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【パリ五輪・競泳】日本のエース・本多灯の直前練習に密着 自称“無邪気な永遠の4歳児”は「勝つ自信はあります」と凛々しい表情

NEWSポストセブン 2024年7月20日 11時15分

 7月26日から開幕するパリ五輪で、JOC(日本オリンピック委員会)は日本選手団の目標として「金メダル20個」を掲げた。なかでも日本競泳界の顔として期待のかかる「明るいエース」の直前練習に密着してきた。

「東京五輪の時は、まだ学生だった“ガキンチョ”が、ただただ速く泳ぎたいと思っていたというか。銀メダルは棚からぼた餅で、まさかの結末でした。あれから3年、いまはメダリストとしてのプライドもありますし、経験も積んできました」

 競泳・日本代表の本多灯(22・イトマン東進)には金メダルしか見えていない。初出場した2021年の東京五輪では、200mバタフライで銀メダルを獲得し、競泳男子として唯一のメダリストとなった。その後も国際舞台で存在感を発揮し続けた本多は、今年2月のドーハ世界選手権にて同種目で自身初の金メダルを獲得するなど、2度目の五輪を前に日本競泳界の新エースとして期待を集めている。

 大会が迫ってくるなか、コンディションは堅調という本多。大舞台にめっぽう強い強心臓の彼は、「あとは本番でいかにスイッチを入れられるか」と腹を括っている。

「得意のキックを磨き、最後の最後でどう勝ち切るかということを思い描きながらやってきました。目標は1分51秒台。まだ1分52秒台を1度しか出していないので、めちゃくちゃ難しいのはわかっています。でも、自分のなかで(泳ぎの)力感は掴んでいるつもり。それを当日どう出せるか。そうなると、いちばん大事なのはメンタルかなって思っています」

 本多の自己ベストは1分52秒70。3年前の東京五輪で2秒48もの差を付けられた200mバタフライ世界記録保持者のクリシュトフ・ミラーク(ハンガリー)と持ちタイムで2秒以上の開きがある。2月の世界選手権では直接対決が実現しなかったが、パリ大会での激しい首位争いは必至だ。

 もう一人、強敵となるのが地元フランスの新鋭レオン・マルシャン。2023年の世界選手権で200mバタフライのほか、2つの個人メドレーを制して3冠を果たした。

「2人はライバルであり、憧れの存在。彼らと一緒に泳げることは楽しいし、彼らがレースに出ると、どれくらいのタイムで泳ぐのか気になります」

歴史に名を残す

 本多はパリ五輪でミラークやマルシャンと歴史に残るようなレースを繰り広げたいと願っている。2023年、あのWBC決勝で大谷翔平と米国代表のマイク・トラウトが名勝負を演じたように。

「WBCの決勝はちょうど練習終わりに放送していて、最後の大谷選手とトラウト選手の対決は『ヤバい、ヤバい』と後輩と大声を出しながら盛り上がったのを覚えています(笑)。元々僕は野球好きでしたが、何度見ても興奮するんじゃないかと思う怒濤の展開でしたよね。

 競泳選手にとってパリ五輪は大きなレースで、多くの人に注目してもらえる機会でもある。そんな舞台で僕も、ミラークやマルシャンたちライバルと観客の感情を揺さぶるようなレースができたら、それほど最高なことはないですね」

 金メダルを獲った先の夢──自分がスポーツから感動をもらい、周囲から応援してもらってきた分、社会に恩返しする意味でも将来は水泳教室を開きたいのだという。

「自分もスポーツの素晴らしさを伝えられる選手になりたいですし、子どもたちの目標になりたい。そのためには結果を出す必要がある。僕は『日本競泳界のエースは誰か?』と聞かれた時に、『歴史を見ても本多灯しかいないよね』と名を残せる選手になりたいんです」

 自らを「無邪気な永遠の4歳児」という。そんな本多がレース前に気持ちを盛り上げるために聞くのがラップだ。

「ラップって韻を踏むところが聴いていて気持ちがいいし、歌い手の生き様が表われているじゃないですか。日常生活では思っていても口にできないこともあるし、そうした内に秘めた思いもすべて言葉にしてさらけ出しているラッパーには憧れるし、刺激を受けます。

 最近、僕が推しているのは宮崎県出身のラッパー・GADOROさん。『WARUAGAKI』という曲には“きっとヒーロー以上に戦っているだろ”って歌詞があって、僕も自分の競技人生を重ねながら元気をもらっています。きっとパリでも僕の背中を押してくれるはずです」

 旅好きの本多にとって観光名所が数多ひしめくパリは魅力的な街であるが、いまは頭に競技のことしかないと言い切る。

「パリの楽しみ? 金を獲ることだけ。もちろん勝つ自信はあります」

 笑顔が印象的なエースは、インタビューの最後に凛々しい表情を見せた。

【プロフィール】
本多灯(ほんだ・ともる)/2001年12月31日生まれ、神奈川県出身。幼稚園時代に兄の影響を受け、水泳を始める。2019年世界ジュニア選手権で200mバタフライで2位。2020年日本選手権の200mバタフライで初優勝を果たすと、2021年の東京五輪では男子200mバタフライで銀メダルを獲得。2024ドーハ世界選手権で、200mバタフライで日本人初の金メダルに輝いた。パリ五輪では200mバタフライに出場。力強いキックと終盤の追い上げが持ち味。イトマン東進所属。

取材・文/栗原正夫 撮影/岸本勉

※週刊ポスト2024年8月2日号

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