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《トランプ暗殺未遂事件》星条旗を背に拳をあげた「奇跡の一枚」で思い起こされる2つの歴史的写真ともう1つの奇跡的なポイント

NEWSポストセブン 2024年7月19日 7時15分

 被写体を想定以上に魅力的に撮った写真を「奇跡の一枚」と呼ぶ習慣がSNSで広まって久しい。たとえば、ファンが撮影したアイドルのライブでの様子が「奇跡の一枚」として拡散され、ブレイクのきっかけになることもある。ドナルド・トランプ前米大統領が演説中に銃撃されて負傷した事件で撮影された一枚の写真も、衝撃の強さをあらわした奇跡の一枚として大きな話題となっている。臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、なぜあの一枚が奇跡の一枚として受け止められているのかについて分析する。

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 7月13日、米東部ペンシルベニア州で起きたトランプ前大統領の暗殺未遂事件、その銃撃後の様子を収めた奇跡の一枚が世界中で話題になっている。完璧な構図とまでいわれるその写真には、真っ青な空の下にはためく星条旗を背景に、避難させようとする複数のシークレットサービスが身体に組み付く中、右耳から流れる血を気にすることもなく、右手の拳を突き上げ、何かを叫んでいるトランプ氏が映っていた。撮影者は米AP通信のエヴァン・ヴッチ氏だ。

 トランプ支持者にはもちろんのこと、政権奪還を狙う共和党員にとっても大統領選に大きく影響を与えるだろう一枚の写真。死んでいてもおかしくない状況で助かったトランプ氏は、流れる血を拭うことなく拳を何度も突き上げ、暴力に屈しない強いリーダー像を見せつけた。危機において、どれだけ強いリーダーシップを発揮できるのか、国の指導者たるものにこの資質は欠かせない。9.11のテロ事件が起きた米国でリーダーシップを見せたジョージ・ブッシュ大統領。ロシアがウクライナに侵攻してきた時、国民に団結を呼びかけたゼレンスキー大統領。当時、国民からの支持率は急上昇したのだ。

 だがそれだけではない。この写真がなぜ世界中の人々に強いインパクトを与えるのは、誰もが見たことがあるだろう2枚の映像のイメージと重なるからだ。

 ネット上でも話題になったが、1枚はフランスの画家ドラクロアが描いた「民衆を導く自由の女神」(1830年製作)。フランス7月革命を題材にしたこの絵は、自由の女神が右手に持ったフランス国旗を高く掲げ、倒れる人々や武器を持った人々を鼓舞するように導いている様子が描かれている。強いリーダーのもと革命を起こそうという気迫に満ちた一枚だが、これが奇跡の一枚が人々に与える印象とよく似ているのである。現政権を倒し、政権奪回を狙うトランプ氏や共和党にとって”革命”をイメージさせるに十分だ。

 もう1枚は「硫黄島の星条旗」(1945年2月23日撮影)と呼ばれる有名な白黒の写真だ。第二次世界大戦中、日本軍と米軍が戦った硫黄島の山頂で星条旗を掲げる兵士らの姿を収めたものだ。撮影したのはAP通信のジョー・ローゼンタール氏だ。風にはためく星条旗を数人の兵士らが掲げ、1人はその旗に向かって右手の拳を高く突き上げている。国家の勝利を連想させる象徴的な写真は、後に首都ワシントン郊外のアーリントン国立墓地近くに記念碑として建立された。

 ドラクロアの絵と硫黄島の写真はどちらも勝利の象徴だ。それだけに構図が似ている奇跡の一枚は、これらを思い出した人々に強いインパクトを与え、トランプ氏の勝利を連想させることにつながるのだ。

 さらにこの写真が奇跡的なのは、これを見た人がトランプ氏を見上げるような構図になっていることだ。写真をまっすぐ正面から見ているのに、撮影者が演壇の下から撮影しているため、見た人は彼を見上げるような錯覚に襲われる。高さは富や権力、地位を象徴するといわれる。王様や権力者たちが、人々より高い玉座に座るのも地位や権力を誇示するため。強いリーダーをアピールし大統領選に勝利するには、人々にトランプ氏を見上げるような印象を与えるこの一枚は実に効果的だ。

 米ウィスコンシン州ミルウォーキーの共和党全国大会に右耳にガーゼをつけながらも元気な姿を見せ、大統領候補として正式に指名されたトランプ氏、トランプコールに沸く会場で、右手の拳を上げガッツポーズを見せた。戦うリーダー像をアピールした彼のイメージを、奇跡の一枚はどこまで後押しできるだろう。

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