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【世界中で猛威を振るうトコジラミ】日本にいる多くは薬剤耐性を持つ「スーパートコジラミ」 集合住宅では隣家から侵入するリスクも

NEWSポストセブン 2024年7月12日 11時15分

 夏場は害虫たちの動きが活発になるハイシーズン。蚊、ゴキブリ、ダニ、コバエ……など、多くの害虫が繁殖するが、中でも要注意なのが「トコジラミ」。近年よく耳にするようになった、お騒がせなあのムシが、世界中でパニックを引き起こしている。

 間もなく五輪が開幕する花の都・パリ。昨秋、そのパリのファッションウイークで起きたトコジラミ被害に激震が走った。

「翌年のウィメンズの春夏モノが展示され、世界中から多くのファッション関係者が集まるイベントだったのですが、あるアジア系のインフルエンサーが帰国後に、『パリでトコジラミに刺された』とSNSで報告。『足がかゆくて気が狂いそう』とコメントした彼女の動画は300万人超の視聴があり、1億4000万回以上も再生されました」(ファッション誌関係者)

 その頃、パリでは映画館や電車内、空港などでも“トコジラミ目撃談”が相次ぎ、ついにはフランスの国民議会(下院)でトコジラミ対策を巡って政府が批判にさらされる事態に発展。これに対しマクロン大統領の与党連合も、トコジラミ問題を最優先課題にすると発表した。

 実は日本の隣国の韓国でもトコジラミが蔓延中だ。韓国語でトコジラミは「ピンデ」と呼ばれ、ピンデ+パンデミックで「ピンデミック」なる造語も誕生。昨年11月、韓国政府は「合同対策本部」を立ち上げて「トコジラミとの闘い」を宣言した。

 世界中で猛威を振るうトコジラミは、例外なく日本でも存在感を増している。有害生物防除に関する全国組織「日本ペストコントロール協会」へ寄せられたトコジラミの相談件数は、2022年度(2022年4月〜2023年3月)で683件。2009年度から約5倍に増えている。

 とりわけ都市部で被害が著しいと指摘するのは、日本ペストコントロール協会の理事で技術委員長を務める谷川力さんだ。

「昨年、東京都ペストコントロール協会へ寄せられた相談件数は過去最多となりました。『実物を見た』『この症状はトコジラミではないか』『肌がかゆい』など、さまざまな相談が寄せられています」

 そもそもトコジラミと日本人の関係は長い。江戸時代、オランダから買い入れた船で西洋から持ち込まれ、明治時代の西南戦争の頃から数が増えたとされている。古くは南京虫と呼ばれた、身近なムシだった。

 だが、米軍が持ち込んだ“戦後最初の殺虫剤”の「DDT」などにより、1964年の東京五輪の頃には日本からいったん姿を消した。それがなぜまた大繁殖しているのか。前出の谷川さんが解説する。

「1つ目は薬剤耐性を持った『スーパートコジラミ』の出現です。2000年代になると従来の薬剤が効かないトコジラミとして先進国で再興し、いまや日本にいる多くがスーパートコジラミとされます。2つ目がインバウンドの急激な復活。トコジラミの卵や成虫は旅行者や物流にくっついて拡散するため、アフターコロナで活気づいた海外からの人流とともに広がっています。宿泊施設に限らず、一般家庭でも油断できません」

 凄まじい繁殖力で、気温25〜30℃で活発になるという。国立環境研究所の生態リスク評価・対策研究室長、五箇公一さんが話す。

「空調が行き届き密閉された夏場の室内は、トコジラミにとって好適地なんです。しかもネズミやクモといったトコジラミを捕食する天敵も室内にはいませんから、駆除しない限りはネズミ算式に数が増え続けます」

 気になるのは人体への影響だろう。刺されるとどうなるのか。

「トコジラミは人間を宿主として吸血します。刺された人によると、何も手に付かないほどの激しいかゆみが長く続いて、トラウマになるレベルだとか。感染症を媒介していないのが唯一の救いとはいえ、健全な生活を阻んで精神的ダメージを与えるという意味で、トコジラミは立派に危険な害虫です」(五箇さん)

 人によって不眠症や神経障害、発熱などの症状が出ることも。かきすぎて皮膚に傷がつき、細菌の二次感染で化膿することもある。被害を防ぐためには、何より家へ持ち込まないことが重要だが、人がいればどこにでもすめるのがトコジラミ。「日本中どこにいてもおかしくない。その心構えが大事です」と、五箇さんは説く。

パリ五輪で導入「洗えるマットレス」

 集合住宅であれば、隣家で発生したトコジラミが侵入するリスクもある。できるだけ早く発見し、早期に駆除することが鉄則だ。駆除方法にはいくつか方法がある。まずは新しい殺虫成分・テネベナール(一般名・ブロフラニリド)が入った殺虫剤。効果も安全性も高く、トコジラミ用として市販されている。

「ハエやゴキブリ用のエアゾールはトコジラミに効果がないばかりか、嫌がって分散してしまうので被害が広がります。大量に繁殖している場合は業者に頼ると安心です。悪徳業者もいるので、施工方法などを比べて信頼できる業者を選んでください」(谷川さん)

 トコジラミは100℃で数秒、79℃で5分、60℃で10分以上加熱すると死滅するとされる。衣類やシーツ類は、高温の乾燥機を使って駆除することができる。

 夜行性で吸血する特性上、トコジラミが最も多く繁殖するのは寝室だ。洋室ではベッドフレームのボトム裏やマットレスの縫い目、折り目などを好み、室内のあらゆる隙間に潜んでいる。

 しかし、マットレスなどの大物は乾燥機に入らないなどの難点も。そのためトコジラミを防止するシーツなどのほか、「水洗い」が可能なマットレスに注目が集まっているという。

 パリ2024オリンピック・パラリンピックの選手村に提供される寝具は、実は日本の寝具メーカー『エアウィーヴ』製。マットレスは中材が3分割になっていてカスタマイズでき、独自素材のエアファイバーは通気性が高く、水洗いも可能だ。

 ダニを例にとると、繁殖培地が散布された寝具5種類を水洗いして比較した結果、エアファイバーは「ダニ」「アレルゲン量の低減率」いずれもトップの除去効果が確認された(日本環境衛生センター調べ)。

「東京五輪に続き、パリ五輪でも同社の寝具が採用されることになりました。万が一トコジラミが入り込んでも、洗い流せるのはほかの寝具との大きな違いです。水洗いできる清潔なマットレスは、選手や五輪関係者にとってもメリットでしょう」(スポーツ紙記者)

 トコジラミの成虫は5〜8mmと目視が可能だが、1匹ずつ見つけてつまみ出すのは至難の業。水で一気に洗い流すのは、家庭でも比較的簡単にできる対策といえるだろう。

 来年には大阪・関西万博も控え、さらなる人流が予想される日本。トコジラミの存在を知らない世代が増えたことで放置され、被害が広がってしまうケースもある。まずはよく“敵”の生態を知ること。疑わしきムシを自宅で見つけたら適切な対策をして、今年の夏を乗り切りたい。

※女性セブン2024年7月25日号

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