Infoseek 楽天

【めでたく今が絶頂期】90歳で初の単独主演の草笛光子「これからも新しいことに挑戦していきたい」 TOKIO松岡昌宏、志穂美悦子らが語るその素顔

NEWSポストセブン 2024年7月12日 6時59分

 草笛光子が90歳にして初の単独主演を務めた映画『九十歳。何がめでたい』が現在、全国公開されている。同作は直木賞作家・佐藤愛子氏の大人気エッセイを映画化した作品。芸歴74年を誇る草笛にとっては初の単独主演作品だが、なぜ彼女は共演者たちからこの上なく愛されるのか? 名だたる共演者が草笛の魅力を語る。【前後編の後編。前編を読む】

 金田一耕助シリーズ『悪魔の手毬唄』(1977年)や『病院坂の首縊りの家』(1979年)に出演した岡本信人(76)は、長寿ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系・1990~2011年)でも共演を果たす。

「共演した作品以外も、草笛さんの時代ごとの作品を拝見してきましたが、特にすごいと思うのは“声”ですね。力強い声をキープされているのは、並大抵の努力ではないと毎回感じさせられます」

『渡る世間』で草笛が演じたのは、息子の結婚に策略をめぐらせるちょっと身勝手な資産家役。起用した同ドラマのプロデューサー・石井ふく子氏(97)は女優・草笛光子をこう評価する。

「『ありがとう』(TBS系・1973年)以来、50年来の付き合いになりますが、草笛さんはどんな役でもその役の心を掴んで演じてくれる。特に印象に残っている役柄を聞かれても、彼女の場合、あまりにもそれぞれの役にはまっているから、逆に選ぶのが難しい。

 プライベートでもたびたび会いますが、彼女はすごくハッキリしていて、気持ちのいい人。だから一緒にいてとっても気楽なんです。普段は“くりちゃん(草笛の本名は栗田光子)”って呼んでいます」

 そうした映画やドラマでの役作りに打ち込む傍ら、SKD(松竹歌劇団)出身の草笛は、自身の“原点”ともいえる舞台の仕事もライフワークにしてきた。2013年に舞台『ロスト・イン・ヨーカーズ』で草笛と初共演したTOKIOの松岡昌宏(47)が語る。

「僕は草笛さん演じるミセス・カーニッツの息子、ルイ役だったので、“ママ”と呼ばせてもらっていました。でも、『新・6週間のダンスレッスン』(2018年)でご一緒してからは、草笛さんに“もうママじゃないんだから、ママとは呼ばないで”と言われました」

ダンスがキレッキレ

 同作は、草笛演じる68歳の未亡人・リリーが、松岡演じるダンスインストラクターのマイケルと、レッスンを通じて心を通わせていく物語だ。

「以来、“リリーさん”“マイケル”と呼び合うようになりました。実はそれより前に草笛さんの舞台を観に行った時に、いきなりご本人から“マイケル(役を)やらない?”って言われたんですよ。驚きましたけど、“喜んでやらせていただきます”と答えるしかなかった(笑)」(松岡)

 共演時、草笛は85歳。松岡はそのダンスに目を丸くしたという。

「もうキレッキレで、足を頭より高く上げるのもへっちゃらでした。草笛さんは普段から、気づくとストレッチをしていて、準備に準備を欠かさない。日常の中にストレッチが組み込まれているから常に体が柔軟で、そのうえ物腰も柔らかい。あれだけの大女優さんなのに“私は女優よ!”って感じを一切出さないんです。だけど、いざ舞台に立つと、光を放つ。演技のしなやかさを体と心で表現できる人」(松岡)

 草笛は共演者との縁も大事にする。共演後、2人はプライベートでの親交も深めたという。

「銀座に行ったり、横浜の老舗ホテルのバーで飲んだり。街を歩いている時も肩を組んだり手を繋いだりして、本当にデートですよ(笑)。みんなで行く時も、草笛さんは一番キャッキャして、楽しく笑って飲んでいる。いい意味で日本人っぽくないというか、年齢を感じさせない少女のような愛らしさのある女性ですね。

 それとは別に、草笛さんの息子役を経験している寺尾聰さん(77)や水谷豊さん(71)と僕とが集まって、“息子の会”もやっています。そこではしゃいでいる草笛さんは、本当に息子たちに囲まれたお母さんそのもの。プライベートでも魅力的な顔を持っている人だから、芝居で見る者を魅了してやまないのも当然だと思います」(松岡)

「演技派女優ね」

 草笛は今作『九十歳』でも真矢ミキ演じる娘との丁々発止を演じているが、母親役としてのキャリアは筋金入りだ。草笛と親交が深い志穂美悦子は、最高視聴率40%超えの大ヒットとなった水谷豊主演のドラマ『熱中時代』(日本テレビ系・1978~1981年)で草笛と共演した。草笛が演じたのは校長(船越英二)の妻で、自宅に下宿する教師役の水谷や志穂美らの世話を焼く母親的な存在だった。

「もう45年くらい前ですから、草笛さんは当時まだ40代。だけど、すごく落ち着いた役の中の“おかみさん”という感じをすでにかもし出されていました。リハーサルの合間、時間があればセットの道具を使ってバレエのバーレッスンのように手足を伸ばし、本当にバレエダンサーのように全身のストレッチをずっと続けていた姿が印象的でした。そんな女優さんは誰ひとりお目にかかったことがない。そうした努力が第一線で長く続ける秘訣なんでしょうね。

 ドラマや映画では日本的なおかみさんが似合う一方で、私の知る草笛さんはフランスの女優さんのイメージをものすごく強く持っていらっしゃいました。だから、舞台では外国人になれるし、年齢も若い役を演じられる。“いつまでもドレスでいたいの”と言って、持っていらした着物はすべて処分されたと聞いたことがあります」

 結婚を機に31歳で芸能界の仕事をやめ、現在は「花創作家」として活動する志穂美は、草笛に頼まれて自宅のバルコニーの花壇を受け持っているため、時折自宅を訪れる間柄だ。彼女は草笛が長年、様々な役柄を演じてきたがゆえに今回の『九十歳』での主演があると語る。

「昨年10月、草笛さんの90歳のお誕生日にご自宅にお祝いに伺いました。その時に『九十歳』のお話を聞いて、“もう、主演女優賞ですね”と言うと、草笛さんは“いやいやいや”と謙遜されていました。

 素の草笛さんは本当に可愛らしくて、ご自身の昔の恋愛談義なんかもよくしてくれる。実は昔、1年先輩の岸恵子さんから“あなたは演技派女優ね”という言い方をされたことがあるそうです。岸さんは王道の美人女優でしたから、“聞こえはいいけど、私はきらびやかな雰囲気じゃないってことかしらね”と高らかに笑う草笛さんをかっこいいと思いました。

 自然体でいられるおばあちゃん役は、昔の主演を張ってこられた王道の美人女優さんにはなかなかできません。だからこそ、私はいま、本当に草笛さんの時代が来たとすごく感じています」

 最後に多くの共演者・スタッフから愛される草笛本人が、初の映画単独主演についてこう語る。

「『九十歳。何がめでたい』では、私の体調を気遣っていただきながら撮影が進みました。どの作品もそうですが、スタッフや共演者の皆さんの温かいチームワークのおかげです。これからも新しいことに挑戦していきたいですね。新しい出会いがあったらいつでも飛び込めるようにしておかないと」

 草笛光子、九十歳。さらなる絶頂期に向かっていく。

(了。前編から読む)

※週刊ポスト2024年7月19・26日号

この記事の関連ニュース