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令和の今なぜ『キン肉マン』なのか「日曜夜のアニメ放送」「CBCが制作」の意味は?

NEWSポストセブン 2024年7月7日 11時15分

1980年代にブームとなり、社会現象となった『キン肉マン』がアニメで復活。7月7日夜、『キン肉マン 完璧超人始祖編(パーフェクト・オリジン)』がスタートする。なぜ今、『キン肉マン』なのか? その背景についてコラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

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 7日(日)23時30分からアニメ『キン肉マン 完璧超人始祖編(パーフェクト・オリジン)』がスタートします。

これは今春スタートの新アニメ枠『アガルアニメ』の第2弾であり在名局・CBCの制作。アニメ『キン肉マン』と言えば、1983~1986年と1991~1992年に日本テレビ系列で放送されましたが、今回は制作・局を変えて32年ぶりに続編が放送されることになります。

なぜ今、なぜ『キン肉マン』なのか。引いては、なぜ日曜夜にアニメで、なぜ在名局のCBCが制作するのか。それを掘り下げていくと、令和のエンタメシーンを取り巻くシビアな背景が見えてきます。

“国民的アニメ”の続編やリメイク

『キン肉マン』は、ゆでたまごのシリーズ累計7700万部超を誇る漫画作品。アニメ版も平均視聴率20%と大ヒットしたほか、映画は7作が公開され、80年代には“キン消し”(キン肉マン消しゴム)が1億8千体以上売れるなど社会現象になりました。

 つまり40代以上の人々にとってはおなじみの国民的アニメなのですが、そのドンピシャ世代ですら知らない人が多いのは、今なお連載が続いていること。原作漫画は1979年に週刊少年ジャンプで連載スタートし、1987年に物語が完結。しかし、24年後の2011年に連載再開されて現在まで続き、今月4日には最新刊85巻が発売されました。

 連載再開の2011年から約13年間アニメ化されず、『キン肉マン』の続編は国民的アニメでありながら、言わば放置された状態。同じ時期に週刊少年ジャンプで連載されていた『ドラゴンボール』はリメイクを織り交ぜながら放送が続けられ、今秋にも完全新作の『ドラゴンボールDAIMA』が予定されています。その他でも同じ時期に人気アニメだった『キャプテン翼』や『うる星やつら』などがリメイクを重ねて今年まで放送が続けられていました。このような近年の流れを見ても国民的アニメだった『キン肉マン』の続編放送は当然と言っていいかもしれません。

 これらの昭和から平成にかけての大ヒットアニメは、民放各局にとってアラフォー・アラフィフの親とその子どもという親子視聴が期待できる貴重なコンテンツ。特に『キン肉マン』はキン消しだけでなく、何度となくゲーム化されるなどのビジネス展開への期待も大きく、アニメ放送でメリットを得られるのはテレビ局だけではありません。

 そもそも『キン肉マン』は連載中に「超人総選挙」や「新超人募集」を行うなど、読者の参加を促す双方向漫画の先駆けでした。キン消しはほぼすべての登場人物をカバーしたほか、登場人物ごとにキャラクターソングも設定。主人公のキン肉マンが人気投票で下位に終わるほど多くのキャラクターが愛された作品であり、現在で言うところの“推し超人”を応援する楽しさがありました。今回の続編放送中も“推し超人”をめぐるSNSのコメントが活発化しそうなムードがあります。

 さらに昨春にはアニメ化40周年を記念して東京タワーで『超キン肉マン展』も開催。今夏のアニメで人気が高まれば、さらなるグッズ展開なども期待できるでしょう。

アニメ技術の進化でキャラが激変

 約30年間という長いブランクを経た続編のメリットは、視聴者がアニメ制作の技術進化を実感できること。

今回の続編を見たアラフォー・アラフィフ世代の人々は、キン肉マンやテリーマンなどの肉体美や格闘シーンの迫力に驚くのではないでしょうか。もちろんそれは過去のアニメ『キン肉マン』を知らない世代にも訴求できるレベルであり、カッコイイ格闘系アニメとして見られるでしょう。

 また、長いブランクを経た続編が成立しやすくなっている背景として挙げておきたいのが、配信プラットフォームの充実。今回の続編はNetflixでの独占配信が発表されていますが、『鬼滅の刃』のように多くのプラットフォームでの配信も可能であり、普及・浸透やビジネス面でのメリットが期待できるようになりました。さらに過去のシリーズを動画配信サービスで見てもらうことが可能になり、誰もが国民的アニメにふれやすい環境になっています。

 ただ、長いブランクがある分、ブラッシュアップしなければいけないところも出てきますが、その最たるところは声優。アニメ放送スタートから約30年前の時を経ているだけに同じ声優というわけにはいきづらいのですが、アニメ好きの心をくすぐるようなキャスティングが見られます。

 主人公・キン肉マンと言えば神谷明さんというイメージが定着していますが、今シリーズからは宮野真守さんが担当。一方、神谷さんは父・キン肉真弓と師匠・プリンス・カメハメの2役を担当という味のあるプロデュースが見られます。

 その他でも、テリーマンに小野大輔さん、ロビンマスクに小西克幸さん、ウォーズマンに梶裕貴さん、ラーメンマンに関智一さん、ブロッケンJr.に笠間淳さん、ジェロニモに小野賢章さん、バッファローマンに安元洋貴さんなど人気声優がズラリ。さらにウルフマンをケンドーコバヤシさん、ビッグ・ザ・武道を川島明さん、ブラックホールをアイドルの宮田俊哉さんが担うなど、往年の『キン肉マン』ファン以外も気になる声優陣がそろいました。

休日23時台がアニメのホットゾーン

 なぜ日曜夜にアニメで、なぜ在名局のCBCが制作するのか。

「アガルアニメ」はCBCテレビが「名古屋から、日本が、世界がアガるアニメを届ける」をコンセプトに開設したアニメ放送枠。あえて“世界”というフレーズを使っているように国内はもちろん世界中の人々に見てもらい、収益を得ていくことをねらった放送枠です。

今やアニメはドラマと並ぶ民放各局の最重要コンテンツ。下がる一方、今後の上昇が期待しづらい放送収入に変わるものとして期待され、特にネットの普及で経営が苦しい地方局にとって「いかに世界で見られるアニメとドラマを作っていけるか」が問われています。

 もともとアニメは金曜から日曜の休日に絡めた放送枠が多く、日本テレビは昨秋から金曜23時~の新アニメ枠をスタートさせ、テレビ朝日も今秋から土曜23時30分~での新設が予定されています。週末の23時台はアニメのホットゾーンであり、なかでも「アガルアニメ」は休日が終わるタイミングだけに、「見ればテンションがアガり、日曜夜の沈んだ気持ちを吹き飛ばす」というコンセプトになったのでしょう。

くしくも先週6月30日に『鬼滅の刃 柱稽古編』が終了したばかりであり、『キン肉マン 完璧超人始祖編』は同作が引きつけていた日曜23時台の視聴者層をそのまま引き継ぐことが可能。はたして週刊少年ジャンプの三大原則である「“友情・努力・勝利”の象徴」と言われた『キン肉マン』に令和の視聴者はどんな反応をするのか。

そんな新たな視聴者層への対策なのか、往年のファンを喜ばせるためなのか。制作サイドは「過去のストーリーを凝縮した第0話からスタートする」ことを決断しました。「過去の名シーンを新たな映像で約30年ぶりに蘇らせる」というプロデュースによって、Xのトレンドランキング入りが期待できるのではないでしょうか。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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