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「8人も相手をしたのにお金をくれなかった」「フォロワーは売春の潜在的な客」29歳パパ活女子はなぜ49歳男性を刺したのか法廷で明かされた“乱倫パーティ”の実態

NEWSポストセブン 2024年7月27日 16時1分

 7月18日、2023年5月に神奈川県・JR平塚駅前でAさん(当時49歳)の腹を刺して殺人未遂などの容疑で逮捕された伊藤りの被告(29)に、横浜地裁小田原支部は懲役5年6か月の判決を下した。公判では弁護人、検察官から生い立ちに関する質問が相次ぎ、伊藤被告の激動の半生が明らかになった。後編ではなぜ伊藤被告が“乱倫パーティ”に参加するようになり、凶行にいたったのかに迫る──。【前後編の後編。前編から読む】

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 2023年1月、伊藤被告はマッチングアプリで知り合った男性Bさんに乱倫パーティに誘われる。こうしたパーティは初めてだったというが、「お金を稼げるならいいや」と参加を決意。Bさんは界隈で顔が利くように見えたという。

 2月5日、Bさんに誘われて参加した乱倫パーティで、被害者Aさん、Cさん夫妻などと知り合う。この日のパーティは愛好家による会だったため、伊藤被告は性行為をしたものの報酬は発生せず。お金を稼げなかった伊藤被告は宿泊先に困り、BさんとともにAさんの滞在先のホテルに宿泊する。そこでBさんから「Aさんはこの界隈で30年近く稼いでいる」などと説明を受けた。この時、伊藤被告は「自分も使ってもらえるというか、生活を楽に出来るのではないか」と考えたという。

 以降、伊藤被告はAさんとX(旧Twitter)のDM(ダイレクトメッセージ)でやりとりを開始。そのなかでAさんに自分の裸の写真を送っていたことも確認されている。伊藤被告は「パーティの資料として」と口にするが、「気を引く目的もあった」と当初、Aさんに好意を抱いていたことも供述している。

「Xのフォロワーは売春の潜在的な客」

 2人の関係がこじれるきっかけとなったのは2月9日。AさんとCさん共催の乱倫パーティでのことだった。女性の参加者は伊藤被告だけで、参加男性8人全員を相手にした。あまり乗り気ではなかったというが、「流れとしか言いようがない」「相手をしなきゃいけないんだな」と供述している。

 パーティ終了後、CさんはAさんに1万5000円を渡していたという。後日、伊藤被告はCさんから「Aからお金もらった?」というDMが来たことで、この1万5000円の存在を知ることになる(一方のAさんは証人尋問で「駐車場代としてもらった」と自分に渡されたものだと主張)。

 これで伊藤被告に複雑な感情が生まれたという。「Aさんから“好きだ”とかメッセージをもらっていたのに、嘘をつくなんてどういう気持ちなんだろうと、不思議な気持ちになった」。しかし、Aさんへの好意は捨てきれなかったようで、DMやLINEなどでやりとりは続け、伊藤被告が「今まで通り好き」「一緒にいたい」と送っていたことも確認されている。

 くすぶり続ける不信感により徐々に感情をコントロールできなくなってきた伊藤被告。2月、伊藤被告が仲の良い女友達と旅行していたときに、たまたま通話していたAさんが「(女友達に)挨拶したい」と口にしたところ、伊藤被告は「彼女もパーティに呼んで、私のようにお金も払わないで使うのではないか」と強い不安を抱く。

 後日、伊藤被告から相談を受けたBさんとCさんが、Aさんと話し合いをした結果、Aさんは「もう伊藤に関わらない」と発言。伊藤被告もAさんのXなどをブロックしている。

 約2か月間、互いに関わることもなかったが、4月27日に決定的な一件が起きる。

 伊藤被告は、Aさんがある男性とのやりとりで「しずか(伊藤被告のハンドルネーム)も呼ぼうか?」などと発言していたことを知人から教えられる。この男性は伊藤被告のXのフォロワーであるものの直接の面識がないため、「面識がない男性に私のことを話していたと知り、理解できない、約束と違うという気持ちが強くなった」「言いたいことがあるなら直接言えばいい」「他人に嘘の話をされたら困る」と怒り、そして「フォロワーは(自身が行う)売春のための潜在的なお客様で、悪いことを言われたり書かれたりすると生活できない」と強い危機感を覚えるようになったという。

 感情を抑えられなくなった伊藤被告。5月2日に乱倫パーティ、翌3日には乱倫パーティ仲間たちの一泊旅行に参加しているが、それぞれでAさんに激しい怒りを見せ、周囲になだめられている。

昼職での就職が決まっていたが、「Aさんがいては生きていけない」

 犯行を決意した伊藤被告は「マイコ」というXの偽垢を作り、Aさんと接触。一泊旅行から帰京した5月4日夕方に平塚駅前で会う約束を取り付ける。この時点でAさんとの決着方法については「Aさんが謝る」「刃物で脅す」「刺す」の3択で考えていたという。

 パーカーの袖に事前に購入した果物ナイフを忍ばせた伊藤被告は、Aさんの姿を見かけると「会いたいと言っていたから会いに来ました」と発言。Aさんも驚いた様子を見せたというが、「1人できたの?」と返す。

 防犯カメラの映像によると、2人が会ってからAさんが刺されるまでの間はわずか2分ほど。最後はAさんが「刺すなら刺せ」といったことで伊藤被告はAさんにナイフを2回突き立てた。犯行直後の警察の取り調べでは「1回目は手応えが弱かった」「ようやく傷つけられた」「こんなしょうもない奴刺したのかと思った」などと供述していたが、現在は覚えていないという。

 実は伊藤被告は5月8日からBさんの紹介で昼職としてコールセンターで働くことが決まっていた。しかし、生活が安定するまで援交やパパ活は続けていく考えだったため、「口で言い合っても無理だし、Aさんが生きたままだと私が生きていけないという気持ちだった」とはっきり口にした。

Aさんは「絶対に許さない」

 法廷ではAさんの傷痕の写真も公開された。腹部を25ミリも縫い、傷痕はいまも鮮明に残っている。Aさんは被告人のような女性を見かけると動悸が止まらず、バイトの応募をしても、ネットに名前が出てることを理由に断られていると証言。伊藤被告に対しても「同じ傷を負わせたい。同じ痛みを負わせたい。たった2回しか会ってないのに、なぜ変な恨みを買われなければいけないんだ」などと強い怒りを見せた。

 一方、伊藤被告は事件から1年経ち、どう思っているのか。弁護人に問われた伊藤被告は「人を刺すということは本当によくなかった」「証拠として提示されたAさんの傷痕を見たら想像以上だったので申し訳なかった」と口にするものの、「そのこと(傷痕が残った)については申し訳ない」と含みを持たす。

 Aさんへの感情は処理できないままのようで、「どこでなにをどうしていたらこういう結果にならなかったのかが、まだわかっていない」と述べ、涙声に。「Aさんの真意も分からないし、いまも十分反省できていない。自分自身と向き合って考え続けなければいけない、過去と未来について」と声を震わせながら口にした。

家族、乱倫パーティの仲間とは縁を切る

 伊藤被告は手紙のやり取りをしていた母親に公判の日時を伝えたというが、傍聴席に母親らしき人物は確認できなかった。物心つく前に離婚した父親も一度面会に来たというが、「無神経なことを言われた」と漏らしていた。

 伊藤被告は罪を償った後は家族、乱倫パーティの関係者と縁を切り、「できるだけ穏やかな生活がしたい」と、大好きな作家・伊坂幸太郎ゆかりの地である宮城県で生活したいと考えているという。鑑定医から指摘された「お金への強い執着」に対しても「落ち着いた生活をして刺激を求めないようにする」とハンカチで涙を拭いながら答えた。Aさんの治療費550万円も出所後、少しずつ返していくという。

 7月18日の判決で裁判長は最後に「偏った性格が事件に繋がったものの、その性格もまた自分の個性。その個性がいい方向に繋がればいい個性として発揮できる。自分の個性にとことん向き合い、把握して掴んで出てきてほしい。福祉など頼れるものに対し躊躇はいらない。人の縁に恵まれればいいと裁判所一同で願います」と言葉を添えた。

(了。前編から読む)

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