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蛯名正義・調教師が解説 競馬界における夏の暑さ対策として「競走時間帯を拡大」する意味

NEWSポストセブン 2024年7月12日 16時15分

 1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、夏の暑さ対策についてお届けする。

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 今年も昨年以上の酷暑になりそうだという予報。馬は暑さが本当に苦手で、「暑熱対策」は、競馬を施行するうえでずっと課題になっています。もちろん馬だけでなく、炎天下で馬場を管理する従業員、パドックで馬を引く厩務員や助手、そしてもちろんジョッキーにも近年の暑さは危険です。昨年までは夏の小倉競馬場で休止期間を設けたりしましたが、今年はそれに加えて新たな策が講じられます。

 7月最終週と8月第1週の4日間、開催されるのは新潟競馬場と札幌競馬場だけ。これは昨年と同じですが、新潟では1レースのスタートが早まって午前9時35分になります。そして第5レースが11時35分スタートで行なわれた後、気温が高くなる時間帯のレースを休止。夏休みの小学生だったら「お昼寝の時間」という感じですが、その間も札幌では普通のスケジュールで競馬が行なわれます。

 新潟では午後3時すぎから競馬が再開、メインが7レースで今までと同じ3時45分スタートで行なわれます。これまでメインの後は最終の1レースだけだったのが、8から12までの5レース、夕方の6時25分まで行なわれることになります。

 以前、レースの開始時間を遅らせて、最終レースのスタートを遅くした「薄暮競馬」というのがありましたが、今回は人馬の安全面を重視した施策。レース数は今まで通りで、「競走時間帯」を拡大して暑熱対策にしようということです。

 競馬ファンにとっては、朝9時半から約9時間、文字通り今までより長い時間競馬が楽しめることになります。新潟競馬場に出かけて行った方は、日中の暑い時間帯、涼しい場内で札幌競馬を観戦してください、というわけですね。

 馬券好きにしてみれば、一日に向き合うレース数が増え、メインレースで負けた後も取り戻す機会が多くなります。ただし、それが懐にとっていいことなのか悪いことなのかはわかりません(笑)。他場の競馬はやらないというファンの方もいらっしゃるかもしれませんが、中休みの間どうしても手が出ちゃうのではないでしょうか。ということで、馬券の売り上げがどうなるかも注目です。

 これは新たな取り組みで、まず4日間だけやってみようということなのかもしれませんが、さてどうなりますか。メインレースが終わってなお、5つもレースが残っているということが、ジョッキーのメンタルにどう影響するのか、それはやってみなければ分かりません。

 夏の競馬は海外では避暑地で行なわれていることが多い。動物愛護団体からのチェックも厳しいですからね。北海道だけならいいけれど、日本の競馬の慣習として新潟や小倉にも行かなければいけない。海外ではパドックを長く見せるなんてありえないけれど、日本ではじっくり見たいという要望がある。返し馬が終わってからも考えて馬券を買う時間帯が必要だからとけっこう時間をとります。そういう中で、今年も装鞍所への集合時間を遅くしたり、パドックの周回時間を短くしたりするようにして、世界の競馬とも折り合いをつけていかないといけないのです。

【プロフィール】
蛯名正義(えびな・まさよし)/1987年の騎手デビューから34年間でJRA重賞はGI26勝を含む129勝、通算2541勝。エルコンドルパサーとナカヤマフェスタでフランス凱旋門賞2着など海外でも活躍、2010年にはアパパネで牝馬三冠も達成した。2021年2月で騎手を引退、2022年3月に52歳の新人調教師として再スタートした。この連載をベースにした小学館新書『調教師になったトップ・ジョッキー~2500勝騎手がたどりついた「競馬の真実」』が発売中。

※週刊ポスト2024年7月19・26日号

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