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M-1王者・銀シャリが語る「賞レース」との向き合い方 「M-1のために漫才始めてないんで」 和牛、ハイツ友の会の解散をどう見たか?

NEWSポストセブン 2024年7月26日 15時57分

 2016年のM-1王者・銀シャリは、M-1を制して以降も漫才の新ネタをおろし続けている。現在もオール新ネタで回る全国ツアー『シャリとキリギンス』を開催中だ。昨今では、賞レースの結果が伴わない漫才師が解散するケースも多いが、長く漫才師を続けるモチベーションの源泉はどこにあるのか。銀シャリの2人に漫才やネタ作りへの思いを聞いた。(全3回の第1回。聞き手/中村計・ノンフィクションライター)

――M-1の出場資格を失ってしまうと、ネタ作りのモチベーションを維持に苦労するという話を聞きますが、2人の場合、そういうのはなかったですか。

鰻 ないっすね。

橋本 その感覚、まったくわからないんです。1ミリもないんで。M-1以外でも漫才するじゃないですか。なのに優勝したら漫才しなくなるって、本末転倒すぎませんか。切ないわ、そんなん。寂しいよな。

鰻 そうです、そうです。M-1のために漫才始めてないんで。なんやったら優勝してから始まるというか、大事やと思います。

――3月に女性コンビのハイツ友の会が解散したとき、それがすべての理由ではないのでしょうが、自分たちの形を変えると本当にやりたいネタではなくなってしまう、でも、このままでは優勝できないこともわかる、という内容のコメントがあって。自分たちの形がわかっているのなら、それは勝つことより大切なものを持っていると言ってもいいわけじゃないですか。でも辞めてしまうということは、やはり今の芸人にとって、賞レースの存在というのはとてつもなく大きいんだろうなという気がしたんです。

鰻 そこの考え方、人それぞれなんやろうなと思います。

橋本 賞のためにやっているという風に読めてしまうかもしれませんけど、それだけではないと思いますよ。仮に、そうだったとしても、ぜんぜん間違ってないし、勝ちたいんやという気持ちはとても素敵なことだと思うんですよね。だから磨かれる部分も絶対にありますから。

「解散するときの感覚が違う」

――やはり、自分たちを信じられなくなったとき、受賞歴というのは1つのストッパーの役割を果たしてくれるのではないかと思うんです。自分たちは認められているんだ、と。銀シャリがM-1で勝ったときはどうでしたか。

橋本 まあ、漫才を辞めるという選択肢はなくなりましたよね。優勝っていうのは運とかもあると思うんですけど、辞めなくていいと言われている感じはありました。

鰻 でも、今も危機感はありますよ。獲ってるからどうというものでもないと思いますけど。

――やや触れにくいかもしれませんが、和牛も、もしM-1で勝っていたら解散という道を選ぶことはなかったのかなとも思ってしまうのですが。

橋本 そこは関係ないと思います。

鰻 だって、M-1で優勝していなくても十分、認められていましたから。

――一度、オール阪神・巨人さんとおぼん・こぼんさんに対談をしてもらったことがあるんです。2組とも何度も解散の危機があったけど最終的に続けることを選んだのは、お金になるからだと言っていたんです。漫才コンビの場合は、仕事が鎹(かすがい)になるんだと。そこは4人の共通した意見でした。でも和牛の解散はその法則からも外れているんですよね。近年、これだけ人気があるのに解散した例はそんなにないじゃないですか。

橋本 師匠方の場合は、どんな倦怠期も稼ぎになるという、ある意味、ドライな感覚で乗り越えてきたということなんでしょうね。でも、それはそれでいいことですよね。

鰻 ただ師匠方の感覚と、今の僕らの感覚はちょっと違うと思います。コンビの解散が相次いだとき、ある師匠が「まあ、また再結成あるかもしらんからな」と言っていて。世代によってだいぶ違うんやなと思いました。けっこう上の師匠方は解散しても、のちに再結成していますからね。漫才師の解散なんて、よくあることやでという感じなんでしょうね。

橋本 でも今の世代の芸人は「もっかい」はない気がするな。解散するときの感覚が「よくあることやで」ではないと思うので。

M-1で優勝していなかったら……

――同期のプラス・マイナスの再結成はないですか?

橋本 ないですね。

鰻 兼光なぁ。ないやろな。

――2人はもしM-1で優勝していなかったら、THE SECONDに出場していましたか。

橋本 出てると思いますよ。

――M-1王者という肩書きがなく、かつTHE SECONDのない時代だったら、今、どうしていたと思います?

鰻 変わらず漫才はやっていたと思います。出られる賞レースがあったら、出るというだけで。

橋本 どんな賞を獲っていようが、獲っていなかろうが、漫才師は最後は自分との戦いじゃないですか。何のご褒美がなくても、おもしろいと思うネタを作り続ける。その作業自体が、脳内から幸せ汁が出てくるやつなんで。映画『PERFECT DAYS』の役所広司さんみたいなイメージですかね。日々のルーティンを淡々とこなしていくことに幸せを感じる。認められるとか認められないということでもなく。僕は世界一の銀シャリファンでもあるんですよ。だから、ファンとしてがっかりしたくないというのもあります。

鰻 そんだけ。ほんまに。今の銀シャリ、おもしろいなあって。ずっと思われたいだけっす。

(全3回の第1回。第2回に続く)

◆撮影/山口京和

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