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失った歯を補う方法「入れ歯」「ブリッジ」「インプラント」の一長一短 どれを選ぶか判断するために知っておきたい基礎的な情報

NEWSポストセブン 2024年7月21日 11時13分

「歯は健康の生命線」といわれるが、一度失えば戻ってこない。虫歯や歯周病に加え、もろくなった歯で硬いものを食べたり思わぬ事故やけがをしたり──さまざまな理由で失われる歯を補う方法を知っておけば、人生の後半戦のQOL(生活の質)は大きく上昇する。確かな腕と熱い心を持った「最強の歯科医」を、ジャーナリストの鳥集徹氏と『女性セブン』取材班が総力取材した。【前後編の前編。後編を読む】

「食べること」は命を維持するだけでなく、人生における大きな喜びでもある。それを味わうには言うまでもなく、丈夫な歯を維持してしっかりと噛める状態でいることが大切だ。

 しかしその「歯」は、いつまでも健康でそろっているとは限らない。人間の歯はもともと全部で上下14本ずつ、合計で28本あるが、中高年になると徐々に歯を失っていき、残存歯は60代で24〜25本、70代で18〜21本、80代になると14〜16本に減ってしまう(厚生労働省「令和4年歯科疾患実態調査」より)。

「歯が抜けて、硬いものが噛めなくなった」
「入れ歯が合わず、食事中に痛みを感じておいしく食べられない」

 読者の中にも、こんな悩みを抱えている人は多いのではないだろうか。加えて懸念すべきは、歯を失うと食べる楽しみが減るだけではなく、健康寿命にも影響することだ。

 自分の歯が多く残っている人、あるいは自分に合った義歯を入れている人ほど認知症になりにくく、転倒も少ないという研究結果がある。翻って言えば、歯を失ったままの状態を放置していると、認知症や転倒のリスクが上がるのだ(日本歯科医師会運営サイト「テーマパーク8020/現在歯数と健康寿命」より)。

 つまり自分の歯を守りつつ失った部分を補い、しっかり噛める状態を保つことこそ、楽しく健やかな老後を過ごすための重要なポイントになる。

 歯の寿命は50〜65年といわれており、人生100年時代においてその一部を失うことは避けて通れない。そこで今回は、入れ歯やインプラントなど、失った歯を人工物で補う「補綴」という分野の治療で著名な歯科医師に取材して、どうすれば満足できる治療を受け、思い通りに噛める歯を取り戻せるかをたずねた。併せて入れ歯やインプラントの治療において、信頼できる全国の歯科医師の名前もあげてもらい、リスト化した。

3つの補綴の治療は一長一短

 失った歯を補う方法は、大まかに分けて3つある。「入れ歯」「ブリッジ」そして「インプラント」だ。

 入れ歯は、失った部分に装着し、残っている歯にバネをかけて固定する「部分入れ歯」と、すべての歯を失った場合に使用する取り外し式の「総入れ歯」に分けられる。入れ歯とブリッジは特別な材料を使わない限り原則的に保険が広く適用され、3割負担の場合、治療費は5000円から高くて数万円で済む。これに対して、インプラントは保険が適用されないため、1本40万〜70万円と高額だ。

 ただし、インプラントは一度処置をすれば生涯にわたって使い続けられる可能性もあり、「自分の歯と同じように噛める」とされている。歯科医師からそうすすめられて「高いけれどインプラントにしよう」と思う人もいるだろう。だが、“一生もの”であるがゆえ、慌てて決めれば後悔につながる。

 どれが自分に合っているのか、まずは情報を集めてから決断してほしい。「それぞれに一長一短がある」と話すのは、大塚歯科医院理事長の大塚勇二歯科医師だ。

「入れ歯はブリッジやインプラントと比べ、しゃべっている途中に外れやすい、見た目が悪い、食べかすが挟まるといった問題点があります。また、噛む力も6割程度に落ちるので、食事の際、多少苦労するのは否めません。

 ただ、残っている歯をほとんど削る必要がなく、型を取るだけで作ることができるため、治療にかかる負担は少ない。また、歯ぐきに吸着する形で固定されるため、ブリッジに比べ残った歯にも負荷がかかりづらい。なにより治療費が安く済むケースが多いのが、最大のメリットです」

 これに対し、ブリッジとインプラントは安定性が高く、食べる場合の不自由も少ない。だがやはり、それぞれデメリットがあるという。大塚歯科医師が続ける。

「歯を1本だけ失った場合にはブリッジにするケースが最も多いのですが、一度作れば特別な手入れが不要で、見た目もきれいです。ただし、ブリッジを支えるために失った歯の両隣の歯を削る必要がある。加えてそれまで3本の歯で受けていた加重を2本で受けることになるので、残った歯にかかる負担はいちばん大きい。

 一方、インプラントは欠けた歯が生えていた場所のみで治療が完結するので、周囲の歯への負担はほとんどありません。見た目もいいし、きちんと治療すれば30年以上持つケースも少なくないです。ただし顎の骨を削る手術が必要なうえ、治療費も高額になります」

 また、医療法人貴和会銀座歯科診療所の松井徳雄歯科医師もこう話す。

「インプラントは自分の歯に近い機能を取り戻すことができるうえ、虫歯になるリスクが少なくなります。ですが人工物を骨に入れるという処置そのものが受け入れられないという患者さんも少なくありません。どの治療も欠点と利点が必ずあるので、それらについて充分な説明を受けてから、自分にはどれが合っているかよく考えて選択してほしいです」

入れ歯難民が多発する理由

「入れ歯」と「インプラント」のどちらを選んだとしても、どんな歯科医のもとで治療を受けるかによって結果が大きく変わる。

 例えば入れ歯を選んだ場合、最も多い悩みが「合わない」ことだろう。入れ歯安定剤を使ってもズレてしまう。あるいは噛むたびに痛みを感じるという人は少なくない。40年近く入れ歯とインプラントの専門医として治療を行ってきた鵠沼アルカディア歯科・矯正歯科院長の角田達治歯科医師は、その背景に「健康保険制度の限界」があると言う。

「実は、保険診療の範囲内で入れ歯を作っても採算がほとんど取れず、作れば作るほど赤字になるのです。そのため、しっかり噛めるいい入れ歯を本気で作ろうという歯科医師が少なく、患者さんが『入れ歯難民』になっている。合わない入れ歯を仕方なく使い続けている患者さんは非常に多く、老人ホームではほとんどの人が入れ歯を外して食べているのが現状です。その食生活は肉体的にも精神的にも大きな影響があります」

 角田歯科医師によると、患者が満足できる入れ歯を作るためには、材料や加工にある程度の費用をかけることが必要になるという。

 例えば、保険適用の入れ歯は「レジン」と呼ばれる歯科用プラスチックで作られているが、土台の部分をチタン合金などの金属で作った入れ歯にすればぴったりと合いやすく、食事の温かさも感じられる。金属なので耐久性に優れているというメリットもある。

 ほかにも顎の骨に磁石を埋め込んでずれにくくする「マグネットデンチャー」や、入れ歯の金属部分に加工を施し、見た目がきれいになるように工夫した入れ歯もある。ただし、それらは保険が適用されないため、数十万円と高額になる。

「それでも私は、自由診療の入れ歯もきちんと作っている歯科医のもとで治療を受けることを推奨しています。保険診療で作れる入れ歯は人件費や労力を削減するため、歯科技工士に丸投げしており、はっきりいって歯科医師の腕は関係ない。

 しかし、自由診療の場合には、口の中の形やもともと歯があった位置まで考えて、一人ひとりに合った入れ歯を作る努力をする歯科医が多い。仮の義歯を入れて、削ったり足したりしながら噛み合わせを調整し、ぴったりと合うものに仕上げていく。自由診療の入れ歯の費用の内訳には材料費だけでなく、調整にかける時間や経験の蓄積も含まれており、噛める入れ歯を作るためには10年以上の長い研さんと豊富な臨床経験が何より重要になる。

 また、高品質の入れ歯を作ろうと思うなら、腕のいい歯科技工士を雇う必要がありますが、低賃金であるなどの問題で歯科技工士はなり手が減っている。そうした状況の中でスタッフをしっかり確保すべく院内に技工室を併設しているかどうかも、いい歯科医師、歯科医院を見極めるひとつのポイントになるでしょう」(角田歯科医師)

(後編へ続く)

※女性セブン2024年8月1日号

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