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秋吉久美子、“推しメン”安冨歩・東大名誉教授と語る“生きる力” 「私たちを支えている何らかの神秘的な力を受け入れないといけない」

NEWSポストセブン 2024年7月23日 15時58分

 いまや空前の“推し活”ブーム。この潮流は、通常なら推される側である著名人にも波及しており、女優・秋吉久美子にもいま、推してやまない御仁がいるという。それが、東京大学名誉教授で経済学者の安冨歩さんだ。

「毎晩、安冨先生のYouTubeを見ないと寝られないくらいなんですよ」と語るほどの熱中ぶりを聞いた女性セブン編集部は、安冨さんが暮らす大分県の山中に、秋吉を連れ出した。秋吉と安富さんが“私の推しメン対談”として、“生きる力”について語り合う。【全3回の第2回。第1回を読む】

先生は言行一致だからこそ清々しい

秋吉:お会いしてみて改めて、先生は朗らかで清々しいかただと実感しました。口先だけで物申すのではなく、自ら女性装をなさるなど、男性的な行動力と女性的な感受性で生きられている。そうしようという果断が清々しい。勇敢ですよね。千の言葉を重ねるよりも説得力があります。

 日本の男女格差【※注】は先進国はもちろん、韓国や中国、ASEAN諸国より低い146か国中118位。

【※注/世界経済フォーラム(WEF)が2024年6月、「The Global Gender Gap Report 2024」を公表し、その中で、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数を発表】

 女性とはこういうものだと定義づけられ、女性側も男性が求める女性を演じてみせて……。だからいつまでたってもジェンダー格差が埋まらないって私は思うんです。そんな悲しい日本の中で、先生は誰かに与えられた役割やイメージではなく、自分の生き方を貫いていらっしゃる。

 著書の内容も、YouTubeでおっしゃっていることも、ご自身のライフスタイルに組み込んで実践している。お話の間口は広いのですが、最終的におっしゃりたいことは、人間が自由に生きるためにどうすべきか、につながっていく。そのブレない生き方に惹かれました。
 
〈秋吉も安冨さん同様、かつてマネジャーから“魔性の女”という女性像を無理やり押し付けられ、自分を抑え込んで生きてきたという。そのため、安冨さんの抑圧されてきたがゆえのつらさに共感できると続ける〉

安冨:ありがとうございます。私が言いたいのは、人にはもともと“生きる力”がある、ということ。私たちには、私たちを支えている何らかの神秘的な力があるのだから、それを受け入れないといけないのに、そんなものはないと思い込んでしまう。そうなると支えが失われ、常に不安がつきまとう。その結果、生きづらいと感じてしまったり、不安を解消するために暴力をふるってしまったりするわけです。

秋吉:その神秘的な力とは何ですか? 宗教?

安冨:そうですね、支えてくれていると信じられるものですから、“神”と言えなくもないのですが、的確に表せる言葉がありません。

秋吉:名付けられないものの、人間には生きるための力が備わっているから、それを信じて受け入れれば不安にならない、ということですか。

安冨:そうです。

秋吉:その生きる力を信じて受け入れるには、どうしたらいいのでしょう?

安冨:人の目より、自分の感覚をまずは信じるべきだと思います。私は絵を描いたり、バイオリンを弾いたりもしているのですが、どれも上手とは言えない。

 でもいいんです。人からどう思われるのか、恥ずかしいなどと他人の評価を気にしてはいけません。バイオリンもやってみたら、やらないときよりも一歩前に進みます。耳も肥えて、ますます自分の演奏が下手に思えるんですけど、バッハの曲がより深く理解できたりします。何事もやってみないとわからないんです。その上でよく考え、それでもわからなければ、人に聞くんです。

馬と接することで得られるもの

秋吉:それで先生のような生き方に行きつくわけですね。東京大学の教授という地位を捨て、馬の世話に汗を流す毎日に喜びを感じられるのは、生きる力を信じているからなんですね。

安冨:馬と接することが多くなってから、自然な感情を取り戻して、心が安定しました。というのも、犬や猫はこちらを認識して懐いてくれますが、馬は私たちを個体識別しないので、どんなに世話をしても決して懐いてくれません。そのときの対応だけがすべて。そしてとても怖がりで繊細。

 そんな馬とコミュニケーションをとるには、高圧的な態度をとったり、不安な様子を見せたりしてはいけない。そうしないと、怖がって動かなくなってしまうからです。馬はその鋭い感受性で人間の心の状態を映し出してくれるように思います。

 私の心が安定していれば馬の反応もいいのですが、不安を抱えていれば、馬も不安になって、反抗したり暴れ出したりします。馬とのコミュニケーションは私にとってフィードバック装置のようなものなんです。

秋吉:ご自分の心の状態を確かめるために、先生は毎日馬に乗っているんですね。

安冨:そうですね。

(第3回に続く。第1回を読む)

【プロフィール】
秋吉久美子(あきよし・くみこ)/女優。高校在学中の1972年、『旅の重さ』(松竹)で映画初出演(このときは小野寺久美子名義)。1974年、藤田敏八監督の『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』(いずれも日活)で脚光を浴びる。代表作に『あにいもうと』『深い河』(ともに東宝)、『異人たちとの夏』(松竹)など。55才で早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科を修了し、公共経営修士を取得。著書に『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)など。

安冨歩(やすとも・あゆみ)/東京大学名誉教授・経済学者。1986年に京都大学卒業後、住友銀行に入行。2年半で退職して京都大学大学院経済学研究科へ。満洲国の経済史を専門とし、1997年に日経・経済図書文化賞を受賞。2009年、東京大学東洋文化研究所教授に就任するが、2023年に退職。現在は東京大学名誉教授。『生きるための論語』(ちくま新書)、『誰が星の王子さまを殺したのか—モラル・ハラスメントの罠』(明石書店)など著書多数。

取材・文/上村久留美 撮影/楠 聖子 ヘアメイク/黒澤貴郎 衣装協力/Down to Earth(安冨歩さん)

※女性セブン2024年8月1日号

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