Infoseek 楽天

【2位躍進/石丸伸二フィーバーの真実】都知事選を支えた“伝説の選挙参謀”は「一番楽しかった」バックに組織なくても“小池陣営より先にポスター貼り”

NEWSポストセブン 2024年7月8日 7時15分

 今回の東京都知事選で“旋風”を巻き起こしたのが、石丸伸二・前安芸高田市長だった。「女帝」の異名をとる現職の小池百合子・都知事と、「仕分けの女王」と呼ばれた蓮舫・元民進党代表の大物同士の一騎打ちと見られたなかで、広島の小さな自治体の市長からの転身でバックに政党の組織を持たない石丸氏は、都民からの知名度も低く、当初は「泡沫候補」の1人と見られていた。

 ところが選挙戦が始まると、石丸氏が街頭演説に立つと人だかりができ、無党派層、特に10代から30代の有権者の多くを取り込んで小池氏と蓮舫氏を激しく追い上げた。結果は蓮舫氏を抜いて2位に浮上する大躍進で、今回の有権者の動向が国政にも大きな影響を与えることは確実だ。実は、そんな石丸氏の選挙戦の陰には仕掛け人がいた。「伝説の選挙参謀」と呼ばれる選挙プランナーの藤川晋之助氏だ。

 政権交代が達成された2009年の総選挙では、民主党の新人候補の選挙参謀となって福田康夫・元首相(群馬4区)を追い詰めた藤川氏。2012年総選挙では河村たかし・名古屋市長が率いた減税日本の選対事務局長を務めたほか、2019年参院選は東京維新の会の事務局長を務めて、東京で音喜多駿氏(選挙区)、柳ヶ瀬裕文氏(比例代表)をダブル当選させた。

 藤川氏自身、元大阪市議で、衆院選や市長選で落選経験があり、身をもって選挙の厳しさを学んできた人物だ。これまでに参謀を引き受けた144回の選挙では、9割ほどの候補者を勝利に導いた。その藤川氏が都知事選での「石丸旋風」の舞台裏を語ってくれた。

「経験した144回の選挙のなかで、一番楽しかった。ネット選挙が解禁されて10年、この都知事選ほど選挙ツールとしてのネットの威力を見せつけられたことはありませんでした。石丸には組織がありませんから、ボランティアを募って選挙運動するしかない。それで事前の説明会をやったんですが、300人も集まれば御の字だと500人定員の部屋を借りたら、1000人も集まった。選挙に入ってもボランティアはどんどん増えていった。

 石丸は小池さんや蓮舫さんのように話がうまくないのですが、従来の政治家っぽくないところが有権者との距離を縮めているようです」

小池陣営よりに先にポスターを貼れた

 藤川氏が言うように、威力を発揮したのがネットだった。都知事選では都内全域に1万4230か所の選挙ポスター掲示板が設置されたが、全部にポスターを貼るだけでも大変な労力がかかる。だが、組織を持たない石丸氏が序盤に貼り終えて他陣営を驚かせた。

「選挙が始まると、パソコンの扱いに慣れたボランティアがどの地域の掲示板に貼れているかを一目でわかるソフトをつくって、それをもとにポスター貼りのボランティアの方に、今日はこの方面のこのあたりを回る、という指示を効率的に出した。

 動きもいい。ボランティアの方は自発的に応援してくれるので、例えば、組織に頼むと1人で1日500枚ぐらいしか公営掲示板に貼れませんが、ボランティアの方は1000枚ぐらい貼ってしまう。そのくらいの機動力がある。小池陣営より先にポスターが貼れている地域もありました」(藤川氏)

 街頭演説も、石丸陣営は組織がないから、動員などかけられない。それなのに連日、石丸氏が行くところに聴衆が集まった。

「毎日朝に会議を開いて、今日はいつ、どこで演説会を開くか決め、即、石丸のホームページに告知をする。その情報をボランティアがSNSで拡散すると、自然に人が集まってきた。

 私が指揮者の任を受けて演奏を始めようとした時には、ピアノはいない、ヴァイオリンもいないというスカスカの状態だったのに、途中から多くの人が『私が弾く』『私が吹く』『私が叩く』と言ってやってきて、一気にオーケストラとして音を奏でることができるようになった感覚です。最後はベートーベンの第九の演奏ぐらいできるんじゃないかと思いました。まさにネット時代の新たな選挙戦だった」(藤川氏)

 今回の石丸旋風は石丸氏個人の力というより、“ネット民”による既成政治に対する反乱だった。若いネット民たちが街へ飛び出し、選挙ボランティアとなってSNSを武器に現実の選挙に参加していった。都知事選で敗れたとはいえ、いまや石丸氏はそのシンボルになりつつある。

※週刊ポスト2024年7月19・26日号

この記事の関連ニュース