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【インプラント治療】どの歯科医師、歯科医院を選べばいいか?「“楽で簡単な治療”と広告でアピール」「治療費が安すぎる」には要注意

NEWSポストセブン 2024年7月21日 11時14分

「歯は健康の生命線」といわれるが、一度失えば戻ってこない。虫歯や歯周病に加え、もろくなった歯で硬いものを食べたり思わぬ事故やけがをしたり──さまざまな理由で失われる歯を補う方法を知っておけば、人生の後半戦のQOL(生活の質)は大きく上昇する。確かな腕と熱い心を持った「最強の歯科医」を、ジャーナリストの鳥集徹氏と『女性セブン』取材班が総力取材した。【前後編の後編。前編を読む】

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 入念に検討を重ね、入れ歯を作ってはみたものの満足できないという場合には、インプラントも選択肢に入ってくる。その場合、最初に大きな問題となるのが、入れ歯と同じく「どの歯科医師、歯科医院を選べばいいか」だ。

 特にインプラント治療は例外を除いて原則的に自由診療となるため、保険診療だけでは経営が厳しいデンタルクリニックが、利益を得るために技術や経験が浅いにもかかわらずインプラントに手を出すケースがあると指摘されている。電車の車内や街角のビルで「インプラント」の文字が書かれた広告を目にすることもよくある。中には線路や道路沿いに、大きな看板を出している歯科医院もあるが、それらの内容を信じていいのだろうか。

 のべ2万本以上の手術を執刀してきたインプラント治療のエキスパートである、ひかり歯科医院の堤隆一郎歯科医師はこう話す。

「資本主義社会ですから、そうした広告を否定するつもりはありません。ですが、もし『簡単で楽な治療です』といったことを前面に出しすぎているようであれば問題です。

 インプラントは歯ぐきを切開し、顎の骨の中にチタン製の人工歯根を埋め込む手術を行います。腕を骨折したら皮膚を切って骨を露出させ、それにプレートやボルトを埋め込む手術が必要な場合がありますよね。インプラントの手術も規模は違えど、していることは同じです。麻酔もしますし、抗生剤などの薬剤も使います。

 ですから、私たちが治療にあたるときも患者さんの決定を急かすことはありませんし、体に多少なりとも負担がかかることもきちんとお伝えします。簡単だとか楽だとかいうことを、あまりにも前面に押し出している歯科医院は要注意だと思います」

 また、相場より治療費が安すぎるのも問題だ。堤歯科医師が続ける。

「治療費を抑えるために、どこかでコストを省いているはずです。例えば、品質の低いインプラントや、安い材料の人工歯を使っているかもしれません。また、当院は歯科麻酔の専門医含め5人のスタッフで手術していますが、治療費が安い歯科医院は人件費を抑えるため、優秀な医師やスタッフが充分そろっていない可能性が高い。

 そのような歯科医院で治療を受けると、いざトラブルが起こったときに、患者さんは『こんなはずじゃなかった』と後悔することになるかもしれません」

 適切な配慮のもと治療が行われれば、健康的な状態を長期間保つことができる一方で、インプラント治療によるトラブルも多く報告されている。ブローネマルク・オッセオインテグレイション・センター院長の小宮山彌太郎歯科医師が解説する。

「これはある保険会社から持ち込まれた相談ですが、歯周病が原因で抜歯したと同時にインプラントを埋入した患者さんがおられました。しかし治療後、膿が出て疼痛が治まらない。担当医に相談しても『経過観察』と言われるばかりだったそうですが、最終的にはインプラントの撤去と肉芽組織の再掻爬を受けて、その部分の治癒を待ったうえで再埋入。結局は当初の説明から数か月余計に時間がかかったそうです。

 一般的に、抜歯を必要とするほど悪い状態になっている歯の周囲には、異物を排除しようとする生体本来のシステムが働くことで肉芽組織ができ、細菌も多く存在する。そのような状況下にインプラントが埋入されると、生体組織はインプラントも異物と認識して、排除しようするのです。治療期間が長くなってしまうことはインプラントの短所の1つです。

 それを解消するため、『即時○○』なる言葉が散見されます。私自身、『抜歯即時埋入』で30年以上問題なく経過している経験がありますが、すべての患者さんに適したものではないと考えています」

「入れたその日から噛める」とホームページで宣伝をしている歯科医院もよく見受けられる。これは「即時荷重」と表現されるもので、その歴史は30年に満たない。症例によっては可能なケースもあるが、手放しに推奨するのは危険だと小宮山歯科医師が続ける。

「即時荷重法を頭から否定はしませんが、インプラントと骨を結合させるためには時間がかかります。私はよく患者さんに、『骨折するとギプスや金属で固定しますが、しっかりしているようでも、その日から飛び跳ねはしないでしょう?』と問いかけます。

 骨折の場合、つなげる両側の骨は血液も通っており生きていますから、数週間で治癒します。しかしインプラントの場合、片方は金属です。組織となじむとはいえ、両者が結合するためには倍の時間を要しても不思議ではありません。生体組織の治癒には時間がかかる。これが自然の摂理です。

 かつては、下顎では3か月、上顎では5〜6か月後に力を加えることが安全とされてきました。ただインプラントの表面の改質や術式の工夫、また患者さんの骨質などの条件次第で、その時間を短縮することが可能になってきたことは事実です。しかし、無理をして1〜2か月早めたことで、本来ならば30年以上にわたって使えたかもしれないインプラントの寿命が縮んでしまう可能性もある。それはもったいないといえるでしょう」

 このようにインプラントには少なからずリスクもあるので、その場合にどのような対応をしてくれるのか、再治療が必要となった場合の保証内容も含めて、事前に充分な説明を受けて納得してから、治療を受けることが望ましい。

 また、治療後のアフターケアも重要だ。口腔内の状態が悪くなると「インプラント周囲炎」になる恐れがあるからだ。人工歯根のまわりに炎症が起こり、顎の骨が溶けて、最終的にインプラントを抜かざるを得なくなる。医療法人貴和会銀座歯科診療所の松井徳雄歯科医師が話す。

「歯周病や虫歯、外傷や破折などどうして歯を失ったのか、その原因を患者さん自身がしっかり認識していなければ、一度治療がうまくいったとしてもその後また同じことが起こる可能性があります。

 インプラントは金属でできているのでさすがに虫歯にはなりませんが、日頃の口腔ケアを怠ると歯周病と同じ状態になって、抜けてしまう。ですから私たちは、患者さんにその点を理解してもらったうえで、一生涯、定期チェックに通うようお願いしています。そうしないと、せっかくインプラントを入れても、長持ちしません。

 インプラントはメンテナンスも含めて治療が完了する。術後のケアを手厚く行っているかどうかも、いい歯科医院を選ぶのに大切なポイントです」では、一生涯寄り添ってアフターケアを施してくれる歯科医師はどう見つけるべきか。

 最近は、インターネットサイトに個人情報を入力すると、実績のある歯科医師を紹介してくれるシステムもある。ただ、このサイトから患者が紹介された場合には、歯科医師側がサイト運営会社に患者紹介料を支払う仕組みになっているため、必ずしも腕のいい歯科医師を紹介してくれるとは限らない。やはり自分でいい歯科医を見極められる目を持っておくことが重要といえるだろう。夏堀デンタルクリニック院長の夏堀礼二歯科医師が話す。

「日本口腔インプラント学会や日本顎顔面インプラント学会の専門医であるかどうかは最低限チェックすべきです。それから、有力なインプラントの研究グループに属しているかどうかも確かめるといいでしょう。例えば、私も所属する『OJ(オッセオインテグレイション・スタディクラブ・オブ・ジャパン)』という組織がありますが、そのサイトの会員名簿に載っている歯科医師は、若手の指導もする信頼できるかたが多いです。

 また、口腔内スキャナーなどデジタルテクノロジーを取り入れているかどうかも見るといいでしょう。多くの患者さんが信頼して通っているからこそ、そうした高額な機器の投資もできるのです」

 松井歯科医師は、迷ったら実際にクリニックに足を運んでみるのも手だとアドバイスする。

「対面で話してみることで、しっかり説明してくれるか、決断を急かされないかなど読み取れる情報は少なくありません。特に歯科治療はその結果が一生ついて回るので、セカンドオピニオンはもちろん、サードオピニオンを取ってもいい」

 信頼できる歯科医を探しあてることが、いい治療を受ける第一歩になるのは疑いようがない。ただ、入れ歯にせよインプラントにせよ、歯を失うと大金まで失いかねない。そうならないためにも、自分の歯を大事に残すことが肝心だ。

※女性セブン2024年8月1日号

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