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【“私の推しメン”対談】秋吉久美子×安冨歩・東大名誉教授 50才をすぎてから“女性装”に移行したのか?「モラハラの研究過程で徐々に心が解放された」

NEWSポストセブン 2024年7月22日 16時12分

 いまや空前の“推し活”ブーム。この潮流は、通常なら推される側である著名人にも波及しており、女優・秋吉久美子にもいま、推してやまない御仁がいるという。それが、東京大学名誉教授で経済学者の安冨歩さんだ。

「毎晩、安冨先生のYouTubeを見ないと寝られないくらいなんですよ」と語るほどの熱中ぶりを聞いた女性セブン編集部は、安冨さんが暮らす大分県の山中に、秋吉を連れ出した。秋吉は安冨さんのどのような持論に惹かれたのか、そして安冨さんの容姿の“真意”とは—──120分に及ぶ“私の推しメン対談”をお届けする。【全3回の第1回】

 梅雨空のもと、女優・秋吉久美子(69才)が向かったのは、大分県の山中にある牧場。そこに暮らす東京大学名誉教授・安冨歩さん(61才)に会うためだ。

 細く険しい山道を抜け、たどり着いた先でわれわれを出迎えてくれた安冨さん。その姿を見た秋吉は、「まるでインドのダラムシャーラーにダライ・ラマ(チベット仏教で最上位クラスに位置する化身ラマの名跡)を訪れたような神聖な気持ちです」と、満面の笑みを浮かべる。この日は大雨の予報だったが、秋吉の“聖地巡礼”を祝福するかのように、薄日が差してきた。

安富さんとの出会いはYouTube番組

 安冨さんは育児休業中の2023年に、かねて夢だった馬との暮らしや子供たちの自由な教育を実現するため、配偶者と幼い2人の子供(3才と2才)、白馬のユーゴン(牡馬・17才)、茶毛のエウロパ(牝馬・2才)と共に、この地に移住したという。

 敷地内には母屋のほか、蔵、放牧場、厩舎、馬場、畑などがあり、秋吉とわれわれ取材スタッフは、改築したばかりだという蔵に通された。木材の香りが漂うその蔵は書庫になっており、本とレコードで壁一面が埋め尽くされていた。

「隠れ家のよう! 素敵な空間ですね」と歓声を上げる秋吉。彼女は幼い頃から大の読書好きで、いまも月に7〜8冊は読んでいるという。

 * * *

秋吉:安冨先生の本ももちろん愛読していますが、いまは、ソン・ウォンピョンの小説『アーモンド』(祥伝社)やレイチェル・カーソンの『沈黙の春』(新潮文庫)を読んでいます。読書好きになったのは両親の影響。幼い頃から生家にはいつも本が溢れていましたから。

〈秋吉は映画デビュー作『旅の重さ』(松竹)で、文学少女の役を演じているのだが、実生活においても読書家だったため、知性がにじみ出ていたのだろう。まさに適役だったといえる〉

安冨:では、私のことは著書でお知りになりましたか?

秋吉:いいえ、最初は『一月万冊(ひとつきまんさつ)』というYouTube番組です。これってひと月に1万冊読むって意味でしょ。「どうやったらそんなに読めるの」って、タイトルに惹かれて見てみたら、安冨先生が発言されていたんです。しかも、その内容が納得のいくものばかりで……。この出会いがきっかけで、先生の本も読むようになりました。1年くらい前のことだったかしら。

〈『一月万冊』とは、月に3000冊ほど本を読むというベンチャー企業の社長・清水有高さんが、2014年1月から運営しているYouTubeチャンネルで、登録者数は42.7万人を誇る。書籍紹介のほか、安冨さんをはじめとする専門家やジャーナリストをゲストに招き、時事ネタを取り上げるなどして人気を博している〉

安冨:あのタイトルは、速読が得意な清水さんが、「1か月に1万冊読めたらいいなぁ」という思いでつけたと聞いています。さすがに1万冊は難しいから(笑い)。1年前というと、私はどんなことを話していました?

秋吉:ジャニーズの性加害や松本人志さんに関する問題についてでした。

安冨:そうでした!

秋吉:お話はどれもとっても興味深かったんですが、その貴重なお話が耳に入ってこないくらい気になったのが、先生のお姿。目鼻立ちがはっきりしていて、各パーツのバランスも整っているのだから、眉を整えて、やわらかな色のリップを塗るだけで美しいのにファンデーションが厚すぎたり、濃いアイラインがずれていたり、口紅がはみ出ていたり……。それで今日は、ヘアメイクさんに一緒に来てもらったので、まずは“安冨大改造”から始めさせてください。もう少し軽やかになってほしいんです。

安冨:本当にお恥ずかしい限りですが、うれしい。こちらからお願いしたいくらいです。大分県に転居して1年半になるのですが、幼い2人の子を見守り、2頭の馬の世話をして、夜はYouTube撮影。これだけで毎日があっという間に過ぎていくものですから、なかなか美容院に行けなくて。

秋吉:先生を絶世の美女に大変身させますから、期待していてくださいね。

安冨:よろしくお願いします。

50才から“女性装”になった異色の東大教授

〈そう、写真を見て、疑問に思った読者も多いことだろう。安冨さんは50才から“女性装”に移行。毎日メイクをし、女性の服を着て過ごしているのだ。そのため、“異色の東大教授”として、テレビなどにもよく出演していた。なぜ、女性の格好をするようになったのか──〉

安冨:私の母は、常に成績優秀な“いい子”を求め、精神的に支配してくる人でした。そんな母の期待に応えるべく、京都大学卒業後は住友銀行に勤務し、東京大学教授にまでなりました。若気の至りで結婚した相手は、私の見た目や才能を気に入っていたけれど、私という厄介な人間のことは、本当に嫌いだったと思います。とはいえ、条件がいいので別れずに、私の欠点を徹底的に攻撃し、母親へのコンプレックスを利用して、人格を支配下に置いたのです。

〈経歴を見れば、エリート街道をひた走ってきたかのようにみえるが、30代まではいつも母親と配偶者からモラルハラスメント(以下、モラハラ)を受けたように感じていて、生きづらさから自殺も考えたという。離婚を訴えたものの、母親と配偶者が結託してそれを阻止。その頃から、自分の置かれた状態を理解するためにと、モラハラの研究も始め、「どうすれば自由に生きられるか」という、いまの研究テーマに辿り着いたという〉

安冨:モラハラの研究過程で、徐々に心が解放されていきました。2013年になって10kgのダイエットに成功したので、何気なく女性の服を着てみたところ、ピタリとはまったんです。

 私はウエストが細くて腰や太ももが太いので、男性用のズボンだとお腹がダブダブになります。そこで女性用のズボンをはいてみたらピッタリ。それに合わせるように女性用のトップスを着たらもう、男性用の服装が気持ち悪くなってしまい、全部捨ててしまいました。そして、女性用の服が似合うように、メイクをしたり体形を整えたりして、少しずつ見た目を変化させていきました。

〈女性用の服を着るにとどまらず、自分が女性であるという性自認に応じた装いをする、ということで、安冨さんは自身の格好を“女性装”と呼ぶことにしたのだという。

 そんな安冨さんをもっときれいにしたい、推しをもっと輝かせたいという気持ちが秋吉にはあったようだ。

 まずは、伸びた髪を10cm以上カット。カーラーをつけて髪にウエーブをつけ、白髪には金のヘアカラーを塗って、エレガントさを演出。メイクも明るめのファンデーションでナチュラルに。チークやリップも上品な色味に抑え、服は秋吉がチョイスした。

 ヘアメイク開始から約2時間、身長177cmのゴージャスな美女が誕生した。〉

秋吉:先生、すごくきれいになりました。これでようやく、落ち着いてお話ができます。

安冨:さすがプロのメイクは違いますね。ずっとこのままでいたいくらい。

秋吉:先生は著書の中などで、“50才を過ぎてから自分の中の少女に気づいた”という言い方をされています。女性装をすることで、もともと自分の中にあったけれど押し殺していた少女の部分を解放でき、それで楽になったんですね。

安冨:ええ。中身と外見がようやく一致したんです。

秋吉:周りの対応も変わったのでは?

安冨:私は男性が苦手で、女性の方が交流しやすいのですが、自分を男性だと思っていたときには、そこに変な垣根ができていて、つらかったのです。しかし、女性装に移行して、その垣根が低くなって、とても楽になったと感じています。

秋吉:嫌な思いをしたこともあったでしょう?

安冨:いちばんひどかったのは、初めてスカートをはいて外出したときに感じた“白眼視(はくがんし)”(冷たい目で見ること)です。この暴力はゾッとするようなものでした。やがて見た目が女性らしくなるとそれは減りましたが、今度は、女だと思ってなめているような態度を取られることがありました。女性は“女”というだけで、日頃からこのような扱いを受けているんだと実感し、怒りが湧きました。

秋吉:確かに。車の運転をしているとき、女性ドライバーだとわかるとあおってくる男性ドライバーがよくいますよね。腹立たしいけれど、逆に私は“女性を使う”ときがあります。車で列に割り込ませてもらうときに笑顔であいさつをして愛嬌をふりまいたり、ね。私は男女差別を逆に利用してアドバンテージをとるのを楽しめるタイプかも。

安冨:それはたくましい(笑い)。

(第2回に続く)

【プロフィール】
秋吉久美子(あきよしくみこ)/女優。高校在学中の1972年、『旅の重さ』(松竹)で映画初出演(このときは小野寺久美子名義)。1974年、藤田敏八監督の『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』(いずれも日活)で脚光を浴びる。代表作に『あにいもうと』『深い河』(ともに東宝)、『異人たちとの夏』(松竹)など。55才で早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科を修了し、公共経営修士を取得。著書に『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)など。

安冨歩(やすともあゆみ)/東京大学名誉教授・経済学者。1986年に京都大学卒業後、住友銀行に入行。2年半で退職して京都大学大学院経済学研究科へ。満洲国の経済史を専門とし、1997年に日経・経済図書文化賞を受賞。2009年、東京大学東洋文化研究所教授に就任するが、2023年に退職。現在は東京大学名誉教授。『生きるための論語』(ちくま新書)、『誰が星の王子さまを殺したのか—もらモラル・ハラスメントの罠』(明石書店)など著書多数。

取材・文/上村久留美 撮影/楠 聖子 ヘアメイク/黒澤貴郎 衣装協力/Down to Earth(安冨歩さん)

※女性セブン2024年8月1日号

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