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【正しい減薬のために守るべきステップ】どれから減らすか“優先順位”をつけることが重要 最初に減らすべきは「リスクが利益を上回る薬」

NEWSポストセブン 2024年7月4日 16時13分

 病気を治すためにのんだはずの薬に体が蝕まれてしまう──多くの専門家たちはそんな“不都合な現実”が存在することを、繰り返し指摘してきた。しかし一方で「のむべき薬」を減らすこともまた不調を生む。「必要な薬を、必要な分だけ」を実践するための方法を専門家に徹底取材。【前後編の前編。後編を読む】

《薬は過ぎれば毒になる》《一度に多くの種類を服用すると副作用が倍増する》──「薬ののみすぎ」に伴う危険性は近年、専門家たちの調査研究や臨床経験から次々に明らかになってきている。

 にもかかわらず、年を重ねるとともに服用量が増加するケースは少なくなく、厚生労働省の発表によれば40〜64才では半数以上の人が3種類以上の薬を処方され、75才以上になると約4割の人が5種類以上の薬をのんでいる。東京都在住のKさん(72才/女性)もそのひとりだ。

「いま、1日にのんでいる薬は6種類。きっかけは10年くらい前にひざの痛みで通い始めた整形外科から鎮痛薬を処方されたことでした。その副作用を抑えるための胃薬が出た後、ひざの痛みで運動量が減って骨密度が低くなったから骨粗しょう症の予防薬をのむように。加えて、3年前に健康診断でコレステロール値と血圧が高いと言われてからさらに3種類増えて……。

 よく“薬ののみすぎはよくない”といわれますし、実際、薬が増えてから日中、ふらつくことが多くなった。だから思い切って鎮痛薬と胃薬をやめてみたら、ひざの痛みが悪化して1週間ほど寝込んでしまったんです。そもそも具合をよくするためにのみ始めたはずの薬を、どう減らせばよかったのか……正解がわからず、結局6種類をそのままのみ続けています」

 医療法人社団こころみ理事長で精神科医の大澤亮太さんは、Kさんのように減薬に失敗した結果、治療が複雑化する事例は少なくないと話す。

「もちろん薬の量を適正化することは大切ですが、必要な薬もあり、ただ減らせばいいという単純なものではありません。減らし方も、薬ごとの特徴を踏まえて行っていく必要がある。間違った減薬は、のみすぎと同じくらい害悪を生みます」

優先順位をどうつけるか

 間違った減薬で体を蝕まれないためにまず知っておくべきは、守るべき「ステップ」があるということ。松田医院和漢堂院長で、日本初の「薬やめる科」を開設した松田史彦さんが言う。

「多くの患者は医師の処方する薬を何の疑いもなく服用していますが、それではいつまで経っても薬は減りません。まずは出された薬が『どんな目的』で『どの症状を抑えるために』処方されているのかを自分で把握し、どの薬から減らしていくべきか、優先順位をつけることから行うべきです」

 中野病院の薬剤師・青島周一さんは、最初に減らすべき薬として「リスクが利益を上回る薬」を挙げる。

「のむことによって目的とする症状は軽減されるものの、明らかな副作用が出て、体に負担がかかり日常生活に支障が出たり、それを抑えるために別の薬が必要になるなど、服用に伴う利益よりも弊害の方が大きくなる薬は中止すべきです。

 代表的なのは、作用の強い睡眠薬。さまざまな種類がありますが、作用時間が6時間以上の薬は日中も眠気がとれなくなり、ふらつきやそれに伴う骨折、自動車を運転する習慣のある人は交通事故を起こすリスクもある。活動量の低下も懸念されます。そうした兆候が見えたら減薬を検討した方がいいでしょう」

 インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)のような血糖値を下げる薬も、弊害がメリットを上回る可能性があると青島さんは続ける。

「特に薬の効きやすい高齢者は、服用後に起きる急な低血糖による転倒のリスクや慢性的な倦怠感が生じる可能性が懸念されます。そもそも薬によって血糖値が下がったとしても、糖尿病の合併症を予防できるという明確なエビデンスはない。のむことによって体に悪い影響が生じているのであれば、無理して血糖値を下げなくてもいい」

 手軽に購入できる市販薬の中にも、真っ先に減らすことを検討すべき薬が存在する。愛知医科大学地域総合診療医学寄附講座教授の宮田靖志さんが言う。

「ロキソプロフェンなどの『NSAIDs』を主成分とする解熱鎮痛薬は、胃腸障害や腎障害の副作用があります。慢性的な頭痛など、日常的に生じる痛みを緩和するために長く服用している人は、別の成分の鎮痛薬に変えるなどしてなるべく減らした方がいい」

 NSAIDsを主成分とする鎮痛薬は依存性が高いうえ、継続的に服用することで薬が原因の「薬物乱用頭痛」を引き起こすなど、強い副作用が明らかになっている。自分で購入できる薬だからこそ、主体性を持って減らしていきたい。

 加えて留意すべきは、現時点で明らかな副作用がなかったとしても、長期的にのみ続けることで弊害を生む薬もあるということ。青島さんが挙げるのは、逆流性食道炎の治療などに使われる胃薬「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」だ。

「胸やけや胃潰瘍の症状を改善する強力な効果を持つ一方、長期服用によって認知症や、肺炎をはじめとした感染症のリスクが高くなると報告されています。症状が改善した段階で、中止することを検討すべき薬の代表格です」

 北品川藤クリニック院長の石原藤樹さんもこう言い添える。

「プロトンポンプ阻害薬は胃酸の分泌を抑えることで症状を改善する作用を持っています。しかし胃酸が減りすぎると胃の殺菌作用が弱まったり栄養の吸収率が低下する弊害がある。その結果、カルシウムの吸収率が下がり、骨粗しょう症のリスクが上がります」

効いていない薬は「ただの毒」

 体に負担をかける「リスクのある薬」を一掃したら、次は「のんでも効果のない薬」を減らしていくべし。

「『鎮痛薬をのんでもいっこうに頭痛がおさまらない』『降圧剤を服用しても血圧が高いまま』などと言って外来に来る患者さんは少なくありません。そうした人たちには『効いていない薬はただの毒です。やめていきましょう』とアドバイスしています。効果があるならばのむ意味がありますが、そうでない場合、副作用のリスクが高まるうえ、医療費もかさむだけ。減らすことを検討すべきです」(松田さん)

 効果の有無の判断のためには、健康診断の数値ではなく、その薬をのむことによって、どのくらい病気が予防できるのかを正しく理解する必要があり、それが「正しい減薬」への第一歩となる。

「例えば『スタチン系製剤』に代表されるコレステロールの薬は、血管病を予防する目的で処方されますが、中高年の女性で特にそのほかに病気のリスクのない人はそもそも心筋梗塞になる可能性が極めて低いため、薬をのんでコレステロールの数値を下げることにはほとんど意味がないことが明らかになっています。

 高血圧や糖尿病などの持病がない人なら、約300人に1人の割合で効果があるだけ。のまないという選択肢も視野に入れた方がいいでしょう」(宮田さん)

 効果が見込めず「毒」に変わる可能性のある「効果のない薬」に加え、「目的不明の薬」も減薬の対象になる。宮田さんが続ける。

「残念ながら、『以前から処方されていたから』『何かしら薬を出さないと患者が納得しないから』などと、あやふやな理由で薬を処方している医師は少なくありません。

 実際に『足がむくんでいる』という理由で利尿薬を処方され、のみ続けていた高齢の女性がいました。足の静脈の障害から薬の副作用まで、むくみの原因はさまざまですが利尿薬が効果的なのは、心不全に起因するむくみなど一部だけ。むくみの原因を正しく評価しないままに利尿薬を使用した場合、脱水症状に伴う副作用で立ちくらみや低血圧を引き起こす弊害すらあるのです」

減薬を拒む「サイドメニュー」

 ピルケースに入った薬や「おくすり手帳」の記録を見直しながら“効果なし”“目的不明”の薬をあぶり出してほしい。

「その際、減薬の対象として着目すべきは “サイドメニュー”の薬です。患者さんの処方薬の内訳を見てみると、多くの人が病気を治すための“メインの薬”と、副作用予防のための“サイドの薬”がセットになっている。よくあるのは腰痛や関節痛の治療に使われる消炎鎮痛薬がメイン、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬などの胃薬がサイドの組み合わせです」(松田さん・以下同)

 リウマチやアレルギーなどの治療のためにステロイド薬をのんでいる人も胃潰瘍のリスクがあるため、胃薬が自動的に処方されることが多いという。

「もちろん服用する量が多く、強い副作用が懸念されるケースなど、サイドの薬が重要な役割を果たしている場合もありますが、病気が快方に向かいメインの薬が減ってもサイドの薬は変わらずに処方され続けます。実はサイドの薬も強い副作用があるものは少なくありません」

 また、同じ効能を持つ薬が複数処方されている場合、「メインの薬」であっても減薬の対象になりうると松田さんは続ける。

「血圧を下げる降圧剤や、脳梗塞や心筋梗塞を予防するための抗血栓薬は同じ効果を持つ薬が何種類も出されることがあります。

 しかし血圧は下がりすぎるとふらつきなどの副作用が出てくるし、抗血栓薬は血流をよくする効果を持つ半面、効きすぎると血が止まりにくくなって、かえって脳出血のリスクが高まります。実際、複数の抗血栓薬をのんだ結果、体のあちこちに紫のあざができている人がいました。

 のんでいる薬が必要以上に効きすぎていると感じたときも、減薬を検討するひとつのタイミングだと言えるでしょう」

(後編へ続く)

※女性セブン2024年7月11・18日号

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