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『海のはじまり』に「またか」の声、なぜ月9は3作連続で重く暗い物語なのか

NEWSポストセブン 2024年7月22日 11時15分

 目黒蓮が主演を務める月9ドラマ『海のはじまり』(フジテレビ系)。『silent』の主要スタッフが再集結し、“親子の愛”をテーマに物語が描かれる。ネット上では大きな反響を呼んでいるが、内容が「重くて暗い」という指摘も多い。月9の“重くて暗い”作品は3作連続だ。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんがその背景について解説する。

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『海のはじまり』(フジテレビ系)の配信再生数が第1話・第2話ともに400万回超を記録したことが報じられました。これは月9ドラマ初であり、その他でも第3話まで3週連続でXの世界トレンド1位を記録したほか、TVerのお気に入り登録数が夏ドラマ断トツの約145万超となるなど、最大の話題作となっているのは間違いないでしょう。

 同作は、ヒット作『silent』の脚本・生方美久さん、演出・風間太樹さん、プロデュース・村瀬健さんが再集結し、主演に人気絶頂の目黒蓮さんを迎えるなど、放送前から注目を集めていました。そんなポジティブな要素が多い一方で、第1話の段階から「また重い話なのか」「暗すぎる」などと戸惑う声も目立っています。

 物語は主人公の月岡夏(目黒蓮)が7年前に別れた元恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀で、自分と血のつながった少女・海(泉谷星奈)の存在を知るところからスタート。元恋人が知らないところで子どもを産んで育てていたという衝撃の事実を突きつけられた夏は、さまざまな感情に襲われながらも、海や恋人・百瀬弥生(有村架純)、水季の母・南雲朱音(大竹しのぶ)と父・南雲翔平(利重剛)、元同僚・津野晴明(池松壮亮)らと向き合っていく様子が描かれています。

「さまざまな形の“親と子”のつながりを通して描く、愛の物語」と掲げられているように、同作のコンセプトはハートフルな家族の物語。しかし、第1話から水季が夏に妊娠中絶同意書への記入を促すシーンや、水季の葬儀で母・朱音がそれを夏に見せて実は産んでいたことを明かすなどのハードなシーンが続きました。

さらに第2話では弥生に妊娠中絶の過去が発覚。第3話でも不妊治療の末に水季を産んだ朱音が弥生に「子ども産んだことないでしょ?」と冷たく言い放つシーンがあり、そのたびにネット上には「重い」「暗い」「辛い」などの反応があがっています。

月9は今年3作連続「重く暗く辛い」

なかには「見ていられなかった」「脱落決定」などと結論づけるような声も少なくありませんし、特に目につくのは「月9はまたか」というニュアンスのコメント。『海のはじまり』が放送されている月9ドラマは今年2作連続で重く暗く辛いムードの作品が続いていたため、「またか」という声があがっているのです。

 まず1月期の永野芽郁さん主演『君が心をくれたから』は、主人公の逢原雨(永野芽郁)が想いを寄せる朝野太陽(山田裕貴)を救うために五感を1つずつ失っていく……というストーリー。

続く4月期の広瀬アリスさん主演『366日』は、主人公の雪平明日香(広瀬アリス)が高校時代から相思相愛だった水野遥斗(眞榮田郷敦)と結ばれた直後に彼が事故で意識不明となり、中盤で目を覚ますも記憶障害で彼女のことを覚えていなかった……というストーリー。

 休日明けの月曜夜に放送される月9ドラマは、明るく爽快感のある物語が求められそうなのに、なぜ3作連続で“重く暗く辛い”ムードの作品なのでしょうか。また、なぜかつての『ビーチボーイズ』や昨年の『真夏のシンデレラ』のような夏らしい“軽く明るく楽しい”ムードの作品を選ばなかったのでしょうか。

本当にやりたいテーマを追求する

 3作連続で“重く暗く辛い”ムードの作品になった理由は、シンプルに「制作サイドが本当にやりたいテーマを追求して作っているから」でしょう。

『君が心をくれたから』『366日』『海のはじまり』の3作はすべて原作のないオリジナルであり、それぞれ脚本を純愛小説の名手・宇山佳佑さん、『最愛』(TBS系)などを手がけた清水友佳子さん、若き天才と称えられる生方美久さんが手がけています。つまり、「この脚本家なら単に重く暗く辛い物語ではなく、訴えたいことや感動につなげられる」ということ。

 さらに演出も、それぞれ松山博昭さん、平川雄一朗さん、風間太樹さんと、ドラマの名作を手がけてきた上に映画でも映像美を評価されてきた監督が手がけています。実際に映像の美しさで“重く暗く辛い”ムードをやわらげているため、見続けていれば第一印象ほどシリアスになりすぎていないことに気づけるのではないでしょうか。

 いずれにしても制作サイドが、近年ネット上に書き込まれがちだった「重すぎて見ていられない」「何でこんなに暗いのか」などの批判的な声に影響されず、描きたいことをブレずに貫いている様子が伝わってきます。

しかし、単に“重く暗く辛い”ムードの物語では見てもらうことが難しいからこそ、いくつかの“保険”がかけられていました。『君が心をくれたから』はファンタジーの設定と長崎の美しい風景、『366日』は同級生たちとの絆と高校生時代の回想シーン、『海のはじまり』は子役のかわいらしさと海辺のロケーションなどで、「さわやかな印象を加えて見やすくしよう」という配慮が見えます。

これらの制作スタンスがあるため、「重く暗く辛い」という声をあげた人が必ずしも「見ない」という選択をしたわけではなく、むしろ「気になって見たくなる」という人も多いのでしょう。

夏=「軽く明るく楽しい」ではない

 次に、なぜ夏らしい“軽く明るく楽しい”ムードの作品にしなかったのか。

 実際のところ“軽く明るく楽しい”ムードの夏ドラマでヒット作とされているのは、前述した『ビーチボーイズ』に加え、『WATER BOYS』『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(すべてフジテレビ系)あたりで、それほど多くありません。

 逆に、復讐劇の『半沢直樹』(TBS系)、パート主婦と教師の不倫を描いた『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)、テロ組織との戦いなどを描いた『VIVANT』(TBS系)など“重く暗く辛い”ムードのヒット作は夏に放送されました。

 また、『海のはじまり』と同じスタッフが手がけた『silent』や、高視聴率を連発するTBS日曜劇場の『テセウスの船』『マイファミリー』『アンチヒーロー』などを見ても季節を問わず「ヒット作ほど“重く暗く辛い”ムードの作品が多い」という現実があります。

これらの作品は「序盤の“重く暗く辛い”ムードから、徐々に物語を進展させて期待感を高め、感動のクライマックスにつなげていく」という約2か月半放送される連ドラの醍醐味を最大化していました。その意味で『海のはじまり』も徐々に感動への期待感が高まり、クライマックスに向けて盛り上がる可能性は十分ありそうです。

 ネット上には、「水季と弥生が同じ2016年12月に、同じ産科クリニックへ通い、ともに中絶という判断を下していた」こと。しかし、「水季は出産し、弥生は中絶するという正反対の選択をし、もし弥生も出産していたら海と同じ年齢だった」ことを指摘する声があがっています。

今後、水季と弥生が病院でニアミスしていたシーンが描かれるかもしれませんし、まだまだ“重く暗く辛い”ムードは続きそうですが、逆にだからこそ見る価値の高い作品なのかもしれません。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

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