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《私の最初の晩餐》奥田瑛二が忘れられない味 年2回だけのご馳走「ライスカレー」と「豚肉とごぼうのみそ汁」

NEWSポストセブン 2024年7月23日 11時15分

「最初に食べたご馳走はなんですか?」。子供の頃に母が作ってくれた料理、上京したときのレストラン、初任給で行った高級店……。著名人の記憶に刻まれている「初めて食べた忘れられない味」を語ってもらい、証言をもとに料理を再現するこの企画。

 トレンディードラマへの出演でお茶の間を沸かせながら、映画『海と毒薬』をはじめとした熊井啓監督作で、海外にもその名をとどろかせた奥田瑛二さん。役者としてだけでなく、自らメガホンを取った映画『長い散歩』では、モントリオール世界映画祭グランプリを受賞するなど、多岐にわたって活躍している。そんな彼の心の支えになった母のご馳走に隠された、驚きの秘密とは? 奥田さんが忘れられないご馳走を振り返ります。

 * * *
 誕生日も血液型も同じ年子の姉がいたので、ぼくは幼い頃からお姉ちゃん子で、それ以上にお母ちゃん子でした。遊ぶときには、お姉ちゃんのスカートの裾を握りしめてくっついて回り、学校から帰ったら「お母ちゃんはどこにおる!」の大騒ぎ。

 両親は、自宅の1階で小さな氷屋と喫茶店を営んでいたので、家は賑やかでした。住み込みのウエーターさんもいたし、営業が終わると、地元の青年会議所のメンバーたちがやってきて酒を片手に議論したり。親父も議論に参加していて、おふくろは皆につまみを作り続けていました。

 貧しさは感じていませんでしたが、裕福でないことは子供にもわかります。姉とぼくは生家で育ちましたが、4つ下の弟は祖母の家で暮らしていました。家の前の肉屋でおふくろが買うのは基本的にかしわ(鶏肉)、たまにコロッケ。初めて牛肉を食べたのは、親父が新たに始めた不動産業が軌道に乗った小学5年生のときでした。

 物心ついた頃から、姉と2人で楽しみにしていたのが、年に2回だけのライスカレーです。3月18日の誕生日とクリスマスだけのご馳走。茶碗にご飯をぎっしり詰めて、皿の上にひっくり返してポン。丸いご飯に半分だけかかるように、黄色いカレーをとろり。

上京して浮上したカレーの謎

 ルーは、愛知の定番オリエンタルカレー。サイコロ状に切った豚肉、じゃがいも、それに玉ねぎ。ぼくが苦手にしていたにんじんは入っていません。そこに、コーミソースのウスターソースを、しゃっと1往復半ほど。ジャバジャバはいけませんよ。そう、おふくろが漬けたラッキョウも添えてありました。

 このライスカレーと、みそ汁の組み合わせが堪えられないんです。薄い豚バラに、ささがきのごぼう。当然、赤みそ。あの頃、仕事終わりのブルーカラーの人たちは、近所の酒屋さんで赤みそをつまみに日本酒をくいっとやってね。

 学校給食では出なかったので、17才までぼくが知っていたカレーは、おふくろのだけでした。その後、上京してから大学の学食やお店でカレーを食べましたが、やっぱり好きなのはおふくろの味。いちばん気になったのは、東京のカレーがどれも安かったことです。材料やら何やらにお金がかかるから、誕生日とクリスマスしか食べられないと思っていたけれど、どうも違う。

 それで帰省したときに聞いたんです。「どうして、うちではカレー出てこうへんのだで」。すると、おふくろが「うーん」と言葉に詰まって、ほどなく「あかんわ、私が嫌いだで」。ようやく、謎が解けました。

カレー嫌いの母が作る大好きな味レシピ

■豚肉とごぼうのみそ汁
●材料(4人分)
豚バラスライス100g、ごぼう1/4本(80g)、九条ねぎ1/2本、だし3.5カップ、八丁みそ70g

●作り方
【1】ごぼうは5〜6cm長さのささがきにする。九条ねぎは小口切り、豚バラスライスはひと口大に切る。
【2】鍋にだし、ごぼう、豚バラスライスを入れ中火にかける。煮立ったらアクを取り、蓋をしてごぼうに火が通るまで弱火で加熱する。
【3】火を止め八丁みそを溶き入れる。再び加熱し、煮立ってきたら火を止め、椀によそい、九条ねぎをのせる。

●POINT
だしにみそを入れたら、グラグラと煮立たせないように加熱する。

■ライスカレー
●材料(5人分)
豚ロース肉(とんカツ用またはブロック)300g、玉ねぎ大1個(300g)、じゃがいも2個(250g)、水3.5カップ、バター大さじ2、即席オリエンタルカレー(粉末)1袋、ウスターソース適量、塩・こしょう少量、ご飯適量

●作り方
【1】豚肉は2cm角に切り、塩・こしょう少量(分量外)をふる。玉ねぎは1.5cm角に切る。じゃがいもは皮をむき2cm角に切ったら水に2分ほどさらして水けをきる。
【2】鍋にバターを溶かし、豚肉を入れて中火で色が変わるまで炒めたら玉ねぎ、じゃがいもを加え、さらに玉ねぎが透き通るまで炒める。
【3】【2】に水を加えて強火にかけ、煮立ったらアクを取り、蓋をして弱火で具材に火が通るまで15分加熱する。
【4】火を止め、カレー粉末を加えてよく溶かしてから再び弱火で煮込み、塩・こしょうで味を調える。
【5】ご飯を丸い形に抜いて盛り付け【4】のカレーをかけ、お好みでウスターソースをかけていただく。

【プロフィール】
奥田瑛二/1950年、愛知県生まれ。1979年、映画『もっとしなやかにもっとしたたかに』で初主演。1989年『千利休 本覺坊遺文』で日本アカデミー主演男優賞を受賞。1994年『棒の哀しみ』ではキネマ旬報、ブルーリボン賞など8つの主演男優賞を受賞した。

写真/深澤慎平 料理・スタイリング/柳瀬真澄

※女性セブン2024年8月1日号

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