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《トランプ前大統領銃撃事件で使用》「全米で広く出回る」AR-15ライフル、日本の暴力団が「使わない」理由

NEWSポストセブン 2024年7月21日 16時15分

 ドナルド・トランプ前大統領が銃撃された事件で犯行に使われたライフル銃について、容疑者の父親が合法的に購入していたもので、米国でもっとも人気が高い銃だと報じられ、日本に住む多くの人は驚かされただろう。警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、日本では実感しづらい、ライフル銃が身近にあるということについて解説する。

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 7月13日、米・ペンシルベニア州で開催された集会で、演説をしていたトランプ前大統領が銃撃された。銃撃を受けた瞬間についてトランプ氏は、不法移民のデータを紹介するスクリーンを見るため振り返ったことで、奇跡的に死を免れたと語っているという。

 銃撃した容疑者は現地在住の20歳、トーマス・クルックス容疑者。使用されたのはAR-15ライフル。悲惨な銃乱射事件で度々使われてきたこの銃が、今回もまた使用された。容疑者は続けざまに8発を発砲。そのうちの1発がトランプ氏の右耳を貫通。集会に参加していた地元の消防士1名の命を奪い、2名が重傷を負っている。

 日本ではサバイバルゲームの愛好者たちの間でよく知られているという銃だが、暴力団の抗争事件などではほとんど使われたことがない。その理由を元暴力団関係者に尋ねると、「入手するのが難しいこともあるが、もし手に入ったとしても拳銃より隠しておくのが難しいからいらない」という。

 事務所や自宅などに隠そうにも、拳銃ならコンパクトで隠しやすいが、1メートル近いライフルだとそうはいかない。誰かに預かってもらうにも、拳銃ならバッグに入れればわからないがライフルは無理だ。車ならいいが、それ以外だと持ち運ぶにも目立ってしまう。密輸しようにもライフルは大きすぎる。ヤクザ映画などでは、拳銃を背中に隠してターゲットに近づき、いきなり取り出して銃撃するシーンがよくあるが、ライフルだと背中に隠すこともできない。拳銃よりも殺傷能力が高く、命中しやすいといわれるAR-15もヤクザにとっては、実用的とはいえないようだ。

世界では身近に存在するライフル銃

 AR-15のARは、これを開発した銃製造会社の名前アーマライト・ライフルの略だ。軍隊経験のある米国人の友人によると、ARはアメリカのライフルという意味で使われることがあるという。それだけ銃社会の米国の中でも人気が高く愛好者の間では銃文化を象徴するような銃らしい。スポーツライフルとして、また狩猟を楽しむことを目的に全米に広く出回っており、その数は約2000万丁とも2400万丁ともいわれている。

 合法的に入手しやすく、価格も安価なものから高額なものまで幅広い。自動車が価格帯によって、そのグレードやオプションが異なるのと同じだと思えばいい。低価格帯だと500~800ドル(約8~12万円)、その上のミドルクラスだと1000~1500ドル(約15~23万円)で米国の平均的な愛好家はだいたいこのクラスを購入するという。ハイレベルになれば3000ドル(約47万円)を超えるらしい。友人によると「トリガーやスコープ、ハンドガードなどカスタマイズが自由にできるところもこの銃が人気の理由だ」という。引き金を引く度に次の銃弾が装填される半自動小銃で、拳銃ほど反動がなく引鉄は軽いそうだ。名前は違うが米軍が持つM16も同じAR-15である。

 トランプ氏が銃撃された会場では、シークレット・サービスもライフル銃を構えて警護に当たっていた姿が捉えられている。日本では日常的に見ることがないライフル銃だが、紛争地域や治安の悪い危険地帯などに行くと、これががぜん身近なものになってくる。中南米のある国に仕事で赴任した知人は、多発する誘拐事件から子供たちを守るため、学校への行き帰りに防弾仕様の運転手付き専用車とボディーガードをつけていたと聞く。防弾仕様とはいえ、いつどこで狙われるかわからないため、助手席に座るボディーガードは常にライフル銃を携帯していたという。

 2002年、ロシアの首都モスクワでテロリストによって劇場が占領され、観客を含む200人が犠牲になるという事件が起きた時期、政府関連主催の会合に出席するためモスクワを訪れた友人によると、迎えにきた車の後部座席隣に座るロシア人の足元に、ライフル銃が置かれていたという。会場につくと物々しい警護が敷かれ、ライフル銃を肩にした警護官らが建物の周辺に配置されていたと聞く。

 今もウクライナを始め、戦争や内戦が起きている国や治安の悪い国や地域では、ライフルは身近な護身のための道具だ。だが持つ人によって、簡単に人を射殺できる攻撃用の武器になる。それをどのように止めるのか。九死に一生を得たトランプ氏にこそ考えてもらいたい。

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