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【“私の推しメン”対談】秋吉久美子×安冨歩・東大名誉教授 「ハッキリ考えを言えるのが秋吉さんの魅力」作品にもにじみ出るその人柄

NEWSポストセブン 2024年7月24日 15時59分

 いまや空前の“推し活”ブーム。この潮流は、通常なら推される側である著名人にも波及しており、女優・秋吉久美子にもいま、推してやまない御仁がいるという。それが、東京大学名誉教授で経済学者の安冨歩さんだ。

「毎晩、安冨先生のYouTubeを見ないと寝られないくらいなんですよ」と語るほどの熱中ぶりを聞いた女性セブン編集部は、安冨さんが暮らす大分県の山中に、秋吉を連れ出した。120分に及ぶ“私の推しメン対談”をお届けする。【全3回の第3回。第1回を読む】

大切なのは子供を守ること

秋吉:先生の著書はたくさん読ませていただきましたが、中でも興味深かったのが『誰が星の王子さまを殺したのか─モラル・ハラスメントの罠』(明石書店)です。その中で、体罰などを加えられながら厳しく育てられた子供は、暴力的な大人になり、そんな大人が支配すれば暴力に満ちた世界になると。それは、第二次世界大戦下のドイツがいい例だとありました。

 だからこそ大人は子供を守らないといけない、と先生は考えているんですよね。それで実際にいま、お子さんを自由に育てていらっしゃる。

安冨:ええ、私のように親の支配下にあった子供は、親に認められたいがために、いつしか親の欲望こそが自分の欲望だと勘違いしてしまいます。そして、本当に自分の求めるものがわからなくなってしまうのです。それである日突然非行に走ったり、リストカットをしたりする。周りの大人は驚きますが、それはおかしなことでも何でもない。親の支配から逃れるための命がけの自己表現なんです。

 私は離婚によって、母親とも縁が切れ、それで自分の人生を見直せました。すると、いままで正しいと思ってきたことが間違っていて、わがままだと思っていたことが、実は正しいことだと気づけました。わがままだと思って封じていたことこそ自分のやりたいことだったと気づいたんです。私にはいま、2人の幼い子がいますが、彼らを支配するような親にはなるまいと思いつつ見守っています。

秋吉:でも、思うんですけどね。先生はご自分が直面した問題を研究テーマにして、地に足をつけて学問と向き合っていらっしゃる。それは、お母さまたちからモラハラを受けた経験があったからなのでは? 先生に大きな気づきを与えたのだとしたら、モラハラも無駄ではなかったのではないかと──。

安冨:私は、母親というショッカーに改造人間にされた仮面ライダーみたいなものです。できることなら、改造されることなくそのままの私でいたかった……。

秋吉:決して上から目線で言うわけではないんですけど、たとえば私は、50代を初期中年、60代を中期中年、70代を後期中年と呼び、80代からは老人、100才になったら仙人と区分けしているのですが、そう考えると、私はそろそろ後期中年。物事を起承転結のうちの「結」で見ようとするお年頃だから、安冨先生のケースも、モラハラを経験したからこそ、それが探究のエネルギーになっているんじゃないかと考えてしまうんです。

 だって人間には、悲しみや苦しみをエネルギーに変える力があると思うから。余計なことを言っちゃったらごめんなさいね。

忖度なし、ブレなしが2人の共通点

安冨:大丈夫。そうやってハッキリ考えを言えるのが秋吉さんの魅力だと思っていますから(笑い)。でも、忖度が横行するいまのテレビ業界だと、余計なことを言ったら出られなくなりそうなのに、秋吉さんはずっと活躍されている。どうしてなのでしょうか。

秋吉:確かにいまのテレビ業界は無難さに偏っていますよね。私だって、言ってはいけないことだけ事前に聞いておいて、それ以外のことを言っていますから。

安冨:かつても生意気だとか、シラケ世代の代表みたいに言われて、きつい思いをされたのでは?

秋吉:それも間違いではありませんから(笑い)。

安冨:でもそれって正直で、媚びへつらわないからだと思うんです。そんな秋吉さんのお人柄は、作品からも感じられましたよ。たとえば、1977年の大河ドラマ『花神』(NHK)の“おうの”役はインパクトがありましたね。高杉晋作の愛妾で、本来はそれほど存在感のある役ではないはずなのに、秋吉さんが演じると妙に記憶に残るんですよ。

秋吉:ありがとうございます。確かに、おうのは“いとをかし”(趣がある)な人でしたね。自由で無邪気で……。そう思えない役の方が演じるのが難しいんですよ。その点、おうのは演じていて気持ちがよかったですね。

安冨:1981年から始まった『夢千代日記』シリーズ(NHK)の芸者“金魚”役も素晴らしかった。

秋吉:「素晴らしかった」って(笑い)。語彙力のある先生が、私のことを表現しようとすると途端にボキャブラリーが乏しくなっちゃうんですね(笑い)。

安冨:『夢千代日記』は、高校生の私には神聖な世界でした。そこに出ておられた俳優さんたちは皆、私には“神々”に見えたのです。その中心的なかたが、ここに降臨されたのですから、言葉を失います。

10年後、先生の講義を楽しみにしています

秋吉:こちらこそ、YouTubeという画面を通して見ていた先生とお会いできるなんて、不思議(笑い)。先生への推し活を、私はこれからもずっと続けていくつもりなんですが、なかなかお会いできないのが残念ですね。もう教壇に立って講義はされないの?

安冨:近くに学校の跡地があるので、そこを整備して、講義ができるような場所を作れたらいいなとか思っているんですが、いまはとにかく忙しくて。

秋吉:あと10年もしたらお子さんも大きくなるでしょう。そうしたらぜひ、講義を生で聴きたいと思います。

安冨:私はそのとき、もう70代ですよ。

秋吉:馬に乗って体幹を鍛えている安冨先生なら、80才になったって教壇に立てますよ。これからの世の中がどうなっていくかわからずに、みんな不安を抱えているいま、心を失ってしまう人も少なくありません。その危機から救ってくれるのが安冨先生だと、私は信じています。

安冨:わかりました。秋吉さんにそこまで言われたらがんばるしかないですね。

秋吉:楽しみにしていますね。

(了。第1回を読む)

【プロフィール】
秋吉久美子(あきよし・くみこ)/女優。高校在学中の1972年、『旅の重さ』(松竹)で映画初出演(このときは小野寺久美子名義)。1974年、藤田敏八監督の『赤ちょうちん』『妹』『バージンブルース』(いずれも日活)で脚光を浴びる。代表作に『あにいもうと』『深い河』(ともに東宝)、『異人たちとの夏』(松竹)など。55才で早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科を修了し、公共経営修士を取得。著書に『秋吉久美子 調書』(筑摩書房)など。

安冨歩(やすとみ・あゆみ)/東京大学名誉教授・経済学者。1986年に京都大学卒業後、住友銀行に入行。2年半で退職して京都大学大学院経済学研究科へ。満洲国の経済史を専門とし、1997年に日経・経済図書文化賞を受賞。2009年、東京大学東洋文化研究所教授に就任するが、2023年に退職。現在は東京大学名誉教授。『生きるための論語』(ちくま新書)、『誰が星の王子さまを殺したのか—モラル・ハラスメントの罠』(明石書店)など著書多数。

※女性セブン2024年8月1日号

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