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夏本番となり職場や電車内などで発生する「ニオイ問題」 揉めるぐらいなら我慢したほうがいいのか、解決策は「ない」という現実

NEWSポストセブン 2024年7月16日 16時15分

 東京の夏は暑い。2023年は7月6日から9月7日まで64日間も最高気温30℃以上の真夏日が続き、過去最長、35度以上の猛暑日も22日で過去最多を記録した。2024年も厳しい暑さとなる見込みと発表されている(気象庁調べ)。高温多湿で知られるインドからやってきた人に「東京の方が暑い」と言われた、なんて笑い話が定番になりつつあるなか、この時期になると人々を悩ませるニオイ問題がある。ライターの宮添優氏が、職場や通勤電車などでニオイ問題を抱えながら解決の糸口が見つからない人々についてレポートする。

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 日中の気温が30度を超える日が続くなど、季節はいよいよ夏本番。この暑い時期に気になるのが「汗」や「汗のニオイ」で、電車や会社など、特に人の多いところへ行く際には、自身から嫌なニオイがしていないか、強いていうならば「エチケット違反」になっていないか、気を付けているという人も多いだろう。

 アラフォー男性の筆者などは、汗のニオイに加えて、中年男性臭にも気を使うシーンが増えたと実感する。だが「私ってニオイますか?」などとは、かなり親しい間柄の相手であっても聞きづらい。また、自身の体臭が気になったとしても、「誰にも言えない」問題として黙って抱え込むものだ。一方、最近ではニオイによって周囲を不快にさせるハラスメントを意味する和製英語「スメルハラスメント」なる言葉も広まっている。個人的な問題を超えているという社会意識のあらわれなのかもしれないが、現実には、他者の体臭によって不快感を覚えたとしても、やはり「誰にも言えない問題」として、黙って不満をため込んでいる人が多い。

「やっぱり仕方のないことかなって思うし、誰かのことをクサい、ニオイますよというのはイジメにみたいに感じてしまう。でも、もう我慢の限界なんですよね」

 都内の民放キー局に在籍し、情報番組のアシスタントプロデューサー(AP)を務めるHさん(40代女性)は、汗の多くなる初夏から秋ごろまで、男性上司の体臭に悩まされ続けて、もう5年以上が経つ。当初こそ、生理現象で仕方ないことと考えるように努めたが、次第に若い社員を中心に、その上司を露骨に避け始めたのだ。

「社内の席は、上司以外はフリーアドレスで誰がどこに座っても良い。だから、若手はできるだけ早い時間に来て、その上司からできるだけ離れたデスクに座り、上司の周りだけガランとしている。上司本人もうっすらとは気が付いているようですが、こんな状態が続けば仕事だってできない。部下からも泣きつかれ、早く注意してくださいなどと言われますが……。やはり言えないんです」(Hさん)

 ニオイの元が上司だったり、知人や友人であったとしても、指摘しにくいのは当然だろう。不快さに加え、相談できないもどかしさによってフラストレーションはたまる一方なのだ。

ニオイ対策で「蒸れますが、マスクが手放せない」

 あなたが発するニオイが不快だ、と上司や同僚はもちろん、友人であっても指摘するのは難しい。それが、通りすがりの人であったらなおさらだ。例えば混み合う電車の中では、偶然隣り合った人の体臭を不快だと感じても、指摘もできなければ、そこから逃げることもできない。

「人に向かってニオイますよ、なんて失礼でしょう。まして相手は女性です。アラフィフ男の自分が言われても、相当なショックを受けるはずのことです。だからなのか、周囲の人も誰も、何も言いません。我慢しているのだと思います」

 通勤電車での苦痛を打ち明けたのは、千葉県在住の団体職員・Fさん(50代男性)だ。Fさんは毎日、都内の職場に電車通勤しているが、一週間に2度ほどのペースで遭遇する、ある女性客のニオイに頭を悩ませている。その女性は一見すると、普通の女性会社員風だが、毎年、梅雨になり気温がぐんぐん上がり始める時期になると、汗や香水などが入り混じったような、なんともいえない強いニオイを漂わせる。乗車してきた瞬間に、ほとんどの人が顔をしかめるほど強烈だ。

「あまりにニオイが強く、別の車両に移動したり、目的地より前の駅で降りてしまう人もいるほどなんです。でも、朝は急いでいるし、電車を一度降りて遅れて出勤なんてできませんから、私は我慢するしかない。露骨にその人に向けて嫌な顔もしづらい。この時期は暑く、湿度も高くて蒸れますが、電車内でもマスクが手放せない。いくらかニオイが和らぐので」(Fさん)

 Fさんのように感じている乗客は、彼が利用する路線に限ったことではないようだ。似たような乗客の話は「クレーム」という形で、鉄道会社の社員や駅員にいくつも寄せられている。関東の大手私鉄に勤務するKさん(40代男性)が、数多く寄せられたクレームの一部について、打ち明ける。

「お客様の体臭について、会社や駅員、乗務員にクレームが来たことはあります。中には、体臭がきっかけとなったトラブルで小競り合いが起き、電車が非常停止したこともあります。では、鉄道会社として何かできるかと言えば……ありません。生理的な問題は個人的な問題で、それを理由に規制するのは現実的ではありません。ただ、クレームを入れざるを得ないというお客様の気持ちもわかります」(Kさん)

ニオイ「対策」は必要なのか

 一律に規制するのは難しいが、交通機関として無策でいてよい問題でもないだろう。Kさんは以前、ニオイ問題に対処するため、勤務先のグループ会社のタクシー会社やバス会社社員と「対策」について協議したことがあるという。

「バスでもタクシーでも、同様の問題はあるようですが、どうやっても抜本的な解決方法はありません。まさか、お客様向けに”体臭に気をつけて”などと張り紙をするわけにもいかない。逆に、タクシー乗務員がニオう、というクレームはかなり頂戴しているようですが、難しいところです」(Kさん)

 ニオイの問題が社会問題化されつつある一方で、体臭の問題は多くが仕方のない生理現象であり、わきがのように治療をしないとおさまらないものもある。個人の努力ではどうにもならない可能性がある体臭を指摘することは失礼、という社会通念も存在する。さらに、ニオイを指摘することで相手を傷つけ、揉めるくらいなら自分が我慢した方が良いと考える人が大半だろう。周囲との軋轢を起こしたくないと思いながら生活するのが一般的な市民生活の送り方であって、ニオイの指摘をきっかけにトラブルに巻き込まれたくないというのは普通の感覚だ。だが、せめて自分は大丈夫かな?と振り返り、「周囲のためのエチケット」に気を払えているか考えてみることは重要だろう。

 そもそも「自分は体臭がない」と考えてはいないだろうか。少なくとも、体臭がなくはないが、風呂に毎日入り洗濯もして、体臭が強くなるという肉食もそれほどしていないし、日常的に香りが強い香辛料も使わないから、不快になるようなニオイはないはずだと思っているだろう。だがそれは、あくまでも慣れているニオイだから感じ取れていないだけで、無臭ではない。毎日使っているシャンプーや、洗濯洗剤や柔軟剤のニオイがしているかもしれない。そのニオイだって、程度によっては不快なものと周囲には思われているかもしれない。自分は無臭、そうした思い込みが、知らないうちに他者を不快な気分にさせている可能性が十分にある、ということを知っておくべきだろう。

 もっとも、自身のニオイが気になりすぎて、日常生活に支障が出ても困る。無頓着なのではなく、適度な気配りをお互いにするのが普通のことになって欲しいものだ。言いにくいし指摘もしにくい問題であることには間違いないが、これが大きなフラストレーションとなり、単なるニオイの問題が、大きなトラブルに発展することだけは、避けたいものだ。

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