たばこ使用者は増え、その一部ユーザーによる自分に都合よく解釈した「たばこマナー」が各方面で問題となっている。ライターの宮添優氏が、一部の加熱式たばこユーザーが厄介な迷惑喫煙者化していることで、周囲に積もるフラストレーションについてレポートする。
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 紙巻たばこのように大量の煙が出ず、非喫煙者への影響が少ないような気がする加熱式たばこ。喫煙所に行けば、箱状のケースを握りしめ、吸い口から煙を吸っては吐き出すという加熱式たばこ派の姿を多く見かけ、旧来の紙巻たばこ派がどんどん少数派になっていることが窺える。喫煙者としても、周囲に「くさい」「煙たい」と言われるくらいなら、と加熱式たばこに移行した例は少なくないだろう。

 日本でたばこといえば長らく、細かく刻んだたばこ葉を、紙で細長く巻き片端にフィルターをつけた紙巻たばこのことを指し、特に非喫煙者にとって「たばこ」と言われて思い浮かぶのは、今もこちらかもしれない。ライターやマッチで端に火をつけ、フィルターを通して吸引し味わう。一方、加熱式たばこは、たばこ葉を燃焼ではなく加熱することで発生する蒸気をたのしむものだ。加熱方式の違いからだろう、紙巻きとくらべると加熱式は、同じようにたばこ葉を使っていても目に見える煙は少し薄めで、漂う香りも控えめだ。

 実際、紙巻たばこから加熱式たばこに代えた喫煙者からは「もう紙巻たばこなんてにおいが強すぎて吸えない」「火を使うので危ない」など、加熱式たばこがいかに優れているか、という意見も飛び出してくる。ところが、こう思っているのは「加熱式たばこ」ユーザーのみではないのか、と感じる非喫煙者は少なくない。

喫煙所を使わない一部の加熱式たばこユーザー

 千葉県在住の女性会社員・Aさん(30代)は、加熱式タバコ利用者の中には、人混みなどでもところ構わず吸う人が一定数いると、怒りを交えて指摘する。

「駅に向かう途中の混雑する通りで、毎朝、必ず誰かが加熱式たばこを吸っているようで、強烈なにおいが漂っています。紙巻たばこよりはにおいや煙は少ないものの、独特のにおいが周囲に漂っています。加熱式たばこはにおわないからいいだろうと思っているのは、吸っている人だけ。だから、こっそり吸ってもバレないと思っている。他にも、全面禁煙のはずのテーマパークや遊園地でも、手で隠すように吸っている人は結構見かけます。そういう意味では、紙巻たばこよりタチが悪い」(Aさん)

 紙巻たばこであれば、加熱式と違ってたばこから副流煙が常に立ち上るため、誰が吸っているかは一目瞭然だったかもしれない。だが、加熱式たばこだと点火した火の色が見えることはないし、煙も少なくて誤魔化しやすい。こっそり吸いやすいため、においに気がついたとしても、人混みの中で隠れて吸っているのは誰かと特定することが難しい。

 だが、このように「こっそり吸えるから」とは、加熱式たばこ愛用者だけが思っているに過ぎない幻想で、非喫煙者からすれば、禁止されている場所で、こっそり喫煙していることもバレバレだ。にもかかわらず、やはり「バレていない」と思い込んで、あちこちでこっそり加熱式たばこを口元に運ぶ人が後を絶たない。

「終電間際の電車、バスなどでは、乗客に車内でたばこを吸われた、という話をよく聞きますね」

 こう話すのは、首都圏の大手私鉄勤務・Bさん(30代)。同じグループ内の電車やバス内で起きた乗客とのトラブルについて、最近「加熱式たばこ」絡みのものが増えたという。

「終電や終バスなど、酔ったお客さんがたばこを吸ってしまうことは、昔から少なからずありました。ですが最近は、酔客でなくとも、こっそり胸元に忍ばせた加熱式たばこを吸われるお客さんがいて、それが原因で周囲の客とトラブルに発展するパターンがある。混みやすい通勤電車でもこれですから、比較的空いている中長距離電車などでは、我々が見ていないと堂々と酒を飲み、加熱式たばこを吸われる方もいる。注意しても”におわないからいいだろう”とまで反論されるのです」(Bさん)

 むろん、におわないと思っているのは喫煙当事者のみであり、あたりには加熱式たばこの強烈なにおいが漂っていて、周囲の客からもクレームが出ていた。それでも喫煙者側は「迷惑はかけていない」と引き下がらないのだ。

全面禁煙の庁舎内に加熱式たばこの吸い殻

「公的な職場ですから、全面禁煙になったときは、ヘビースモーカーの部長も仕方なくたばこをやめたほど。ごく一部を除けば、職員のほとんどが禁煙したんです、加熱式たばこに移行するまでは」

 神奈川県在住の市役所職員・Cさん(40代)は、職場の市庁舎が数年前に「全面禁煙」化したことを大いに喜んだ。さらに、同じ職場に勤務する夫も、一日に3箱は吸うヘビースモーカーだったが、職場の全面禁煙を機に、自宅ベランダで吸っていた紙巻たばこをやめた。健康面でも経済面でもメリットがあると思っていたのも束の間、夫の同僚が「加熱式たばこ」を見せびらかし、職場内に一気に広まったというのだ。

「喫煙者の夫や同僚達は、加熱式たばこなんか吸わない、と言っていたんです。ですが、同僚が加熱式たばこの良さを吹聴したらしくて、禁煙していた人たちが続々加熱式たばこで復活してしまいました」(Cさん)

 禁煙に成功した、と喜んでいた同僚も、次々に加熱式たばこを購入。全面禁煙の庁舎内では吸えないため、同僚の車などを「喫煙所」として利用し、業務中に離席する喫煙者も増えた。さらに、社会の規範となるべき職場なのに、率先してルールを無視する加熱式たばこユーザーが続出した。

「庁舎内の職員用トイレや給湯室など、あらゆるところで加熱式たばこの吸い殻が発見されるようになっています。みんな、におわないからバレないと思っているのか、あちこちで吸いまくっているようです。紙巻たばこのときよりも、喫煙者のモラルが低下しているような気さえします」(Cさん)

 結局、加熱式たばこを愛用するようになったCさんの夫も、やはり「においも煙もほとんど無いから」という理由で、今度は自室や車、さらには入浴中までも加熱式たばこを吸うようになってしまったから笑えない。

「加熱式たばこ用品も、充電器に色を塗ったりパーツを変えたりカスタムまでしていて、余計にお金がかかっているようです。呆れて声も出ません」(Cさん)

 なぜ禁煙の場所が増えたのかというそもそもの理由を思い起こして欲しい。大きな理由のひとつに、非喫煙者に対して喫煙者が一方的に煙を吸わせる受動喫煙をさせないため、というものがある。加熱式になったとはいえ、たばこ葉を使っているという点では紙巻たばこと変わらない。副流煙がない加熱式でも、喫煙者が吐き出す”呼出煙”は存在するので、結果的に受動喫煙の危険場所を増やしていることになる。

 加熱式たばこを利用することによって増加した一部の新たな喫煙者達は、紙巻たばこユーザーに対して自分たちの優位性を信じているようだ。副流煙がないだけで、加熱式たばこによる喫煙行為は「迷惑にならない」と考えているようで、こっそり吸えば隠し通せるとさえ考えているのかもしれない。バレないからいいだろう、というスタンスの喫煙者の登場で、たばこを巡るトラブルはさらに増えていきそうだ。

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