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【7月28日は世界肝炎デー】石川ひとみ、B型肝炎への誤解と偏見を乗り越えて…同じ病と闘う仲間と悩みを共有することが支えに

NEWSポストセブン 2024年7月28日 11時15分

 日本での肝炎ウイルス感染者は、B型肝炎が110万〜140万人、C型肝炎が119万〜230万人とされている。日本だけでなく、世界レベルで蔓延するウイルス感染を防止するため、WHOは2010年に7月28日を世界肝炎デーと定めた。早期発見がなにより大切とされるこの病について、当事者の声から“自分事”として考えたい。

「“なぜ私だけ、点滴を受けているんだろう……”と思ったこともあったけれど、振り返れば、これまで起きた出来事は、私の人生にとって全然マイナスじゃなかった。すべてが血と肉となり役に立っているんです」

 そう朗らかな笑顔で話すのは、昨年デビュー45周年を迎えた歌手の石川ひとみ(64才)。1978年に『右向け右』でデビューして以降、1981年にリリースした『まちぶせ』のヒットで『NHK紅白歌合戦』に出場するなど第一線で活躍していたが、1987年にB型肝炎を発症。母からの母子感染だった。

「まだ27才で、初めてのミュージカルを控えて稽古に取り組んでいたときです。出演者の皆さんと昼食を食べていても、食欲がない。異常なほど体がだるく、稽古が終わって家に帰ると、そのままベッドに倒れ込む日々が続きました。寝ても疲れがとれなくて、朝が来なければいいのにと思うほどでしたね」(石川・以下同)

 体調不良を感じる少し前、病院でたまたま血液検査を受けていたという石川は、B型肝炎のキャリア(持続感染)であることを告げられていた。「定期的に肝臓の数値をチェックしてください」と言われていたが、まさか肝炎を発症しているとまでは思わなかった。

「ミュージカルは、歌だけでなく、お芝居もダンスも覚えることがたくさんあります。プレッシャーもそれまで感じたことのない大きさで、体調が悪いのは私の心が弱いからだと思い込み、とにかく頑張らなきゃと必死でした」

仕事と命“どちらが大事ですか?”

 だがようやく稽古も終わりに近づいた頃、めまいで倒れて病院に運び込まれる。

「めまいの治療のため、一泊入院したのですが、ふとB型肝炎のキャリアだったことを思い出し、ついでに血液検査をお願いしてみたんです。精密検査の結果、発症がわかり、医師から『いますぐ入院してください』と告げられました。

 でもミュージカルの初日まであと10日という状況で、大勢の人に迷惑をかけてしまう。『なんとかなりませんか』とお願いすると、『仕事と命、どちらが大事ですか?』と聞かれて、初めて深刻な状況なのだと理解しました」

 舞台の降板が決まり、入院生活が始まった。肝機能障害の治療は「安静」が基本となるため病室から一歩も出られない日々が続くが、入院生活は思ったほど退屈ではなかったという。

「これまで無理しすぎていたからか、ベッドで体をゆっくり休めることができたのはありがたかったです。ただ、病院の壁に貼られていたカレンダーを見るのはつらかった。日付を見ると、『舞台初日なのに、私は病院にいる』と嫌でも思い知らされ、気持ちがふさいでしまう。看護師さんにお願いして外してもらいました。一緒に頑張っていた仲間の活躍を見るのがつらくて、一時期はテレビを見るのも避けていました」

想像を超えた理不尽な差別と偏見

 治療は順調に進み、少しずつ外出できる時間は増えていった。だが退院してもすぐに元の生活には戻れない。毎週通院しながら、1年間は自宅で療養し、少しずつ仕事に復帰していった。そんな中、石川を苦しめたのは、想像を超えた理不尽な差別と偏見だ。

 肝炎は“国内最大級の感染症”ともいわれ、自覚症状がほとんどないため肝がんや肝硬変などに重症化しやすい。主に血液・体液を介して感染し、握手など通常の接触では感染しないが、当時はいま以上に誤った知識が広がっていた。

「街を歩いていたときに、ファンのかたにお願いされて握手をしていると、通りがかりの人から『その人はB型肝炎だから、握手したらうつるぞ』と言われて、びっくりして……。何もしていなくても『あの人、B型肝炎の人だ!』と名指しされたこともありました」

 気分転換にスイミングスクールに通い始めると、保護者から「子供に感染すると困るから、やめさせてほしい」と苦情が寄せられたこともあった。

「そのときは、スクールのかたから『感染しないことはわかっているので、気にしないで通ってください』とおっしゃっていただきました。保護者の気持ちもよくわかります。私が逆の立場で正しい知識がなければ、同じことを言ってしまったかもしれない。直接、真実を伝えられないのがもどかしかったです」

 一方、支えになった人もいた。夫である音楽プロデューサーの山田直毅さんもそのひとり。デビュー当時から石川の音楽監督を務め、発症後も変わらず石川を励まし続けた。

「夫からは本当に、たくさんの元気をもらっています。肝炎というと“感染する”という印象が強く、昔は特に避けられることが多かった。でも夫は、『そんなことはないよね』と寄り添ってくれて、どうすべきかを一緒に考えてくれた。前を向くことができたのは彼のおかげです」

 同じ病と闘う仲間と知り合い、悩みを共有できたことも大きな支えになったという。

「どんな病気でも、つらいときは誰かに頼って吐き出すことが大事だと思います。インターネットなどを使えば、昔と比べて人とつながりやすくなっている。わかってくれる人がいるだけでパワーをもらえるので、ひとりで抱え込まないことを忘れないでほしい」

症状が出なくても感染の可能性

 発症から37年、病と向き合いながら今年9月にはビルボード横浜とビルボード大阪での公演を控えるなど、いまなお精力的に活動を続けている。現在、B型肝炎の症状は安定しているが、ウイルスは体から消えることがないため、いまも3か月に1度の通院と経過観察は欠かせない。

「“沈黙の臓器”とも呼ばれる肝臓は、悪くなってもなかなか症状が表れません。B型肝炎は、あるとき急に数値が悪化して、肝不全や肝がんになることもあります。症状が出ていない人でも感染している可能性があるので、『肝炎ウイルス検査』を一生に一度は受けてほしい。血液検査で調べることができます」

 肝炎について正しい情報を発信すべく講演会や啓発活動などにも積極的に取り組む一方で、年を重ね、肝炎以外の病気とも向き合っている。12年前から膠原病の一種「シェーグレン症候群」の治療を続け、2年前には変形性股関節症で人工股関節の手術を受けた。この先、B型肝炎が再燃するリスクもあるが、“先のことは考えない”がモットーだ。

「不安はなくならないけれど、いまは元気に過ごせているし、昨日だってライブで歌ってきました。この先、何かあっても絶対になんとかなるはずなので、起きてもいないことで悩まない。何か起きたときに考えればいいというスタンスで生きています」

“沈黙の臓器からのメッセージ”を、私たちは決して見逃してはいけない。

※女性セブン2024年8月8・15日号

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