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これからの介護サービスがめざすべき姿とは 専門家が語る「ウェルビーイング」の重要性

NEWSポストセブン 2024年7月11日 7時15分

 2025年には「国民の5人に1人が75歳以上」という超高齢社会を迎えた日本。介護現場では慢性的な人手不足が課題となって久しい。このままでは満足にサービスが受けられなくなるとの懸念も高まっている。

 他方、コロナ禍では多くの医療機関が患者との面会を原則的に禁止するなど、徹底した対策を実施。5類移行から1年あまりが経った今も、感染対策として入居者の自由を制限する介護現場も少なくない。感染や転倒を防ぐため居室に配膳し、一日中部屋に留まってもらわざるをえないケースもあるという。入居者の動きを減らすことで軽減されるリスクもあるが、シニアにとって幸せな暮らしぶりとは言い難い。萎縮する方向にいきがちな介護サービスにとって“本当に必要なもの”とは何か。脳研究の専門家で精神科医の古賀良彦氏に話を聞いた。

「これからの介護を考えるときにキーワードとなるのは“ウェルビーイング”です。環境省でも盛んに叫ばれるようになってきた言葉で、心と体が満たされ、社会とのつながりが健やかな状態を保つことを意味しています」

 環境省が2024年5月21日に策定した「第6次環境基本計画」では、環境政策の最上位にウェルビーイングを位置づけている。従来重んじられてきたGDPなどの“市場的価値”だけにとらわれるのでなく、“幸福や生活の質”の追求も重視すると強調したことで話題を呼んだ。WHO(世界保健機関)では「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」と定義している。

「年配になると、どうしても行動範囲が狭まり、心も体も、そして社会的にも縮こまる傾向があります。転倒などのリスクを避け、ただ漫然とテレビを見ながら部屋の中で一日を過ごすことは健康的とはいえず、誰ともおしゃべりをしないでいると、認知症が静かに進行していくことになります。美しい景色を見に出掛けたり、美味しいものを食べたり、ピアノの生演奏を聴いたり、あるいは自ら弾いてみたりというように、五感を使って“楽しい”“面白い”と感じることを自発的に、かつ、継続的に行なうことがウェルビーイングの実現であり、認知症を遠ざけるために必要なことになります」(古賀氏)

 こうした考え方を取り入れた高齢者施設のひとつが、2023年2月にオープンした介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」。開設間もない頃からウェルビーイングの重要性に着目し、実践に取り組んできた。

「私たちはご入居者のウェルビーイングの実現と向上を目指し、そのアプローチの一つとして『開かれた、自由なホーム』をコンセプトにしましたとしています。コロナ禍の影響でいまだ面会を規制するホームの多いなか、“24時間、365日面会自由”体制を続けています。現在、18名がご入居(2024年5月時点)されており、1日に平均10組以上のご家族が面会に来られます。ご入居者のご家族が半数以上、それも毎日訪れるというのは、全国的に見ても稀なことだと自負しています」(株式会社ウイーザス統括本部・三浦利之本部長)

 それほど多い家族の面会と交流を支えるのは背景にあるのは、「開かれた、自由なホーム」というコンセプトと、東京メトロ東西線・半蔵門線、都営新宿線「九段下駅」から徒歩3分という交通の利便性のよい立地だ。

「お仕事の忙しいご家族が多いので、アクセスのよい場所で、24時間、365日面会できるという特徴は、当ホームを選んでいただく大きな理由の一つとなっています。のは大きなメリットになります。頻繁に来訪していただくことで、ご家族と私たちスタッフとの距離も縮まり、ご入居者はもちろんご家族のご要望も汲み取ることができるため、ニーズに合わせてより品質の高いサービスのご提供が可能になると考えています」(同社経営企画室長・山本奈生氏三浦氏)

 面会はもちろんのこと、入居者が何より楽しみにするのは、散歩や外出といったアクティビティだ。入居者同士のグループで出かける交流イベントを多数企画している点を前出の古賀氏も高く評価する。

「認知症には、人とのコミュニケーションの基本である“おしゃべり”が有効といわれています。イベントなどで外に出て友人を作ることは、社会的なつながりを得ることにもなります。たわいもない話に花を咲かせ、目でモノを見て、実際の香りを嗅ぐなど、五感を駆使する場面が日常に織り込まれることで、幸福感がより一層増すでしょう」(古賀氏)

 なかには北海道や沖縄、海外への旅行を希望する入居者もいる。他の老人ホームでは二の足を踏みそうなこうした要望も、万全を期した計画を準備して積極的に叶えられるようにするという。

「重要なのはパーソナルサービス、つまりお一人おひとりのご意向を大切にし、ご希望を叶える実際的なお手伝いをするということです。介護度が重くなると、遠出もままならないことが多くなりがちですますが、私たちスタッフが付き添うことで可能な限り、実現していただけるように努めています。先日も鹿児島への1泊2日沖縄へ2泊3日の個人旅行にお供してまいりました。旅行だけでなく、日帰り観光や観劇などにもご対応します。ご入居者がご自分らしく、自由に生き生きとされている、ということがウェルビーイングにつながると信じ、精一杯そのお手伝いをさせていただきたいいられることをできる限り尊重したいと考えています」(三浦氏)

 いつまでも健康でいられるための支援にも余念がない。北陸大学の教授と共同開発した「トータル・ライフ・トレーニング」は、科学的根拠に基づいたリハビリを提供し、介護度の改善を目指すもの。入居者は身体機能の維持・向上を図りながら、より自立した生活を目標に汗を流している。また、万が一に備え、24時間体制で看護師が常駐しているという。

 社会とのつながりを重視し、入居者の幸福感を最大化するサポート体制こそがこれからの介護サービスが目指すべき新しい形といえるだろう。

取材・文/小野雅彦

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