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【凶暴化するカラス】人間を襲う事例が急増 身を守るための基本は「近づかない」、CDや水を入れたペットボトルは「一時的な効果しかない」

NEWSポストセブン 2024年7月16日 11時15分

「カラスに突然命を狙われた」──いま、そんな事例が全国各地で相次いで報告されている。生ゴミをまき散らし、田畑を荒らす以上の恐ろしい被害が各地で多発しているのだ。凶暴化したカラスに襲撃されないために、私たちは何をすべきなのか。身を守るための方法を、専門家に徹底取材した。

 玄関で靴を履き、道路に出て歩き始めた男の子の小さな体が、突然上空から現れた真っ黒い影に覆われる。振り切ろうと走って逃げる後ろ姿にぴったりと張り付き、後頭部を直撃する──6月上旬、兵庫県宝塚市で撮影された映像には、小学生男児がカラスに襲撃される様子が映されていた。幸いにもけがはなかったものの、男児はその瞬間を振り返り、「ボウリングの球が、後ろから飛んでくるような感じ。死ぬかと思いました」と話したという。

 同時期に東京都国分寺市でも、一羽のカラスが男性2人組と自転車に乗った女性を襲撃したことがニュースとなった。カラスの生態を長年観察しているNPO法人札幌カラス研究会代表理事の中村眞樹子さんは、いま、凶暴化したカラスが人間を襲う事例が全国で急増していると話す。

「実際、私の元にもカラスに襲われたという相談が、少し前から増加しています。カラスは毎年、4月から5月にかけて卵を産み、そこから約2か月にわたって子育てを行います。つまりいまの季節は子育てのピークで、巣立ちの時期。雛を守るため、非常に神経質になっていることが攻撃される大きな原因です」

 つまりいまは、一年で最もカラスに狙われやすい警戒すべき時期だということ。身を守るための秘策をお伝えする。

攻撃をかわすには「後ろ」を守れ!

 何よりもまず意識すべきと専門家が声を揃えたのは「近づかない」こと。

「カラスに近づいたり、じっと見たりといった行為は、通常であれば特に問題はありません。しかしこの時期、カラスにとっては巣の方に人間の目線を向けられるだけでも“卵や雛に危害が加えられるのでは”とストレスのもとになる。特に巣のある場所を見つけたら、そっとそこから離れ、近づかないことを意識してください」(中村さん)

 加えて覚えておきたいのは、カラスの攻撃の「パターン」と「癖」だ。カラスの生態や行動を研究するインターメディアテク寄付研究部門特任准教授の松原始さんが解説する。

「カラスは、基本的に後ろから襲ってきます。まずは当たるか当たらないかのギリギリをかすめるように飛んで威嚇。それでも人間が逃げなければ、“飛び蹴り”を入れてきます。そのとき、カラスの爪が引っかかったり、頭をつかまれて切り傷が入ってしまうこともある。実際に襲われたことがある人からは、『頭を引っ張られた』という証言も出ています」

“後ろを守る”ための“グッズ”は身近にある。

「傘を差せば、カラスに襲われても蹴られることはありません。カラスは人間の後ろから襲ってくるので、傘があると“的”になる頭部が見えず、攻撃しようがなくなる。突然襲われて傘を開く余裕がなくても、閉じたままで頭より高い位置につきだせば、傘に接触することを恐れて攻撃できなくなります。

 もし傘を持っていない場合、帽子をかぶることでけがのリスクを抑えられます。帽子もない場合は、腕をまっすぐに上げて動かさずに通り過ぎましょう」(中村さん・以下同)

 その際、留意すべきは「走らない」こと。

「襲われたときに走ってしまうと、カラスの“ハンター”としての野生本能を刺激してしまいます。走って逃げるのではなく、腕を上に上げることで攻撃を防ぎつつ、歩いてその場から離れることが大切です」

CDや警戒音、ペットボトルの水は効果なし

 活発化するカラスの被害は、人間への直接的な攻撃だけではない。松原さんは、カラスによる「ゴミ問題」についても指摘する。

「カラスを観察していると、巣に産み落とされた卵のうち、巣立ちまで成長できるのは半分程度。『都会のカラスは生ゴミをたらふく食べている』というイメージを持っている人も多いですが、実際は慢性的に栄養不足です。厳しい競争を勝ち抜いてエサに辿り着くため、カラスも死に物狂いでゴミを漁っているのです」

 しかし、生ゴミの散乱は衛生上避けたい。中村さんは「ゴミを“見えない状態”にするのがいちばん」と話す。

「カラスは目で見てゴミを探すので、蓋付きのゴミ箱で『見ることもできない、開けようもない』状態にするのが大事です。蓋付きゴミ箱の設置が難しいところでは、丈夫なブルーシートで覆い隠して重しをしっかり置き、カラスがめくって荒らすことを防ぎましょう」

 生ゴミに加え、田畑や家庭菜園を荒らされる被害も後を絶たない。松原さんによると、カラスにとって家庭菜園は「魅力的なビュッフェ会場」なのだという。

「実はカラスはフルーツが大好きで、特に柿やびわが好物です。大切に育てた作物を守るためにはまず、防鳥ネットを張ること。もう1つは、透明な細い糸である『テグス』を使う方法もあります。

 カラスは羽を広げると約1mの大きさになるため、菜園全体にテグスを1m程度の隙間で張り巡らすと、羽が触れる可能性を嫌がってカラスは近づかなくなるといわれています。その際、地面から15cmほどの高さにテグスを張ると被害が最も少なくなるという研究結果もあります」(松原さん・以下同)

 市街地では難しいが、カラスの「死体」を吊るすことでも一定の効果がある。「畑ばかりの郊外であれば、猟師さんにカラスたちの目の前で一羽撃ってもらいます。その死体を吊るせば、カラスたちはそれを見るたびに仲間が撃たれて死んだ場面を思い出すため、長く効果が続きます。この場合は、銃のおもちゃを見せることでも同様の効果が出ます」

 一方、カラス用の警戒音を流す、CDをぶら下げる、ペットボトルに水を入れて置いておくなどの一般的に知られた対策は、その場しのぎにしかならないそう。

「カラスにとって実害がないものは、慣れてしまうので一時的な効果しかありません。カラスは警戒心が強いと同時に、見慣れないものが置いてあっても諦めずに観察し、害があるか見極めます。さらに記憶力もよい。創意工夫が必要です」

 一説には、小学校低学年程度の知能を持っているともいわれるカラス。人間側も絶えず知恵を絞って対抗していくしかないようだ。

※女性セブン2024年7月25日号

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