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映画『九十歳。何がめでたい』、業界の“常識”を覆したヒットの理由と上映館で起きていた高齢者たちによる思わぬ“騒動”

NEWSポストセブン 2024年7月8日 16時15分

 大ヒットエッセイを草笛光子(90歳)主演で映画化した『九十歳。何がめでたい』が大ヒットしている。その背景について放送作家でコラムニストの山田美保子さんが解説する。

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 6月29日放送の『王様のブランチ』(TBS系)の映画コーナー。「全国映画動員ランキング」(興行通信社調べ)で初登場2位にランクインしたのは同月21日公開の草笛光子主演『九十歳。何がめでたい』だった。

 同コーナーではさらに、6月20日~24日の鑑賞者アンケート(株式会社MSS調べ)による「満足度97.3%」「口コミ推奨度98.7%」なる高評価も紹介。シリーズ累計180万部突破の佐藤愛子氏の国民的エッセイを映画化した笑いと共感のエンターテインメントは「大ヒット上映中」である。

 だが、公開前日のイベントで、「(チケットが)高齢者割引になっているので1人2回は見てもらわなければ興行収入につながらない」と心配顔だったのは前田哲監督だ。

 映画界では公開日から3日間の初動成績が、その後の公開日数の長短に関わるというのが“常識”。公開前日イベントの舞台裏では宣伝担当はもちろん、監督や主要キャストらが「この3日間が大事なので、PRをよろしくお願いします」と記者らに懇願する様子も見られたものだ。

「実は、この映画は公開から3日間の成績は、それほどでもなかったと聞いています」とは、関係者の一人。だが、公開初週、話題の新作が続々公開されるなか、ランキング2位まで上り詰めた理由は、「週末や夜間ではなく、週明け月曜日からの昼間の成績が突出していた」(同)というのである。

 Xのポストを見てみると、中高年の女性が友人たちと誘い合わせて観に行ったとか、娘が高齢の母を誘って久しぶりに映画館に行ったとか、母にせがまれて一緒に行った…などといった声が目立っている。

 実際、館内には高齢者が目立ち、50代女性が「たぶん私はこの中で最年少」と指摘するポストも見られた。メインはもっと上の層なのである。

「何十年かぶりに映画館にいらしたという方もとても多いので、自由席だと勘違いして他の方の席に座ってしまったり、途中でスマホが鳴ってしまったりと、映画の内容にも似た微笑ましい光景があちらこちらで見られています」(案内スタッフ)

鑑賞後、活力がみなぎる高齢者たち

 近年、作品によっては、「応援上映」という“声出し”や“手拍子”などを許可した上映が若者を中心に人気だが、「『九十歳。~』の場合、場内は、連日“応援上映”のような和やかな雰囲気がただよっています。見ていて、なんとも微笑ましいですね」(同)。

 果たして、7月6日オンエアの『王様のブランチ』で紹介されたランキングでも、人気アニメや人気男性アイドルが主演を務める新作が上位に食い込むなか、『九十歳。~』は堂々4位にランクインされていた。

 ちなみに、同番組のレギュラーで、映画館で観たという「パンサー」の向井慧は、見渡す限りシニア層だった客席についてリポートした後、エンドロールが流れて、場内が明るくなって、再び客席を眺めたら、「活力がみなぎっていたのがわかった」と感想を述べていた。

 最新の数字で興行収入は6億円を突破。二桁も見えてきているという。中高年に愛される演歌・歌謡曲が1年かけて売り上げを伸ばすのにも似て、映画『九十歳。何がめでたい』はロングランになる可能性も極めて高くなってきた。

 前田監督が心配しなくても、2度3度とリピートしたり、新たな友人を誘って、平日の映画館に足を運んだりするシニア層はまだまだ増えそうな予感。興行収入は9億円に上方修正されたという。

“期間限定になるかもしれない”Xの草笛光子のアカウントでは「映画館は涼しいですよ~」と呼び込んだり、スペシャル動画やキャストとのオフショットなどが連日ポストされたりしている。“リアル九十歳”の主演女優がここまで表立ってPRするのも珍しいだろう。

 配給の「松竹」や、製作幹事の「TBS」も、「まだまだいける」と期待しているという。『九十歳。何がめでたい』、エッセイに続き、映画も記録を樹立しそうだ。

【プロフィール】
山田美保子(やまだ・みほこ)/『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)などを手がける放送作家。コメンテーターとして『ドデスカ!+』(メ~テレ)、『1周回って知らない話』(日本テレビ系)、『サンデージャポン』(TBS系)に出演中。CM各賞の審査員も務める。

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