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【どうなる自民党総裁選】派閥が解散しても影響力が大きいキングメーカーたち “噛ませ犬”候補を乱立させて決選投票で意中の人物を勝たせるやり口

NEWSポストセブン 2024年7月29日 13時13分

 瀕死の岸田政権を尻目に、9月の総裁選に向けた「ポスト岸田」の動きが活発化している。「次期総裁にふさわしい人」の世論調査では各社とも石破茂氏が他の候補を圧倒的にリードしている。が、世論通りには進まないのが総裁選。長年取材してきた政治のプロたちの票読みとは。【全5回の第1回】

「派閥の締め付け」が利かない初めてのケース

 すでにさまざまな候補者の名前が取り沙汰されている自民党総裁選だが、まだ正式に出馬表明した議員はいない。

 総裁選は誰が先に名乗りを上げるかによって情勢が大きく変わる。そのため有力候補は互いに出方をうかがい、牽制し合っているのだ。

“本命”とされる石破茂・元幹事長は、出馬の判断を「お盆がひとつの目処だ」と記者団に語り、岸田文雄・首相を支える立場にある茂木敏充・現幹事長も「常識的には8月から9月上旬だろう」とテレビ番組で話した。

 自民党の派閥政治では「親分が右と言えば右、左と言えば左なのだ」(金丸信・元副総裁)とされ、総裁選でも、派閥所属の議員は親分が決めた候補に投票すればよかった。

 それが岸田首相の「派閥解散」によって、今回の総裁選は「派閥の締め付け」が利かない初めてのケースになると見られている。

“噛ませ犬”を用意する

 しかし、だからといって議員や党員による“自由で民主的な投票”にはなりそうにない。

 キングメーカーと呼ばれる自民党の実力者たちが、そうはさせじと権謀術数をめぐらせているからだ。彼らは意に沿わない候補を落とすために、わざと“噛ませ犬”的な候補を乱立させて票を奪い、決選投票に持ち込んで意中の候補を勝たせるといった手段を取る。

 総裁選の仕組みがそれを可能にしている。

 自民党総裁選は、1回目の投票は国会議員投票(衆参373票)と約110万人の党員投票で行なわれる。各候補が獲得した党員票は、議員票と同じ373票に換算されて配分される。総数は746票だ。

 1回目の投票で過半数を獲得した候補がいない場合、上位2人による決選投票になる。

 決選投票の計算方法は1回目と異なり、国会議員の再投票(373票)と、都道府県連票(47票)の合計420票で行なわれる。都道府県連票は1回目の党員投票が都道府県別に集計され、決選に残った候補のうち、その都道府県の票を多く取った候補が各1票を得る。

 決選投票は議員票の比重が重いため、1回目の投票で多くの党員の支持を集めて1位となった候補が、決選投票で2位の候補に逆転されることが起きる。2012年総裁選では、1回目の投票で1位だった石破氏が、2位の安倍晋三・元首相に決選投票で敗れた。

「前回の2021年総裁選の事前予想では、世論調査で人気の高かった河野太郎氏(現・デジタル担当相)に党員票が雪崩を打って流れ、1回目の投票で過半数を取る可能性があった。

 そこでキングメーカーの安倍氏は“河野阻止”のために高市早苗氏(現・経済安保担当相)を擁立。河野氏に流れそうな党員の保守票を高市氏が奪い、河野氏の票を減らした。そのうえで、議員票の比重が重い決選投票で岸田首相が河野氏に勝利した。高市氏は河野票を減らすための“噛ませ犬”として利用されたと見ていい」(自民党閣僚経験者)

 その安倍氏が亡くなり、最大派閥の安倍派も解散を決めたことで、現在、自民党で総裁選に大きな影響力を持つ実力者は麻生太郎・副総裁と菅義偉・前首相の2人だ。その2人が対立するか、手を組むかで総裁選の構図は大きく変わってくる。

 そこで本誌・週刊ポストは自民党総裁選を長く取材してきた政治ジャーナリストや政治評論家の協力で、総裁選の展開をいくつかのケースに分けて詳細にシミュレーションした。次回記事から想定されるシナリオを紹介していこう。

(第2回に続く)

※週刊ポスト2024年8月9日号

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